INDY CAR

ロジャー安川インタビュー

<US-RACING>

画像

いよいよ来週末に迫ったインディ・ジャパンを前に、2005年以来の参戦を果たすロジャー安川の記者会見が、ホンダ本社プレスルームで行われた。今回で日本人最多タイとなる4度目のインディジャパン出場となる安川。会見は約20分という限られた時間ではあったものの、3年ぶりの参戦が実現した経緯やレースへの意気込みから、もてぎに掛ける熱い思いや新しい予選方式とパドル・シフト導入によるレース展開など、かなり踏み込んだ内容も語ってくれた。
Q:まず、参戦の経緯から聞かせてください。
ロジャー安川(以下RY):話は2005年まで戻りますが、これまで3回もてぎのレースに出場して、一度も納得のいくレースができず、悔いが残っています。昨年、一昨年は話をまとめられなかったため、参戦を断念していたんですけど、今年はインタラッシュというIT関連会社の支援が早い時期に決定し、それに基づいてもてぎのプログラムをチームと交渉してきました。チャンプ・カーとインディカーの合併があり、アメリカの某メディアからもてぎの日程がずれるとか、レースがなくなるという報道があったため、1カ月半くらい方向性が見えないときもありましたが、2月半ばにほぼ参戦が決定していました。もてぎに関しては多くのファンが応援に来てくれますし、2年間もてぎに参戦していなくても、毎日のように応援メールを送ってくれる多くのファンがいますので、どうしても出たいという気持ちがありました。今回出場できたことをほんとうに嬉しく思います。
レース自体はテストもしていないので、ぶっつけ本番になります。もてぎに行ってからでないと、どんなマシンになるのか分からないんですね。ベック・モータースポーツというチームに関しても、今回初めて仕事をするのですが、過去2年間のインディ500もどちらかというとぶっつけ本番だったので、このようなシチュエーションにはだいぶ慣れました。いきなり乗って何をしなくてはならないのかという点に関しては、過去2年間で学んだ経験が活きてくると思います。
出場が今週決まって、来週レースということではなく、2ヶ月前から準備をすることが出来たので、チームと一緒に出来る限りのことをしてきました。とは言っても、インディカーのレースのレベルはすごく高いので、自分の目標はトップ10に入ることですが、トップ・チームだけの台数を数えるとほぼ10台埋まってしまうので、トップ10に入ることは簡単ではないと思います。一台体制で予選セットを考えることができないという理由もあり、決勝でトップ10に入れるような安定したマシンを、自分とチームが一丸となってレースまでに仕上げるということが、決勝までにしなくてはいけないことだと思っています。
Q:出場マシンはダラーラでしょうか?
RY:はい、ダラーラです。マシン自体は2005年にフェルナンデス・レーシングで使用していたものです。ほんとうかどうかは分からないですが、その車体がHPDの所有している風洞実験でテスト車として使用されていたということで、マシンのつくりはきれいですね。シートあわせでチームに行ったときに、チームがベテランのメカニックを雇って一生懸命マシンを仕上げていました。急に決まって、急いでマシンを組み立てていたら不安ですけど、今回は時間を掛けてマシンを組み上げているので、ちゃんと走るかどうかという心配はなさそうです。
Q:ダラーラの経験もありますよね?
RY:そうですね。2005年と昨年はダラーラで走っているので、そのときのノウハウやデータを活かせると思います。2003年にデビューした時は、用意されたマシンに乗って、「あーだよ、こーだよ」ということしか言えなかったのが、今は乗る前にマシン・セット・アップの数値を見るだけで、いろいろなアイディアを提供することが出来ますね。特にベックの場合、フルで参戦しているチームではありません。出ていない間にもセット・アップのトレンドをつかめるか、たとえばダンパーがこういうのを使って、スプリングレートはこうで、アンチロールバーはつけている、つけてないなど、タイヤのコンパウンドだけでも結構変わってしまうので、ホームステッドに行って回りのチームがどういうことをやっているかを研究していました。僕自身も暇があれば、一緒に仕事をしたことがあるメカニックやエンジニアに電話して、こっそり色々な情報を仕入れるという活動もしています。そのような活動はスポット参戦の重要なところで、そういった活動をしていないと、「行ってみなくちゃ分からない」という状況になってしまいますね。

画像

Q:特にもてぎというのはオーバルの中でも特殊なオーバルですからね。
RY:そうですね。基本的にタイトなセクションのターン3-4を、いかに速度を落とさず走れるかが鍵になるんですけど、その反面、ターン3-4のことばかり考えていると、ターン1-2でクラッシュしてしまうと思います。僕も2003年にクラッシュしていますし、昨年は松浦選手が同じところでクラッシュしているように、意外と落とし穴があるので、全体的に油断できません。テキサス、カンザスやケンタッキーのような1.5マイルのハイ・バンク・オーバルとは全然違う戦い方、ショート・オーバル的な走り方をしないといけないでしょうね。ドライバー的にはとてもチャレンジングで面白いコースなので、いつも走ることが楽しみです。

Q:今年から導入されるパドル・シフトはどうでしょうか?
RY:僕もパドル・シフトのマシンに乗るのが初めてなので、走ってみないと分からないです。けれど、今までのターン3-4は進入する前にギアを落として、ステアリングから手を離さなくてはならなかったのが、コーナーに進入してからギアを落とせる。もしくはコーナーの出口でトルクが足りないと思った時にもギアを落とせます。コース・コンディションにもよりますけど、昨年と同じ条件となれば、昨年より高いアベレージ・スピードが期待できるでしょう。オーバーテイク・ポイントになるターン3で追い越そうとすると、ちょっと無理をするアグレッシブな戦いになると思うので、過去何年かとレース展開が変わるのではないかと見込んでいます。
Q:新しい予選方式はどうですか?
RY:僕にとっては良いことだと思います。なぜなら、一発だけ速いマシンを作ろうと思うのと、4周続けて速いマシンを作るのではだいぶ違いますし、周りのみんなも以前のような予選専用セットで出てこないと思うので、レース・セットで予選を走ってもそれほど差がでないかもしれない。ホームステッドの開幕戦もそうでしたが、4周アベレージということになれば、意外と予選でのドラマがあるというか、4周走りきるまで何があるかわからないという流れが面白いです。特にもてぎはシフト・ダウンがあり、コンスタントに4周シフト・ダウンするのは難しい。各選手によってタイムのばらつきが出てくると思うので、アベレージで誰が速かったのかということにするのは面白いと思いますね。
Q:ツインリンクもてぎのインディ・ジャパンは、校外学習や遠足という形で幼稚園から高校ぐらいまでの若い世代が見に来るのですが、憧れの対象として見られるのはどうですか?
RY:個人的にレースをやるということに関して、自己満足の趣味がたまたま仕事だったということだと思うんですけど、それ以外の仕事がなにかと考えると、夢を売ることで子供たちや、まわりの人たちに自分もレースがしたいなと思ってもらえる選手にならなくてはいけないと思います。実際、僕も去年子供が生まれたので、子供が成長したときに「お父さんはすごかったんだな」というような選手にならなければいけませんね。それに向けて自分はまだまだ完璧ではないですし、日本ではF1がモータースポーツと思われがちなところを、アメリカン・モータースポーツ、インディカーというレースが面白いんだということをもっともっと分かってもらいたいと思います。

画像

Q:もてぎのレースでとくに悔いが残るレースというのはいつでしょうか?
RY:2005年でしょうね。ルーキー・イヤーの2003年はどたばたして、気が付いたらレースが終わっていたという状態でした。2004年は淡々と走って11位だったなという感じがします。2005年はトラブルがあってリタイアしてしまい、残念ながら最後まで走りきることが出来きませんでした。その当時マシンのパフォーマンスは良くなかったんですけど、せめて最後まで走りきりたかったと思っていたにも関わらず、リタイアしてしまったことに今でも悔いが残っています。日本で全然レースをしていなくても、多くのファンからメールをいただきましたので、自分が納得のいくレースができるまでは、絶対もてぎに帰ってきてレースを続けようと思っていました。実際、昨年と一昨年も出る努力はしたんですけど、叶わなかったので、今回は早いうちに決められてすごくラッキーだと思います。2006年、07年はキャリアの中で一番大変な年だったと思いますが、その間もずっとサポートしてくださったファンやスポンサーのおかげで今の自分があると思うので、感謝しています。