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インディ・カー・シリーズ 第5戦 インディ500【バンプ・デイ】フォト&レポート

<US-RACING>

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予選最終日となるバンプ・デイを迎えたインディ500。朝から青空が見えているものの、点々と広がるまだら雲が太陽の光を遮り、肌寒さを感じた。今週多くのドライバーを悩ませている強い風は相変わらず吹き続け、観戦には薄いジャケットが必要なほど。最後の出場チャンスを掛けてバンプ・デイ争ったのは、ロジャー安川、バディ・ラジアー、マーティ・ロス、マックス・パピス、A.J.フォイト4世、マリオ・ドミンゲスの合計6人。6時間用意されたセッションは、気温が低くなってスピードがのりやすい“ハッピー・アワー”と呼ばれる最後の1時間にアタックが集中し、様々なドラマが生まれることになった。

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午後12時のセッション開始から4分という、早い段階で予選アタックを行ったA.J.フォイト4世。チームメイトのエド・カーペンターがポール・デイにポジションを決めた一方で、フォイト4世はミスやトラブルが相次ぎ、一度も予選アタックを行わずに最終日を迎えてしまった。前日までの悪い流れを断ち切るかのように早めのアタックを敢行すると、219マイル台を安定して刻み、平均スピード219.184マイルでマーティ・ロスをバンプ・アウト。ようやく決勝進出を決めることに成功した。ところがその後のプラクティスで、燃料補給口がしっかり締まっていないまま走行したため、あろうことか燃料と引火した炎を噴き出しながらスピンしてしまう。マシンはウォールに激突し、見るも無残な姿に。ポジションを確保したものの、いまだに調子が上ってこないフォイト4世だった。「今月は厳しい戦いになっているよ。予選を通過できたことは気分が良いけど、確かにまだストレスが残っている感じがするね。ここはどのコーナーも微妙に違うから、それぞれ異なったアプローチをしなくてはいけないんだ。スピードもかなり高いので、簡単じゃないよ」とフォイト4世。決勝までになんとか調子を取り戻したいところだ。

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予選開始早々、ファイト4世にバンプ・アウトされてしまったマーティ・ロス。生き残りを掛けてマシン・セット・アップを見直し、午後1時30分に予選アタックを行った。前日のアタックは全くスピードが伸びず、215マイル台が精一杯だったが、今日は1周目と2周目に219マイル台を刻みよい流れを作る。3周目は218.3マイルへ一気にスピードが落ちてしまうものの、4周目に再び219.2マイルのスピードを取り戻し、4周平均218.965マイルでバディ・ラジアーをバンプ・アウトした。だが、この後ラジアーが再びポジションを取り返し、ロスは再度“オン・ザ・バブル”へ。セッション終了間際にマリオ・ドミンゲスがアタックを敢行し、1周目に219.780マイルを記録すると、ロス・レーシングに緊張が走ったが、ドミンゲスは2周目にクラッシュを喫した。ここでロスの順位が確定し、3年連続のインディ500決勝出場を決めた。「かなり安定したマシンに仕上げることが出来たね。クルーのみんなが頑張って素晴らしいマシンを用意してくれたんだ。彼らは2日間も寝ていないんだよ」と喜ぶロス。現役最年長49歳のロスが決勝ではどんな走りを見せるだろうか。

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16度目のインディ500出場を決めた1996年の覇者であるバディ・ラジアー。一時はロスにバンプ・アウトされてポジションを失ったが、セッション残り13分で219.015マイルを記録し、見事にポジションを取り戻して見せた。最後で予選アタックをまとめあげたところは、さすがベテランといえる。「とても感動的な気分だよ。ここで走り初めた頃はレースに出れないときもあったからね。今日予選落ちしてしまった人たちの気持ちも分かるんだ。このレースはほんとうに特別なレースだから、参戦することに大きな意味がある。それにマシンが速ければ、言うことはないよ。トップ3に入れば感動的な気分になるのはもちろんだけど、こういったぎりぎりで決勝進出が決まるようなときも同じくらい興奮するよ」とラジアー。最後にポジションを獲得したドライバーとして、ファイアストンから賞金5万ドルを受け取った。

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ラスト・アタッカーとして登場したドミンゲスは、1周目に219.780マイルを記録し、このまま行けばマーティ・ロスをバンプ・アウトできるスピードだった。しかし、2周目のターン1で、ドミンゲスのマシンは無情にもリアが流れてスピン。バランスを崩したマシンはそのままリアからウォールに激突した後、コース上で浮き上がりかけ、ターン2のウォールに張りついてようやく止まった。この瞬間ドミンゲスのインディ500挑戦は終わり、同時にパシフィック・コースト・モータースポーツのインディ500初出場は翌年へ持ち越しとなった。「チームやスポンサーにとって、ほんとうに最悪の一日になってしまったね。マシンはどうしようもないくらいルーズだったし、最後のアタックは一か八かという感じだったんだ。唯一満足しているのは、最後まで一生懸命やったってことだね。ほんとうに全力を尽くした。今はゆっくり休んで、次のミルウォーキーに備えるよ」と肩を落とすドミンゲス。スーパー・マリオの勇姿が見られるのは次戦ミルウォーキーからとなってしまった。

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昨日のプラクティスでクラッシュを喫したマックス・パピス。チームは午前1時まで掛かってマシン修復を行い、今日の走行に間に合わせた。ところが、突貫作業で修復したマシンはクラッチ・トラブルが解消されず、パピスをもってしてもプラクティス中にマークしたスピードは215マイル台が精一杯。結局、パピスはセッション終了の午後6時までに1度も予選アタックを行わず、インディ500撤退を余儀なくされた。「決勝に出られないなんて、まだ信じられないよ。全ての力を注いでいたし、僕たちのマシンは十分速かったと思っているんだ。昨日のセッションで残り30秒というところでクラッシュしてしまったこともそうだけど、インディ500はドラマチックなイベントだというのを改めて思い知ったよ。言葉では表せないほどがっかりしている」と落胆するパピス。“マッド”マックス復活はかなわなかった。

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ロジャー安川のインディ500出場記録は5回でストップすることになった。資金の無いチームのために用意されている“セカンド・ウィーク・プログラム”を活用し、今週から走行していた安川。このプログラムでは、エンジンのマイレージや、一日2本しかタイヤが使えないことなど、様々な制限が付きまとい、思うようにスピードを上げられない1週間となる。最終日の今日は、セッション残り26分でバンプ・アウト。直前のプラクティスで219マイル台のスピードが出せることを確認しているため、グリッド再獲得に向けて午後5時38分と午後5時52分にアタックを行う。しかし、風向きが変わったことで安川のスピードは218.559マイルまでしか上らず、残念ながらここで安川の挑戦は終わることになった。

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「プラクティスの走りから予選通過には絶対的な自信があったのですが、いざ予選アタックになると、いきなり風向きが変わってしまい、バック・ストレートでスピードが伸びなくなってしまいました。最終的にスピードが落ちてしまったから、ビックリしています。マリオ・ドミンゲスが出たとき、すでに彼のスピードが落ちていたので、風向きが変わったのかもしれないと思いました。今年はレベルが高くなったことで、思っていた以上に厳しい戦いになりましたね。それでも自分のベストは尽くしましたし、チームも一生懸命やってくれました」

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予選アタックが行われない間、セッションはプラクティス・モードに切り替えられ、各車が決勝に向けてセット・アップを繰り返していた。そのなか、今日はトニー・カナーンが武藤英紀のマシンに乗る珍しい場面が見られた。昨日のプラクティスでクラッシュを喫した武藤のマシンを修復し、カナーンがシェイクダウンをすることになったということだ。この日カナーンは武藤のマシンで51周を走り、218.580マイルをマーク。カナーンからマシンを引き継いだ武藤は22周を走り、218.248マイルでプラクティスを終えた「はじめにマシンを直してくれたチームに感謝したいと思います。プラクティスではトニーがシェイクダウンをやってくれるということで、彼からのフィード・バックは僕が得ている感触とかなり近いものでした。僕がマシンに乗る前にいくつか変更を加え、マシンは良くなっています。カーブ・デイでレースに向けた最終調整ができると思いますね」と武藤。ロジャー安川が決勝進出を逃したことで、日本人の期待は武藤に集中する。

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予想通り激しいバンプ・アウト合戦となった予選最終日。今シーズン直前に決まったチャンプ・カーとの合併は、インディカー・シリーズのレベルを一気に上げ、インディ500で確保された33台のグリッドに入ることさえも厳しくなっている。2週間にわたって行われてきた予選の中で、4人のドライバーが決勝進出を逃し、残念ながらロジャー安川もその中に含まれることになった。決勝で武藤英紀との日本人対決が見られないのは悔やまれるが、25日の決勝では熾烈な予選を勝ち抜いた33人のドライバーによる、レベルの高いレースが観られることは間違いない。