<US-RACING>
イベント期間が3週間に及ぶインディ500で、前半の山場となるポール・デイ。ポール・ポジションから11位までを決める予選初日は、正午12時に戦いの火蓋が切って落とされた。セッションは午後6時までと長く用意されているが、エントリー台数が多いために開始直後から続々とアタックが行われ、序盤からスコット・ディクソン、ダニカ・パトリック、ダン・ウエルドンとポジションが入れ替わる、白熱したトップ争いとなる。午後3時30分を過ぎると2回目のアタックを行うドライバーが現れ、ここでライアン・ブリスコーが226マイル・オーバーの226.110mphを記録。しかし、すかさず直後にアタックしたディクソンが226.366mphをたたき出し、トップに躍り出た。セッション終了残り22分で、チームメイトのウエルドンが再びアタックを行うと、1周目にディクソンを上回る226.368mphを記録して会場内の緊張が高まるが、ウエルドンは最後までこのスピードを維持できず、ディクソンに0.256mph届かなかった。そしてセッションは、ジャスティン・ウイルソンのアタックを最後に、終了時刻の午後6時を迎え、ディクソンが宣言どおりのポール・ポジションを獲得。栄光のポール・ウイナーの称号と、賞金10万ドル(1ドル=105円で1050万)を手に入れた。
キャリア通算11度目のポール・ポジションを、インディ500で決めたディクソン。11回中の3回が今シーズン挙げたもので、「今年はアグレッシブなスタイルでいく」とシーズン前に語っていた通り、ディクソンの勝利へのこだわりが、明確に予選結果に現れている。「初めてのインディ500のポールだから、ほんとうに大きな意味があるよ。今日は僕だけでなく、みんなにとってタフなセッションだったからこそ、この意味が大きいんだ。みんなはサーキットで見ることができないけど、チームはワークショップで多くの時間を費やして努力してくれている。彼らにはほんとうに感謝しているよ」とディクソン。ポール・ポジションという最高の位置から、初のインディ500制覇を狙う。
2005年のインディ500ウイナーであるウエルドンが2位に付け、チップ・ガナッシが1-2体制を構築した。同じチームのドライバーが1-2を獲得したのは、2006年にペンスキーをドライブしたサム・ホーニッシュJr.とエリオ・カストロネベス以来となる。「チームの素晴らしい努力の結果が出たね。チップ・ガナッシのみんなはほんとうに一生懸命やってくれるんだ。スコットと1-2でフロント・ローに並べたのは、とても印象的で素晴らしいことだよ。もちろんポール・ウイナーになれなかったのは残念だけど、チームにとってはとてもハッピーな結果さ。彼らは信じられないくらい素晴らしい仕事をしたんだ」とウエルドン。3年ぶりとなる勝利のミルクを手にするためには、最大のライバルとなるチームメイトのディクソンを倒さなくてはいけない。
昨年のインディ500で、スポット参戦ながら印象的な走りを披露したライアン・ブリスコー。名門ペンスキーのシートを手に入れた今年のインディ500は、チームメイトで2度のインディ500覇者であるエリオ・カストロネベスを抑え込み、見事フロント・ローをゲットした。これでペンスキーは4シーズン続けて、インディ500のフロント・ローを獲得しており、さすが名門というところを見せている。「ディクソンにポールを獲られちゃったけど、僕としてはとても良い走りが出来たと思っているよ。ダウンフォースのレベルが上手く整っていて、マシン・バランスはすごく良いし、しっかりした走りが出来たね。ディクソンがかなり速いスピードを記録しているから、もう少しやるべきことがありそうだよ」とブリスコー。まだ見ぬ初勝利を、インディ500というビッグ・レースで成し遂げることが出来るだろうか。
昨日までのプラクティスで総合5位に付け、のぼり調子の武藤英紀。1回目のアタックは7番目という早い順番でのアタックとなったが、223.653を記録し4番手につける。このあとコースの状態が良くなるにつれて、武藤を上回るドライバーが出てくるものの、9番手に留まり予選通過が見えてきた。ところがここでちょっとしたハプニングが起こる。予選時にテレビ・カメラ用のバラストを積んでいなかったため、最低重量が規定を下回り、車検を通過できなかったのだ。これで1回目のスピードは取り消しになってしまい、武藤の予選はもう一度やり直しとなる。しかし、もともと2回予選アタックをする予定だったという武藤は、スピード取り消しを意に返さず、午後5時16分に2回目のアタックを開始。ウォーム・アップは219マイル台と低かったが、アタック・ラップを223マイル台できれいに揃え、1回目を上回る223.887を記録した。このあと武藤を上回るスピードを記録したドライバーがいなかったため、ルーキー勢トップの9番グリッドを獲得。見事初日でグリッドを確定させた。
「1回目のスピードが取り消しになってしまったので、アタックを決めなくてはいけないというプレッシャーがあったんですけど、2回目で1回目よりスピード・アップできたのは良かったと思います。どっちみち2回目のアタックをすることになっていましたから、車検でひっかかったことにメンタルな影響はなかったですね。逆にチームのメカニックが落ち込んでしまったのが心配でしたよ。トップ11を目指して走っていたので、それが叶ったことも良かったですね。レースまでにまだやるべき事が沢山ありますから、決勝まで雨が降らないことを祈ります。トップ10スタートは良いポジションだと思いますし、完走しないと結果が付いてこないので、焦らずに一歩いっぽ着実に順位を上げてレースをします」
予選序盤を盛り上げたのはやっぱりこの人、ダニカ・パトリック。この日8番目のアタッカーとして1回目のアタックに臨んだパトリックは、ディクソンが出したそれまでのトップ・スピード225.178mphを破るべく、コースインする。ウォーム・アップ・ラップで223.184mphを記録すると、1周目に225.357をマークし、まずディクソンを上回った。2周目は若干スピードが落ち225.255、3周目ではさらにスピードが落ちてしまい、225.050mphとついにディクソンを下回る。もうダメかと思われた4周目、パトリックは奮起してもう一度スピードを取り戻し、225.126mphを記録。4周平均225.197mphとディクソンをわずかにかわしてトップに躍り出た瞬間、スタンドからは割れんばかりの歓声があがった。この後、ウエルドン、カストロネベス、ブリスコー、ディクソンにかわされ、結局5位まで下がってしまったが、この位置からどんなレースを見せてくれるのかファンの期待は高まるばかりだ。
インディ500では“インディ・ジョーンズ”のスポット・スポンサーが付いているマルコ・アンドレッティ。マシン・カラーリングだけでなくレーシング・スーツも“インディ・ジョーンズ”仕様となった。劇中に登場する主人公の格好を出来るだけ再現すべく、ショルダー・バックのストラップや、腰にはピストルのフォルダーと縄がレーシング・スーツに描かれているのだが、違和感は否めない。予選もこれまでプラクティスで見せていた好走ぶりとは打って変わり、ポール・ポジション争いに加われず、結局7位グリッドが精一杯だった。
昨年パンサー・レーシングで13年ぶりにインディ500出場を果たしたジョン・アンドレッティが、再びインディアナポリスに戻ってきた。5月を前に出場機会を探っていたアンドレッティが得たシートは、前日までジェイ・ハワードが乗っていたロス・レーシングのシート。予選初日の突然の交代劇に、チーム代表のマーガレット・ロスは「インディ500を前にチーフ・エンジニアが離脱してしまい、ジョンの経験が必要でした。ジェイはミルウォーキーでカムバックしますし、彼はとても良いドライバーです」と話す。ベテランのアンドレッティとはいえ、さすがにいきなりスピード・アップとは行かず、今のところ220マイル台に留まり、予選通過は微妙なところ。それでも「何が出来るかやってみるしかない」と語り、予選通過に照準を合わせてマシンを仕上げているところだ。
ポール・デイはセッション終了1時間前まで、ブルーノ・ジュンケイラやA.J.フォイト4世のスピンあったものの、大きな事故も無く進行していた。ところが予選終了が迫って、多くのドライバーが2回目のアタックへ準備を整えていたとき、ターン3でライアン・ハンター-レイがスピン。大きな衝撃音とともに外側の壁にぶち当たり、マシンの左半分は大破してしまった。これでセッションは12分間に渡って中断。残り26分で再開となるが、アタックできたドライバーは4人だけで、アタックを待つドライバーの予定は狂ったばかりか、盛り上がりの欠ける予選終盤となった。幸いハンター-レイは自らマシンを降りたものの、昨日はチームメイトのアレックス・ロイドが同じポイントでクラッシュしているため、レイホール・レターマンにとっては鬼門のターン3といえそうだ。
昨日までの雨がウソのように晴れ渡ったインディアナポリス・モーター・スピードウェイ。日中はようやくTシャツ一枚でも外を歩けるような気温となり、観戦にはもってこいの天候だった。明日は12位から22位までのグリッドを決めるセカンド・デイだが、天気予報は終日雨模様。夕方からは薄いまだらな雲が上空を覆いだし、早くも雨の予感がしている。明日の予選も無事開催されればいいのだが・・・