先週のワトキンス・グレン・インターナショナルから、ロード/ストリート・コースのレースが5戦連続で開催されます。その緒戦となったワトキンス・グレンは、オーバルだけだったIRLのインディカー・シリーズがロード・コースのレースを最初に取り入れた2005年から開催され、今年が6回目でした。
当時、インディカーによる初めてのロード・コースのレースだったわけで、それまでチャンプカーのロード・コースしか知らなかった僕にとってグレンは初取材のコースということもあり、興味津々でした。1960年代から80年にかけてはF1も開催されていたのでね、“どんなもんだべ?”って行ってみたらビックリ。今時珍しく、コース・サイドが昔の伝統のままなのか、ほとんどガード・レールしかなかったんです。
普通、ガードレールの上にはフェンスがあるんですけど、ここは要所要所にしかありません。でも一部には広いエスケープ・ゾーンもあるのでね、それほど心配はないかなと思ったのですが、コース・サイドで撮影している自分としては、ガード・レールにマシンが突っ込んできたら大変です。ドライバーが特別なミスでもしない限りありませんが、アクシデントで突然マシンが壊れることだってあるので、“こりゃ危ねぇんじゃね?”って少し心配になったのを良く覚えています。
そんなわけでこのコースはフェンスが少ないだけに、色々な場所から撮影できるんですが、なぜか気が付くと毎年同じ場所で撮影してるんですよ。どのコースにも定番のポイントっていうのがあって、コースの特徴を現したり、カッコいいアングルで撮影できたりするような場所があります。その中でもこのコースは、“グレンだったらあそこしかねぇべ”っていうぐらい特徴的な撮影ポイントが多いんですね。まぁ、ほんとうは新しい撮影場所を探索しなければと思うんですけど、練習走行の時間が減らされているこのご時世。最低限の要所はおさえつつ、じゃあ新たにっていう時間がなかなか取れないのが現状だったりします。
もちろん、毎年レースの内容は違いますし、翌年は新しいドライバーも加わったりするのでね、同じ撮影ポイントでもその年ならではのベストな写真を撮影することが何より重要です。そうは思いつつも、できれば毎年違った写真にしたいなという、カメラマンならではの欲求もムクムクとしてくるわけで、今回はまだ行ったことがなかった最終ターンの外側に挑戦しました。それもなんと、決勝日のスタート撮影後。ちょっとリスキーでしたが、時にはレースと一緒でギャンブル的な作戦も必要でしょう(そうでもないか)。
今回はスタート時間が午後3時30分だったので順光で撮影できる場所が限られていたし、それを考えつつレース後半にどこへ移動しようかとマップを見ていたら、ふとここは今まで行ったことないって気づいたんです。たぶん順光だろうしと、迷っているのも時間の無駄だったので“ええい、ままよ”と最終コーナーの外側に黙々と向かいました。で、到着してみたらなんと、西に傾いた太陽の光がマシンに真正面からあたっていて、撮影にはもってこいこいな状況だったんですね。最終コーナーの手前から、マシンが連なってこちらに向かってくる様子が、けっこう良い感じに撮影できます。
ところがその場で粘りすぎたせいか、僕が表彰台に行こうとしたところでレースが終了。走って慌てて表彰台に駆け込むことになった次第です。表彰台の写真は無事撮れたものの、僕の人生と一緒でゆとりのある行動ってのは、なかなか難しいもんですね。今回でワトキンス・グレンのレースが終わるかもしれないという噂があり、せっかくいいポイントを見つけたのにと思うと、ちょっと残念。
みごとポール・トウ・ウィンを達成したウィル・パワー。ストリート・コースの開幕2連勝、そしてこのロード・コースでも完璧な走りで今季3勝目を挙げました。ポール・ポジションに関しては9戦中5回も獲得しているわけで、いやはや、今年のウィルのロード、ストリート・コースの速さに関しては疑いようがありません。
昨年のトロントでは3位、エドモントンでは優勝、ミド−オハイオは出場していませんが、インフィニオンではプラクティス中のクラッシュで負傷し、決勝を断念しました。しかし、その2戦ではチームメイトのブリスコーがともに2位でフィニッシュしていますからね、今後続くこれらのレースでも速いのは間違いないでしょう。
今回はウィルがポール・トウ・ウィンを飾ったので、あえてスタートのシーンを選んでみました。この撮影場所にはフェンスがあって、フォトホールがひとつだけ。みんな殴りあいの取り合いになって大変なんです、というのは冗談で、ここもガード・レールだけのオープンスペースでね、10人くらいのカメラマンが余裕をもって撮影できますよ。これも、ワトキンス・グレンのスタート写真ならここっていう、お決まりの撮影場所です。
ここのターン・インをトップで駆け抜けるのが、まぁ、あたり前ですけどとても大事なことです。なかなかポール・トウ・ウィンってできないものですが、今年のウィルは5回トップからスタートして、2回も達成していますからね。面白さといった意味では波乱を期待する反面、今後彼がどこまで記録を伸ばすのかも興味がありますね。
●撮影データ
機種: Canon EOS-1D Mark ?
レンズ: Canon EF 500mm f/4 IS USM
撮影モード: マニュアル露出
シャッタースピード: 1/640
絞り値: F7.1
測光方式: 評価測光
ISO感度: 100
焦点距離: 500.0mm
オートフォーカスモード: AIサーボAF
ホワイトバランス: オート
オーバルではかみ合わないレースが続いた武藤英紀でしたが、ロード・コースになったので心機一転といった雰囲気を現場で感じました。しかし予選ではタイミングの悪いときに遅いドライバーに捕まり、2回目のラウンドに進出できず。「トップ10内にはいけると思います」とアタック前に言っていたし、それだけの速さは確かにあったのですが、タイミングに阻まれましたね。
レースではチームの作戦でピットストップ2回という燃費レースを行うことになり、思い切り攻め込むことができなかったせいか、少しフラストレーションが溜まった様子でしたが、予選14位から2つポジションを上げて12位でフィニッシュ。次のトロント、エドモントンとストリート・コースが続き、チームも得意としているようなので期待しましょう!
さて、この写真は高低差のあるワトキンス・グレンというコースを、まさに象徴するような撮影場所です。スタート後、ターン1、ターン2を過ぎ、高速S字コーナーを駆け上がってくるところで、正面から撮影しました。
放たれたジェット・コースターのように勢いよく駆け上がってくるインディカーを、そのスピード感が伝わるようにスロー・シャッターで撮影。目に見えない空気の壁を、マシンとドライバーが突き破っていく姿を表現したいと思ってスロー・シャッターにしたのですが、うまく決まってくれるとうれしいもんです。
●撮影データ
機種: Canon EOS-1D Mark ?
レンズ: Canon EF 500mm f/4 IS USM
撮影モード: マニュアル露出
シャッタースピード: 1/25
絞り値: F32.0
測光方式: 評価測光
ISO感度: 50
焦点距離: 500.0mm
オートフォーカスモード: AIサーボAF
ホワイトバランス: オート
初開催のロード・コース、バーバー・モータースポーツ・パークで行われた予選でファイアストン・ファスト6に残った佐藤琢磨は、2度目のロード・コースとなるこのワトキンス・グレンでもファスト6に進出しました。ペンスキーやガナッシに割って入り、なんと予選5位を獲得。この速さには改めてすごいなと思いましたね。
撮影していても、限界まで攻めているのが実によく分かります。今回の写真はそんな緊張した予選のタイム・アタック中のことでした。直線の後のターン1はできるだけスピードを殺さずに曲がっていきたい重要な場所で、少し盛り上がった白い縁石が、コーナー外側に設置されています。
ここはスピードをコントロールするのが難しいようで、白い縁石の外側にマシンがはみ出してしまうことが多く、そうなったときは軽くジャンプするのです(車体が完全に乗ってしまうと、プラクティスでのE.J.ビソのように、サスを壊してコントロール不能になることもあります)。
その瞬間をおさえるためにここで撮影し、今度はスピード感が出るようスロー・シャッターに設定を変更したら、なんと攻めすぎた琢磨が限界を越えてターン1をオーバー。無我夢中で追いながらシャッターを切って、こりゃまずいかもと思った次の瞬間、琢磨は見事にマシンを立て直してコースに復活しました。
ほんとうにひやっとした瞬間でした。こういうシーンは滅多にないし、琢磨が懸命にコントロールしようとしている様子が撮れたので、今回はこの写真を選びました。本当に限界に近い、ぎりぎりのところで挑戦しているんだなって思わずにはいられない瞬間でした。
●撮影データ
機種: Canon EOS-1D Mark ?
レンズ: Canon EF 500mm f/4 IS USM
撮影モード: マニュアル露出
シャッタースピード: 1/25
絞り値: F32.0
測光方式: 評価測光
ISO感度: 50
焦点距離: 500.0mm
オートフォーカスモード: AIサーボAF
ホワイトバランス: オート
Photo & Text by Hiroyuki Saito
※こちらが今回のPick the Winnerの当選者の方にプレゼントする写真です!