<US-RACING>
■フェルナンデスがオーナーとして初勝利達成
決勝レースの日曜日、雲に覆われたポートランドは気温15度で、体感的にはやや肌寒い感じだ。12時45分、19台を先導していたペースカーのライトが消えてピットレーンへ。ポール・ポジションのトレイシーを先頭に、各マシンが最終コーナーを回ってフロント・ストレートに入ってくるが、フォーメーションが揃わずにイエロー・フラッグが振られる。その後2回もフォーメーションが揃わなかったことでイエローが連続し、ようやく4周目にグリーン・フラッグ。ドライバー達はいっせいにターン1へとなだれ込んでいく。
このスタートでタイミングよく飛び出したのはジョルダイン。フロント・ストレートエンドでわずかにトレイシーの前に出たジョルダインは、ターン1の外側からトレイシーに並び、続くターン2で前に出る。オープニング・ラップでトップに立ったジョルダインを先頭に、2番手トレイシー、3番手フェルナンデスと続き、ボウデイをパスしたタグリアーニが4番手だ。スタート時に接触してフェスティバル・カーブのシケインを直進したセルビアは、順位変わらず6番手でコースに戻ったため、ペナルティはなし。
序盤ジョルダインがリードを取る中、トレイシーも2番手をキープ。5周目、モンテイロがギアボックス・トラブルでグリーン・フラッグからわずか2周目でリタイアとなり、14周目にボウデイが左後輪のタイヤ空気圧低下のため、予定外のピットストップをしなかればならなくなった。約8秒でタイヤ交換を済ませたボウデイはコースへと戻ったが、今回のピットストップ・インターバルは28周のため、ゴールの100周目から逆算すると他のドライバー同様あと3回ピットに入らなければならない。16周目以降であれば合計3回で済んだはずだが、ボウデイにとってはなんともアンラッキーなトラブルになってしまった。
その2周後の16ラップ目、ボスがコース・アウト。残りの周回数が84周以下となったため、このフルコース・コーションを利用して先頭のジョルダイン以下、各マシンが一斉にピットインしてきた。このフルコース・コーション中、サレスもメカニカル・トラブルでコースサイドにストップしたが、セーフティ・チームの助けを借りてピットへと戻る。20周目、グリーン・フラッグでレースが再開した時点での順位は、先頭のジョルダイン以下、トレイシー、フェルナンデス、タグリアーニ、セルビアと続く。
レースの4分の1が消化しようとしていた23周目、自己ベストの予選7番手からスタートしたハンター-レイが、ギアボックス・トラブルでスローダウン。週末を通じて調子が良かったハンター-レイとチームにとって、非常に残念な結果となってしまった。この頃から、序盤のタイヤ空気圧のトラブルで遅れを取ったボウデイが、順位を挽回すべく猛チャージをかけ始めていた。まず21周目にパピスをオーバーテイク、さらに33周目にドミンゲス、38周目はラビンと次々にライバルをパスしてポジションアップしていく。
その一方でボウデイのチームメイト、ジュンケイラも予選11番手からのスタートで徐々にポジションを上げていき、41周目にはマニングをパスして6番手まで上昇。グリーン・フラッグ下の44周目、ジョルダインを先頭にボウデイを除く全員が2回目のピットインを行った。このピットインの際に2番手で入ったトレイシーが、少な目のギリギリの燃料補給でピットアウト。タイヤから白煙を上げながら猛ダッシュし、ピット出口を目指して走行してきたジョルダインの前に立ちふさがる格好でトップに躍進する。
2台はターン1の入り口で互いにタイヤをロックさせながら進入、二人の激しいバトルにスタンドからは大歓声が上がり、トップの座を奪われたジョルダインは、まだタイヤが温まっていない状態でも果敢にトレイシーにチャージをかける。テール・トゥ・ノーズのまま1周が過ぎ、再び迎えたターン1への進入でジョルダインはトレイシーのインにダイブ。2台はサイドバイサイドのままターン1を過ぎ、ジョルダインがほんのわずかに前に出てターン2に差しかかったが、ここで2台は接触を喫してジョルダインが180度スピンしてしまった。
エンジンが止まらなかったトレイシーは直ぐにトップのまま再スタートできたが、ジョルダインの方はマシンがコース上で反対向きになったままエンジン・ストールして停止。CARTセーフティ・クルーの手により再スタートしたジョルダインは、大きく遅れて最後尾まで順位を落としてしまう。今年に入って何度も見せ場を作っている二人、今回はトレイシーに軍配が上がったが、まだまだ二人のバトルはこれからも続くだろう。
そろそろレースの折り返し点が近づいた49周目、レースが再開した時点での順位はトップがトレイシーで、2番手にフェルナンデス、以下タグリアーニ、セルビア、ジュンケイラと続き、序盤のトラブルで後退していたボウデイも6番手に上がってきている。痛恨の周回遅れとなったジョルダインは16番手から15番手にアップ。優勝の可能性は消えてしまったが、少しでもポイントを獲るべく前へ出る。トップに立ったトレイシーは、2番手フェルナンデスとの差を徐々に広げて行き、54周目には約2秒以上の差をつけた。
快調にトップを走行するトレイシーだったが、ここでCARTオフィシャルからペナルティが宣告される。2回目のピットストップでコースに復帰する際、本来なら加速レーンで加速してから走行レーンに入らなければならないものを、トレイシーは加速しながらそのまま走行レーンに入り、後ろから来たジョルダインが減速。CARTのルールでは、ピットボックスから出たマシンは、いったん加速レーン(低速レーン)でスピードが十分にのったところで加速レーンに移らなければならないとある。
トレイシーには次のピットインの際に、5秒間のピット・ストップ・ペナルティがかけられることになったため、プレイヤーズ・フォーサイス・レーシングはトレイシーに対して2番手フェルナンデスとの差を5秒以上まで開くように指示。トレイシーもこれに応えてペースアップし、迎えた72周目、最後のピット・ストップでトレイシーは5秒間余計にピットに留まったが、2番手フェルナンデスとの差を十分に保ってピットインしたため、かろうじてフェルナンデスの前でピットアウトすることに成功した。
73周目、カーパンティエが予選での遅れを取り戻すべく、冷えたタイヤによりターン6でコースアウト。ターン7手前のタイヤバリアに突っ込んだマシンはリアウイングを中心に大破し、前回のラグナ・セカ・ウイナーのカーパンティエは73周を走ったところでリタイアとなる。ここで4回目のフルコースコーションになり、79周目にいったんグリーン・フラッグで再スタートするが、82周目、CARTオフィシャルはコース上にパーツの破片があるとして5回目のフルコースコーションを提示した。
レースはいよいよ残り15周となった85周目にグリーン・フラッグ。その次の86周目、最終ターンでわずかにコースオフするミスを犯したトレイシーを見逃さなかったフェルナンデスは、ターン1でトレイシーのインを突いてこれに並ぶ。見事なクリーン・パスに成功したフェルナンデスに続けとボウデイもこれに乗じてトレイシーに迫るが、そう甘くはない。トレイシーは2番手をキープし、ボウデイは3番手でそのチャンスを伺うことになった。残り集回数も少なくなってきた88周目、今回から復活したパピスが無謀なパスを試みたルーキーのラビンと接触してリタイアとなる。
91周目の再スタートでは、フェルナンデスが上手くダッシュを決めてトップの座をキープし、トレイシーが2番手で3番手は依然ボウデイだ。序盤のトラブルを乗り越え、絶妙のコーションにも助けられてやっと3番手までポジションアップしたボウデイだったが、ここでまたしてもトラブルが発生。リアウイングの付け根が緩んでしまったことにより、緊急ピットインしたボウデイのマシンを修復しようとニューマン/ハース・レーシングのメカニックが駆け寄るが修理不能。ボウデイは無念のリタイアとなり、失望の表情を隠せない。
ボウデイのリタイアで3番手に上がったタグリアーニは、残り5ラップのところでファステストラップをマークする走りを披露。残り3周、トップのフェルナンデスとそれを追うトレイシーとの差は約4秒弱、終盤に入って小雨がぱらつくが、レースに影響を与えるほどではない。ホワイト・フラッグが提示されて残りあと1周。トレイシーはフェルナンデスとの差を3秒以下まで短縮するが、そこまで。
100周目でチェッカード・フラッグが振り下ろされ、20回目のポートランド戦で見事フェルナンデスが優勝。フェルナンデスは2000年のオーストラリア以来、実に47戦ぶりの優勝を手にした。自己通算8勝目を勝ち取ったフェルナンデスは、2001年からチームオーナー兼ドライバーとして挑戦を続けて以来、チームとしての初勝利を喜ぶ。オーナー・ドライバーとしての勝利は、1992年にナザレスでボビー・レイホールが達成して以来のことだ。これでフェルナンデスはランキングでも5番手に躍進している。
今回は2位に終わったトレイシーだったが、5回目の表彰台で再びポイントリーダーの座に浮上。終盤にファステスト・ラップを記録したタグリアーニが、今シーズンの自己ベストとなる3位に入り、メキシコ・モンテレイ以来2度目の表彰台獲得となった。ポイント・ランキング2番手は、今回4位に入賞したジュンケイラ。これまでトップを維持してきたジョルダインは12位でフィニッシュして1点を追加したものの、ランキングでは3番手に後退する結果となった。シャシー・マニュファクチャラー部門では、1位から5位までをローラが独占。レイナードの最高意はルーキー・トップのマニングだった。
5回のフルコースコーションにもかかわらず、1時間56分16秒626のレース・タイムは前回のラグナセカと同様、ポートランドのCARTレースでの新記録達成となった。次回第9戦は2週間後の7月4日から6日にかけて開催。舞台をアメリカ中西部へと移動し、オハイオ州クリーブランドの湖畔に浮かぶバーク・レイクフロント・エアポートの仮設ロードコースで開催されるナイトレースだ。この週末はアメリカ独立記念日の3連休とあって、各種イベントが催される。毎年接戦が繰り広げられこのレースで、果たして6人目のウイナーが登場するか、大いに注目が集まる。
優勝したフェルナンデスのコメント:
「ポールがミスを犯した時、チャンスは今しかない! と感じたね。あの一瞬を逃したら、彼はその後もう2度とミスを犯さないだろうし、とにかく一か八かの勝負だった。レースは最後まで気の抜けない接戦だったよ。数少ないチャンスを見逃したとしたら、きっと自分が許せないだろうと思った。やはり勝利は言葉に表すことが出来ないほど、素晴らしいものだね。ゼロからチームを結成して以来、なかなか結果を出すことが出来なかったことで、スポンサーからのプレッシャーもヒシヒシと感じていたんだ。優勝を手にして、その感覚も一気に吹き飛んだよ、最高だね」
2位表彰台のトレイシーのコメント:
「チーム・プレイヤーズにとっても、ポイント争いでトップに返り咲くことが出来てとても嬉しいけれど、やはり自分に対してガッカリしているのも事実だ。小さなミスのおかげでせっかくの勝利のチャンスを逃してしまい、エイドリアンに勝利を明け渡してしまったからね。過去を振り返ってみても、このサーキットは自分にとっていい思い出が少ないだけに、今日の2位という結果にはある意味満足している。次の第9戦のクリーブランドは自分らしい走りが出来るサーキットだから、このままポイントリードを広げることが出来るよう頑張るよ。ミシェル(ジョルダイン)とのアクシデントに関しては、ターン1で僕は十分なスペースを彼に与えたのに、その後で彼は完全に僕の行く手をふさいでしまったから、接触するのは当然のことさ。あのアクシデントで自分が順位を落とさなかったのは、本当にラッキーだったとしか言いようがない」
3位表彰台のタグリアーニのコメント:
「今日の成功はまさにチームワークの賜物だね。ロケットスポーツ・レーシングのクルーたちが実に素晴らしい仕事をこなしてくれたおかげで、自分はただいつもどおりに走りさえすればよかった。マシンの状態はレースが進むにつれてさらに安定していった。もっとレース序盤の方からアグレッシブに飛ばしても良かったかもしれないな。それでも今日の結果は満足の行くものだった。シーズン開幕当初から比較的良いスタートを切ることが出来たと思う。このままの調子で行くことが出来れば、必ず近いうちに勝利を手にするチャンスに巡り合うことが出来ると確信しているよ」