CHAMP CAR

チャンプ・カー・ワールド・シリーズ 第6戦 トロント【決勝】フォト&レポート

<US-RACING>
Photo & Report by Hiroyuki Saito

 アメリカン・レーシングシーンを追いつづける一人のレースフォトグラファーがいる。さいとう・ひろゆき(30歳、独身)。時速200マイルで疾走する鋼鉄のサラブレッドですら、ピタリとフォーカスしてしまう国際A級スナイパーである。アメリカ各地を転戦する一匹狼から、今日も編集部に電送されて来る決定的瞬間の数々。緊迫のクラッシュ、歓喜のポディウム。そして、彼の愛用する超望遠500ミリの射程距離に進入したカナディアンピーチも、冷酷な彼のシャッターから逃れる術はなかった。『追伸。皆さんの喜ぶアングルで迫ってみました』。さいとう・ひろゆき(30歳、独身)。採用される写真を理解しているプロフェッショナルである。

 スタート直後のトレイシー・アタックを退け、トップを走りつづけたボウデイ。2番手以降が激しい接近戦を繰り広げる中、次々と最速ラップを更新する走りで最多リードラップとベストラップを記録し、見事にポール・トゥ・ウインで今季4勝目を上げた。ドライバーズ・ランキングでもトップに立ち、4、5、6戦を連覇。手のつけられないボウデイを止めるのは誰か? 2位には、予選11番手からしぶとく上り詰めたJ.ヴァッサーが今季初の表彰台。PKVとして初めてリードラップを記録している。地元カーパンティエは、リアブレーキのバランスを崩して一時ポジションを落としたものの、プッシュ・トゥ・パス・ボタンを上手く利用して3位をゲット。フルコーションが多発したストリート・ファイトでのアクシデントを、巧みにかわしたレース巧者の2人が表彰台に上がっている。

 第4戦のポートランドでポール・トゥ・ウイン、第5戦クリーブランドで予選3番手から決勝1位、そして今回のトロントで再びのポール・トゥ・ウイン。今季6戦のうち4つのレースを制し、乗りに乗っているボウデイ。トロントでも執拗に迫るトレイシーを燃料をセーブしつつ抑えこみ、短縮された84周の決勝で75周でトップを快走した。パッシングポイントの少ないストリートでぶつけ合う2位以下を尻目に、ベストラップの山を築き上げて独り旅。後続に1分以上の大差をつけて「最後は結構楽だった」と余裕のコメントを残した。ドライバーとチーム、マシンを含めて、現在最強のパッケージングであることは間違いない。

 母国カナダで開催されてきたレースで優勝こそ無いが、バンクバー、モントリオールと表彰台には上がっているカーパンティエ。これまでトロントでは一度もトップ・スリー以内に入ることができず、悔しい思いをしてきた。今回初日は総合でトップ・タイムを記録したが予選6番手に。レースでは見事3位に入賞、地元ファンの見守る中、このトロントで初の表彰台を獲得した。一方、今年からチーム・オーナーになったジミー・ヴァッサーが、今季初表彰台となる2位を獲得した。参戦13年目の今シーズンは慣れないオーナー稼業のせいか、なかなか本来の走りを披露できていなかったヴァッサー。今回も予選は11位と決して良くなかったものの、ベテランらしい走りでアクシデントを潜り抜け、みごと2位を獲得してみせた。ヴァッサーはこのトロントで189戦連続決勝進出を決めており、アル・アンサーJr.の記録(192連戦)まであと3レース。このままいけば第9戦デンバーでタイ、第10戦モントリオールで追い越すこととなる。

 自分のピットを終えて出てきたトレイシーが、ストレートを走って来た3位のジョルダインJr.とまさかの接触。押し出してリタイアに追い込んだ。本来、レーシング・スピードのジョルダインJr.のために、1台分のスペースを開けなければいけないところだが、その前のペナルティで苛立っていたのか、トレイシーはジョルダインJr.を完全に無視してしまった。普段は仲のいい二人だが、これにはさすがのジョルダインもカンカン! オフィシャルに早くコースの外へ退避するように言われながらも留まってマシンの上に仁王立ちとなり、1周終えて戻ってきたトレイシーに向かって怒りをぶちまけていた。ヴァッサー同様大ベテランのトレイシーだが、まだまだ暴れん坊ぶりは健在だ。

スタートではトレイシーのプレッシャーをものともせず、ホールショットはボウデイが決めたが、2列目イン側のジュンケイラがターンインの際に外側のドミンゲスに並び、そのまま押し出す形で絡んでタイヤウォールに一直線。両者ともリタイアに終わってしまう。未勝利ながら手堅いレースでランキングトップを維持していたジュンケイラは、今シーズン初のリタイアとなり、ボウデイに逆転され2位に転落してしまう。

 カナダ最大の都市トロントで、午後1時37分にレースがスタート。気温29度と昨日に引き続き快晴に恵まれたこともあり、会場のエギジビジョン・プレイスには7万2561人もの観客が押し寄せた(3日間では昨年を3000人上回る16万7352人を記録)。ダウンタウンのストリートを閉鎖して行われる仮設ストリートの常で、アスファルトやコンクリートといった異なる材質の路面が容易にマシンの足元をすくうため、コーナーでのセッティングが難しい。ターン1からターン2にかけてはコース幅が狭く、スタート後に何台ものマシンが流れこむが、クラッシュが起こらないときのほうが珍しいとさえ感じるコースだ。