<Speed of Japan>
2009年インディカー・シリーズ第16戦
BRIDGESTONE INDY JAPAN 300 mile
9月19日(土)
ツインリンクもてぎ・スーパースピードウェイ(全長:1.5マイル)
天気 予選日:晴れ/決勝日:晴れ
#43 ロジャー安川(Dreyer & Reinbold Racing/Honda/Dallara/Firestone)
<予選>17番手 タイム 1分50秒8267(平均197.498マイル)
<決勝>20位 ベストタイム 28秒2004
ロジャー安川にとって今季初レースとなった2009年インディカー・シリーズ第16戦BRIDGESTONE INDY JAPAN 300 mile。安川のこのレースに対する意気込みは、いままでとは違ったものがあった。
この不況の中、今年の2月早々にチームと契約。スポンサーも揃い、順風満帆に思えた。同時にインディ500への参戦も試みたが、これはスポンサーが集まらず断念していた。だからこそ、今回のインディジャパンへ思いは強かった。
しかし、8月になって、アメリカでのスポンサーがこの不況の中で業績が悪化。安川へのスポンサーを急遽取りやめた。安川はそこから足りない資金集めに翻弄。チームとの最終合意、そして出走が決まったのは予選日の前日だった。
安川がこのレースにかける強い思いにはもうひとつ理由があった。それは「引退」。安川は今年早々から、思ったレースができなかければ「引退」すると決めていた。
そして、迎えたインディジャパン初日。午前中のプラクティスから快走する。昨年は決勝になっても全開で走れないマシンに苦しんだが、今年は初ラップから全開で行けた。あとは、もてぎ特有の難しさがある3ターンから4ターンにかけてのセッティングを詰めていくことだった。
2回のプラクティスで自信のもてるレースセットを見つけた安川は予選に挑んだ。この予選でも安川は攻めの気持ちを見せていた。1年半ぶりのスポット参戦。チームはスピンしにくいアンダーステアの方向でセッティングを進める。しかし、アンダーステア気味ではスピンしにくいその分、スピードも出ない。予選出走直前にチームは、マシンバランスをドライバーが調整できるアンチロールバーの設定を無難な「3」で走るように指示。安川はこの指示に背き、よりアグレッシブな「4」に設定していた。その結果予選は17位。
そして迎えた決勝。インディジャパンは毎年、燃費レースになる傾向が強かった。グリーン下で最初のピットインを迎えた場合、できるだけピットインを引き延ばしたドライバーが有利だというデータがあった。第一スティントの安川の課題は燃料をセーブしながら走り、最初のピットインまで周回遅れにならないことだった。
思った走りをしていた安川はドラフトに入り、どうにか燃料をセーブしたが、周回遅れになり、ピットイン。だが安川もチームも手応えを感じていた。8.5秒とトップチームと変わらないピットインを済ませた安川は再びコースイン。しかし、この直後にマシンに異変が起きた。
ターン1からターン2にかけてのバンプを通った安川のマシンが大きく弾み、安川はなにかが壊れた金属音を聞いた。マシンはステアリングが効かなくなり、そのままウォールへ直進する。安川は全力でクラッシュを回避、マシンを無傷でピットへ戻した。トラブルはもうひとつあった。安川はこの状況を無線でピットに伝えていたのだが、安川のヘルメットのマイクが外れていて、ピットはまったくこの状況を把握してなかった。
ピットに戻って来た安川を見たチームは慌ててなにが起きたのかを把握しようとする。安川はマシンが曲がらない。多分フロントのどこかが壊れたと伝え、チームはフロントタイヤの両方を外し、確認。だが問題は見つけられなかった。再度コース上に出た安川だが、やはりステアリングは効かず、スロー走行で再びピットインした。
今度はエンジンカウルを外した。外した時点で問題点はすぐに判明した。右リアダンパーがシャフトから折れていたのだった。チームはこの時点で安川にリタイアすると告げた。それは滅多に折れないダンパーシャフトが折れた原因が分からないこと、そして新しいダンパーを交換するのに時間がかかるからだった。しかし、安川はこんなことでリタイアはできない。ダンパーを交換するようにチームにお願いをした。それは安川には「引退」という言葉が常にあったからだった。
この熱い思いがチームを動かした。メカはガレージまで走り、新しいダンパーを持って来た。スプリングなどはピットで交換し、ダンパーは新しいものに換えられた。この時点で29周遅れだった。
普通であれば、あとは完走をするのみのドライバーはセーブをして無理をせず走る。だが安川全力で走った。まるで優勝争いをしているかのように。ペースも良く、ゴール1周前に自己ベストを出すほどだった。そして20位で完走した。
ロジャー安川
「今回は本当に周りの協力がなくては出場できなかったレースです。最後の最後まで諦めずに協力してくれたチーム、スポンサー、スタッフ、そしてファンのみんなに感謝しています。このレースで満足のいく走りができなければ引退しようと決めていました。トラブルはあったものの、今までのインディジャパンで一番納得のいく走りができました。これで来年またインディ500とインディジャパンに挑戦することにしました」