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インディ・カー・シリーズ 第3戦 もてぎ【決勝日】フォト&レポート

<US-RACING>

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メジャー・オープン・ホイール・レーシングで、女性ドライバーが頂点に立つ瞬間がついにやってきた。2005年のデビューから50戦目にして、ダニカ・パトリックがインディカー・シリーズ初優勝を飾った。予選6番手からスタートしたパトリックは、序盤から燃費作戦を敢行し、4回目のコーションで2回の燃料補給を行ったことが優勝への布石となる。燃料を極限まで絞込みながら順位を維持する難しいレースだったが、パトリックは全てを完璧にこなし、残り3周で燃料が苦しくなったカストロネベスをパス。そのまま初優勝のチェッカーへ突き進んだ。いつも強気に見えるダニカも、待ちに待った勝利の瞬間に感激の涙がこぼれる。「もう、いつ勝つのかって聞かれなくて済むわ。ほんとうにここまで来るのが長く感じた。今日は燃料の作戦がレースのカギだったけど、チームは完璧なタイミングでピットに呼び戻してくれたわね。エリオをパスしたときは自分でも信じられなかったの。最高よ!」と勝利をかみ締めた。初優勝を達成したばかりだが、「来週も勝つわ」と勝利宣言。ダニカ・パトリックの快進撃はまだまだこれからだ。

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序盤レースを率いたエリオ・カストロネベスは2位に終わった。パトリック同様、4回目のコーションで2回燃料補給を行ったカストロネベスだったが、スティント序盤にミクスチャーを絞らなかったことがあだとなる。レース終盤に向けて燃費モードに切り替えたが、さすがに残り3周はかなり苦しくなり、まんまとパトリックのパスを許してしまった。「序盤はマシンのバランスがよかったけど、それからバイブレーションが発生したんだ。ピットでも時間をロスしてしまったね。燃料をセーブしていたんだけど、ダニカが僕をパスした後で、彼女がリーダーだって気づいたんだ。でも彼女はすばらしい仕事をしたし、フェアにパスしてくれた。これでインディカーがコンペティティブなシリーズだと証明できたはずさ。優勝できなかったのは残念だけど、また歴史的瞬間に立ち会えたよ」とダニカを祝福するカストロネベス。勝利を逃したが、現在ポイントリーダーを突っ走る。

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カストロネベスからリードを引き継いだスコット・ディクソン。レース中盤から終盤に掛けて、レースは完全に彼のものだった。しかし速さがあっても、コーションの回数まではコントロールは出来ず、彼の燃料は残り5周で尽きて無念のピットイン。なんとか3番手でコースに復帰するも、パトリックを追撃するには時すでに遅く、そのまま3位でフィニッシュした。「今日はマシンの調子がよく、チームがよく頑張ってくれたね。シリーズ・タイトルを逃したシカゴランドのようなギャンブルはしなかったけど、燃料の作戦が全てだった。勝てるマシンだったから、かなりストレスが溜まるね。でもこの調子を維持していきたい」とディクソン。前戦はリタイアに終わったため、きっちりポイントを稼ぎ出したことだけは満足のようだ。

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初めての凱旋レースを11位で終えた武藤英紀。9番手スタートから力強い走りを見せていたが、悲劇は48周目に起きた。ピット・アウト時に同じタイミングで出てきたセーフティ・カーを追い越そうと、アクセルを開けたとたんにスピン。マシンは内側のウォールにヒットし、武藤はノーズ交換のために再度ピット・インを強いられる。これでラップ・ダウンとなってしまうものの、武藤は諦めることなく追い上げ、すばらしいオーバーテイク・シーンを何度も観客に披露。結局ラップを取り戻すことが出来ず、11位に終わったが、武藤の走りに観客ら大きな声援が送られた。

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「残念ですね。レース序盤は自分を落ち着かせてマシンを走らせていましたけど、低い気温でアグレッシブにタイヤを暖めすぎ、左フロント・タイヤにフラット・スポットを作ってしまいました。ずっとチェーンソーを持っているようなバイブレーションと戦わなくてはいけませんでしたね。自分のミスです。ウォールにぶつかったり、給油のトラブルから燃費走行を強いられるなど、色々ありましたが、学ぶことの多い一日でした。11位という結果は決して良くないですけど、このレースで経験したものを次のレースで活かせると思います」

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3年ぶりにインディ・ジャパンに戻ってきたロジャー安川。ぶっつけ本番という難しい状況ながら、順調に走行を重ねていた。ところが141周目、突如として左ブレーキがロックするトラブルに見舞われ、ホームストレート上にマシンを止めることに。ウォール接触は免れたものの、残り60周というところで無念のリタイアとなった。

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「リタイアとなってしまい残念です。決勝前に全然走れなかったので、無難なスタートで様子を見てから、戦略を考えようと思いました。出だしのバランスが悪く、ピットへ入るたびにチームと無線でコミュニケーションを取り、セッティングを調整しましたね。木曜日は“これじゃ乗れない”というマシンでしたが、レースをするうちにマシンが思い通り動くようになっていき、金曜日に走行があればもっと良いレースが出来たのではないでしょうか。完走は出来ませんでしたが、ウォールにぶつからずにレースを終えただけでもラッキーでした。インディ500に向けてチームと交渉していますので、出場できるように頑張ります」

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曇天のツインリンクもてぎ。午前10時からブルー・インパルスJr.による展示走行が行われ、ドライバー紹介のあと、11時1分に「スタート・ユア・エンジン」のコールがもてぎに響いた。夜を徹して行われた路面乾燥作業が実を結び、レースは午前11時6分にグリーン・フラッグ。8年ぶりに決勝が順延となり、土曜日の決勝を待ち望んでいたファンには残念な結果になってしまったが、今日再びもてぎを訪れた5万人のファンは女性ドライバーが初優勝する歴史の目撃者となった。

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思えばパトリックの快進撃はこのもてぎから始まった。2005年、まだ4戦を迎えたばかりのルーキー・ドライバーがいきなりトップを快走し、それが女性ドライバーだということに日本のファンは大きな衝撃を受け、彼女の名前を心に刻んだはずだ。あれから4年が経ち、もてぎで名を挙げたパトリックが、もてぎで初優勝をしたことに運命的なものを感じた。

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レースを終えたばかりのガレージ。翌週にはカンザスでレースが行われるため、ピット前にカーゴへ積み込むラックが並び、すぐに出発できるようになっていた。唯一の国外戦を終えたシリーズは、再びアメリカ国内に舞台を移し、今日のようなすばらしいレースを見せてくれるはずだ。パトリックの優勝で、まだ興奮冷めあらぬもてぎだが、早くも来週末のカンザスが待ち遠しい。