Roger Yasukawa's

ケンタッキーで実証された大当たりの新レギュレーション

画像6月上旬に行われたテキサスのレース以来、およそ2ヶ月ぶりの1.5マイル・スーパー・スピードウェイでのレースとなった先週末のケンタッキー。ここ3戦はロード・レースが続いていただけに、オーバルのレースを見たらなんだか新鮮に感じましたね。
オーバルしかなかったインディカー・シリーズも、だいぶ変わったなと思います。実際、ケンタッキーで発表された2010年のレース・スケジュールを見ると、ロード&市街地コースの9戦に対してオーバルが8戦と、ついにロード&市街地のレース数が上回ってしまいました。
観客動員数やスポンサーへ対してのマーケティングを考えると、どうしても市街地やロード・コースを増やしたい気持ちもわかりますが、ミルウォーキーのようなオーバルの聖地が、レース・スケジュールから外されることはなんだか寂しく感じます。
それでは先週末のケンタッキーのレースを振り返ってみましょう。このレースからオーバルでのエアロ・パッケージが見直され、US Racing Radioでも紹介しましたが、5つのルール変更がありました。

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その目的は本来のインディカーの見所でもある、サイド・バイ・サイドのレースを増やすことと、もっとドラフティング中でも安定したハンドリングを保てるようにするためです。エンジンのリミッターを200回転上げる、“HONDAボタン”も採用され、これもオーバーテークをアシストするツールとなりました。
レースを見る限り、ルール変更に対しての率直な感想は“大当たり”! と言えるもので、レースの内容がメチャメチャ面白くなりましたね。ここ最近のインディのオーバル・レースはなんとなく淡々と走る内容が多かったので、先週末のレースのようにエキサイトして見たのは、久しぶりのように感じます。
ドライバーにレースを終えてからのコメントを聞くと、みんなレースをエンジョイしていました。特にドラフティングに入ってからの、マシンの安定感はかなり良くなっているようです。

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最終的にはライアン・ブリスコーの優勝でしたが、ついにエド・カーペンターが初優勝するのか? それともトニー・カナーンの復活ウィン?? といった感じで、最後までおもしろい内容でしたね。では、ここで今回のルール変更についてと、チームがどのように対処してきたのかを分析してみましょう。

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まず、最初に知っていただきたいのは、リヤウィング・フェンスに装着されていた0.5インチのウィッカー(ガーニー)が、強制的に排除されたことです。これによってドラフティング中のマシンの安定感が確保され、スピード・アップに大きく貢献することになりました。
このウィッカーを付けるとドラッグ(抵抗)が増えるだけで、数年前にこのルールが適用された時は、多くのエンジニアが使用することに疑問を抱いていました。しかも空力的に見て、ドラフティングに入るとさらに大きなエア・ポケットを作ってしまうために、サイド・バイ・サイドや団子状態で走っている時のマシン・バランスが悪化してしまいます。
直線を走っている場合は大きなエア・ポケットができた方がドラフトしやすく、前車に追いつくことはできますが、コーナーがある以上このウィッカーはそれほど効果的ではありません。当然、ウィッカーを外せばドラッグが減るので、スピードが上がってしまいます。その分、なんらかの形でダウンフォースを付け足さなければ、マシンのバランスを保つのが難しくなりますよね。

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そこで今回からオプションで使用が可能となったのが、タイヤ・ランプ、サイドポッド・エクステンション、そしてホイール・バッキングプレートなのです。ホイール・バッキング・プレートに関しては、だいたい40ポンドのダウンフォースが追加されるのに対して、ドラッグはほとんど増えないので、僕の予想どおり全チームが使用していたようです。

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ほとんどのチームはタイヤ・ランプも装着していましたが、トップ・チームの中でガナッシの2台はサイドポッズ・エクステンションを外して走行していました。オプションで装備できるようになった空力パーツは、すべて効率性の高い(ダウンフォースとドラッグの増える割合)パーツなので、使わなきゃ損という結論でしょうか?!?

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各チームは、オプションパーツを使い効率的にダウンフォースを稼ぎ、フロント・ウィングを寝かし、フロントの車高を上げ、リアの車高を限界まで下げたりすること事によって、できる限りドラッグを減らすセッティングを試みたのだと推測されます。
初日がキャンセルされた今回のケンタッキーでは練習走行がほとんどなく、ぶっつけ本番だっただけに、マシン・セットは熟成されないままレースとなりました。しかしエドやトニーの活躍を見る限りでは、オプション・パーツを活かしたセッティングをすることによって、ペンスキーやガナッシとも十分に戦えるようになったのだと納得できましたね。

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レース序盤をリードして、2年連続優勝の期待がかかっていたスコット・ディクソンですが、レース中の車載映像を見ていて気になったのはギア比です。今回のレースは、チーム・エンジニアの予想以上にスピードが速かったのか、トップ・ギヤが短すぎてストレートで頭打ちしていました。
トップで走っている時は、マシンに空気があたって大きな抵抗を受けるだけに、エンジン回転数を高く保てる短めのギヤ比でも問題はありません。しかしドラフトに入って回転数が頭打ちしていると、それ以上にスピードは出なくなってしまうので、当然オーバーテークも困難となってしまいます。レース後半にスコットが猛烈な追い上げを見せなかったのは、マシンのバランス以外にギヤ比にも問題があったのかと推測できます。
特に今回から採用されている、200rpm+のHONDAボタンを使用した時のことを考えると、トップ・ギヤは今まで以上にロングのギヤ比を組み込むべきだと思います。エンジニアとしては、ギヤ比をどのスピード域で設定するのかが、今後の悩むポイントとなるでしょう。
残り5戦となった今年のインディカー・シリーズは、今週末ミド‐オハイオでレースが行われます。ワトキンス・グレン以来のロード・コースのレースなので、ジャスティン・ウィルソンやグラハム・レイホールの活躍が期待されます。

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ヒデキも先週末のケンタッキーでは原因不明のトラブルでスピードが伸びず、不本意な結果で終わっているだけに、今週末のミド‐オハイオのレースでは爆発した走りを期待したいところです。ここで2週間前にテストをして良い結果がでているので、AGR勢は今週末のレースにかなり気合いを入れてくるのではないでしょうか。
さて、あっと言う間に8月になってしまい、インディ・ジャパンが来月だと考えると、もっともっと時間が欲しいなと思ってしまいます・・・。今週中にチームと色々なミーティングがあり、細かい部分を決めていく予定ですが、なんだか人生は常に時間との戦いって感じですね!?!
今は残された時間を最大限に活かして、インディ・ジャパンに少しでも良い体制で挑めるよう、全力でがんばりたいと思っています!