<US-RACING>
雨の影響で5時間近くもスタートがずれ込んだ第13戦のミシガンは、アクシデントが多発し、計6回ものフル・コース・コーションが発生。半数以上の13台が姿を消すサバイバル戦を制したのは、アンドレッティ・グリーン・レーシングのトニー・カナーンだった。8番手からスタートを切ったカナーンは、常に上位で走っていたものの、トップ争いになかなか絡めずにいた。ところが、これが優勝への大きな鍵となる。144周目に先頭を走るダン・ウエルドンとダリオ・フランキッティが接触し、合計7台が巻き込まれる大アクシデントに発展。先頭争いよりやや後ろのポジションをとっていたカナーンは、間一髪事故に巻き込まれずに済んだ。加えて、上位陣が一気にいなくなったことにより、労せずしてポジション・アップにも成功。レースが残り30周から再開されると、すかさずトップのスコット・シャープをかわしてレース・リーダーに躍り出る。最後はチームメイトのマルコ・アンドレッティから猛追を受けるが、0.0595秒の僅差で退け、今シーズン3勝目を手にした。「今日はとても荒れたレースだったね。事故が起きたとき、後ろの方にいたのが凄くラッキーだった。初めてトップじゃないことが良いことだと思ったよ。マルコは何度か外から抜こうとしていたけど、僕はしっかりラインを守っていたし、僕のマシンが少し速かったのかもしれない。今日は僕の日だったということだね」と大喜びのカナーン。ワトキンスグレンでの乱闘騒ぎや、ここ数戦続いていたアクシデントを払拭する会心の勝利となった。ポイント・ランキングもトップのフランキッティと81点差の3位に浮上し、残り4戦でのタイトル争いに望みをつないだ。
前戦ミド-オハイオでは横転クラッシュを演じ、オープニング・ラップでリタイアしたマルコ・アンドレッティ。予選は13位と精彩を欠いてしまったが、決勝では本来のスピードを取り戻してじわじわとポジションを上げていき、144周目に起きたアクシデントの間隙を付いてトップに大躍進する。コーション中のピット・ストップでは、一時6番手まで順位を落とすものの、リスタートからわずか4周で2番手まで挽回。トップのカナーンとフィニッシュまでの27周に渡ってサイド・バイ・サイドのドッグ・ファイトを繰り広げるが、キャリア2勝目にはあと一歩を及ばず、0.0595秒差の2位でフィニッシュした。「今日はいろんなことがあった一日だったね。マシンのバランスは凄くよかったけど、基本的な速さが足りなかった。そこで、ピットインしてディフューザーを外し、それからマシンがだいぶマシになったよ。トラフィックにいるときはまあまあだったけど、トニーを抜くほどのスピードはなかったんだ。それでも、僕らが今シーズン残りのレースで、優勝する力があることを証明できたと思うよ」とレースを振り返るアンドレッティ。優勝は逃すも、13番手からの怒涛の追い上げによって、リンカーン・エレクトリック・ハード・チャージャー・アワードと、ファイアストン・パフォーマンス・アワードを受賞した。
レイホール・レターマンのスコット・シャープが3位に入り、荒れたレース展開になると、やはりこの人が上位にやってくる。4番手スタートのシャープは1周目でいきなり11番手まで後退してしまうが、144周目のアクシデントをかいくぐることで、大きく順位を上げる。コーション中のピット戦略も上手くはまり、リスタートの時点では何とトップに立っていた。残念ながら、レースが再開されると速さで勝るAGR勢にあっという間に抜かれてしまうものの、松浦孝亮の追撃は振り切り、今シーズン2回目のトップ3フィニッシュを果たした。「僕たちにとって、とてもワイルドな一日だったよ。コックピットの中ではほんとうに忙しかったね。いつものように、ここではレーシング・ラインがコースの外側にあったようだ。僕たちはコースの内側からマシン3〜4台分のところを走れるように設定していたけど、それがちょうど良かった。外側のラインを走っていたら、1度も抜かれなかったよ。レースの最後には内側のラインも走れるようになって、そのおかげでトップ3内でフィニッシュを飾ることができたんだ」と話すシャープ。チームメイトのライアン・ハンター-レイもデビュー2戦目にして6位に入り、荒れたレースを生き残ったレイホール・レターマンがしっかり結果を残した。
14番手スタートからキャリア・ベスト・タイの4位でフィニッシュした松浦孝亮。粘り強い走りでポジションをキープし、チャンスをうかがっていた松浦は、クルーの助けを借り、2回目のピット・ストップでは9番手へジャンプ・アップする。今週末も基本的なスピードが不足していたため、再びスタート・ポジションの14番手まで後退してしまうものの、144周目のアクシデントを回避したことが、大きな躍進に繋がった。残り30周でリスタートが切られたレースでは、前を走るスコット・シャープを果敢に攻め立て、一時は前に出る場面もあった。最後までシャープと競り合った末、0.0836秒差でトップ3フィニッシュを逃すが、ルーキー・イヤーの2004年ケンタッキー以来となる4位を獲得。不運続きの今シーズンを忘れさせてくれるような、力強い走りを披露した。「このような良い結果を待ち望んでいました。最後はシャープと3位をかけて争っていましたが、捉えることが出来ませんでした。もう少しだけスピードがあればよかったんですけどね。クルーのみんなはすばらしい仕事をしてくれましたし、僕にとってもこの結果は大きな意味があります」と喜ぶ松浦。次戦は3年前にキャリア・ベストをマークしたケンタッキーでのレースとなるため、さらなる活躍が期待される。
カナーンやアンドレッティとともに、終盤でトップ争いを演じたダニカ・パトリック。トップ2台をアウトから勇敢に攻めていたが、残り14周となったところで無常にも右リア・タイヤがパンクしてしまう。力を失ったマシンはゆるゆるとピットに戻り、タイヤを交換。コースに復帰したときには、すでに周回遅れとなり、失意のまま7位でフィニッシュした。「凄くイライラするわ。こんなチャンスはめったにあるものじゃないんだから。チームのみんなはとても良い仕事をしてくれたのよ。ピット作業も良かったし、作戦もスマートだった。私のチームはすばらしいから、近いうちにきっと優勝するわ」と悔しがるパトリック。念願の初優勝はまたしてもお預けとなったが、今日はファステスト・ラップを記録し、コース上で一番速かったことを示した。ここ3戦は確実にトップ10入りを決め、成績が安定してきている。加えてスピードも伴ってきており、IRL史上初めての女性ウイナー誕生の日は近いのかもしれない。
予選3番手のカストロネベスはまたしても結果を残せず、ヴィットール・メイラとのアクシデントで58周目に戦列を去った。マシンを止めたカストロネベスは、ここ数戦、結果が伴わないフラストレーションからか、メイラに詰め寄ったり、持っていたHANSデバイスを地面に叩きつけるなどして怒りをあらわにしていた。「今日のマシンは最高だったから、あんなアクシデントでレースが終わってしまったのはかなり残念だね。ヴィットールをとても尊敬しているけど、今日のレースはあんな早い時点でアグレッシブになりすぎていたと思うんだ。残念ながら二人とも接触してレースが早く終わってしまった。来週のケンタッキーで巻き返せると良いね」とがっくり肩を落とすカストロネベス。不運が付きまとう後半戦を忘れるためにも、次戦はなんとしても結果を残したい。
合計7台が絡む144周目の多重クラッシュは、トップを争うダン・ウエルドンとダリオ・フランキッティが発端となった。バック・ストレート上でウエルドンの右リア・タイヤと、フランキッティの左フロント・タイヤが接触。直後にフランキッティのマシンが大きく宙を舞い、コックピット側から地面に叩きつけられ、同じく先頭争いをしていたスコット・ディクソン、サム・ホーニッシュJr.、トーマス・シェクターが相次いで追突する。間一髪、追突を避けてコースのインサイドに逃れたA.J.フォイト4世は、不運にも後ろから来たチームメイトのエド・カーペンターと接触し、大きなダメージを受けてしまった。タイトル争うフランキッティが消えたため、なんとかポイント差を縮めたいディクソンは、マシンを修復して168周目にレース復帰を試みたものの、ダメージの状況が悪くわずか1周でピット・イン。結局、フランキッティとの差は縮まらず、24ポイント差のまま残り4戦での逆転チャンピオンを狙う。ディクソン同様、レース復帰したホーニッシュJr.とフォイト4世も、マシンをフィニッシュまで運ぶことが出来なかった。宙を舞ったフランキッティを含め、誰一人けが人が出なかったことは不幸中の幸いだったが、一歩間違えば大惨事となっていた。
ヴィジョン・レーシングのトーマス・シェクターは、6番手スタートからトップ争いを演じたが、144周目の多重クラッシュに巻き込まれ、あえなく戦列を去った。このミシガンは2002年に優勝しているだけあって、アンドレッティ・グリーン、ペンスキー、チップ・ガナッシの3強に割って入り、リード・ラップまで獲る活躍を見せていたシェクター。このままいけばヴィジョン・レーシングでの最高位はおろか、2005年テキサス以来の優勝さえ見える位置だったが、目の前で発生したアクシデントに行き場を失い、追突せざるを得なかった。「正直いって、今までで一番怖かったかもしれないよ。誰に当たったかさえ分からないんだ。僕のマシンには誰かのドライブ・シャフトが刺さっていたよ。ドライバーに大きな怪我がなくてほんとうにラッキーだった。僕たちはすばらしいレースが出来ていて、良い結果が出せる位置にいたから残念だね」と話すシェクター。不運に見舞われてしまったが、この速さを持続して次戦以降も戦いたい。
天気予報どおり朝から雨に見舞われたミシガン・インターナショナル・スピードウエイ。最高気温は25度と、暑くもなく寒くもないという天候だった。レース開始予定時刻の午後0時を過ぎても雨は止まず、昨年と同様、レース開始が遅れることになった。一向に止む気配がなかった雨も、午後2時過ぎから止みだし、セーフティ・クルーはレース・スタートにこぎつけようと懸命の乾燥作業を開始する。一日中降っていた雨が路面に染み出している箇所もあり、作業は難航したが、開始予定時刻の4時間37分後にようやくレースが始まった。すでに午後5時が迫ろうかと言う時刻だったが、レース中に雨が降ることはなく、集まった観衆の期待を裏切らない23回ものリード・チェンジがある白熱したレース展開となった。このミシガンは来年のスケジュールから外れることがすでに発表されており、1968年の開業以来39年間続いてきたオープン・ホイールのレースが、今年で途絶えることになってしまった。数々のすばらしいレースを演出してきたこの2マイル・スーパー・スピードウエイで、またいつかオープン・ホイールのレースが開催されることを願う。