オフシーズン合同テスト「スプリングトレーニング」がホームステッドで行われ、いよいよ2009年シーズンが動き出したインディカー・シリーズ。経済不況の影響で参戦台数などが心配されていましたが、21台の参加で見ごたえある2日間のテストとなりました。
今年の合同テストで関係者が一番注目、というより心配していたのが参加台数でした。昨年末に端を発した世界同時不況の波は、特に震源地となったアメリカでは深刻で、金融系企業が相次いで倒産する事態に陥っています。企業からのスポンサーに頼る面が多いモータースポーツ活動はその影響をもろに被り、今シーズンのスポンサーの撤退が続出。一足早く開幕した人気ナンバー1のNASCARスプリントカップでさえスポンサー不足を露呈して参戦台数は激減し、生き残りのために合併、または活動中止というチームが続出しているのです。そのような状況の中で、心配されたオープンホイールシリーズでしたが、前述の通り21台が参加。当初は20台を切るのではと見られていたので、まずは形にはなったと言えるのではないでしょうか。もちろん、昨年に比べれば5〜6台の減少になっていますし、スポンサーが決定しないまま、まずはテストにエントリーしていたチームもあり、予断は許しませんが、個人的には20台がひとつの“生命線”として見ていたので、ホッとしましたね。それにしても、昨年チャンプカーと統合していなかったら一体どうなっていたのかと思うと、恐ろしいですね。
2日間のテストから、今シーズンの戦力図が徐々に見えてきたように感じました。参加した21台の中で、両日でトップタイムを分け合ったスコット・ディクソンとライアン・ブリスコーのスピードが完全に頭ひとつ抜けていますね。ディフェンディング王者のディクソンは初日に軽々とトップタイムをマークし、余裕すら感じさせます。王者としての貫禄十分で、自信に満ち溢れているという印象でした。9号車のスピードも昨年と変わらずで、走り出しから一気にタイムを上げられるほど、マシンの仕上がりの早さを感じさせました。それでいて、2日間で最多の282周を走り込むなど気合十分。2年ぶりにインディカーに戻ってきたチームメイトのダリオ・フランキッティをタイムで早くも0.2秒も上回っています。今年は得意のロードコース戦も増えていることから、2連覇に向けて早くも死角なしといったところでしょうか。
このディクソンに現状で唯一対抗できそうなドライバー&チームが、ブリスコー&ペンスキーでしょう。チームのエース、エリオ・カストロネベスが脱税容疑で裁判中のためテストに参加できず、3月2日の判決次第ではドライバー引退を余儀なくされる状況にある中、名門チームの命運はブリスコーの双肩に掛かっていると言えます。ブリスコーにとっても、ペンスキーから参戦2年目となる今シーズンに賭ける意気込みは相当なものでしょうし、スタードライバーの仲間入りをできるかどうかは、今年の成績に掛かっているといっても過言ではないかと思います。ブリスコーは王者になれるドライバーとしての素質が十分ありますし、チームにとっても2006年以来3年ぶりの王座奪還を何としても達成したいところ。今回テストでは2日目にトップタイムを叩き出し、ディクソンをチャートの一番上から引き摺り下ろすなど、ドライバー、マシン、そしてチーム全体が早くも戦闘態勢に入るなど気合い十分でしたね。現状でブリスコーがディクソンに比べて足りないのは経験。特に、昨年苦しんだハイスピードオーバルの争いでどのような走りを見せるかが、ディクソン攻略のカギになりそうです。今年は開幕2戦とも市街地戦で、両者とも当然優勝争いは必死でしょうから、今シーズンのふたりの争いを占うには3戦目のカンサスがひとつの見所となってくるように思えます。このふたりの争いは、今シーズンのハイライトなると僕は見ています。
ディクソン、ブリスコーを追う2番手グループが、AGR勢とフランキッティだと思います。AGR勢では、リーダーのトニー・カナーンがテスト初日からタイムアップに苦しみながらも最終的には総合4番手に来るなどさすがのスピードを見せていました。2強にどこまで迫れるかといったところでしょうか。個人的には、カナーンよりもマルコに注目しています。2強に次ぐ総合3番手につけ、いい仕上がり具合を見せていました。衝撃のルーキーイヤーからここ2年間は未勝利と完全に周囲の期待を裏切り続けているマルコ。今年も優勝なしとなれば、その存在感が薄れていってしまうことでしょう。今年はチームと共にチームUSAとしてA1GPにも参戦を開始し、先に発表されたUSF1のドライバー最有力候補に上がるなど、周囲からの注目は増すばかり。しかし、“本業”のインディカーで結果を残すことが大前提です。マルコ自身もその辺はよくわかっているでしょうし、今季のマルコにはぜひ注目してみてください。昨年はガナッシとペンスキーにマシンのスピードで遅れを取ったAGRは、テスト初日こそスピード不足で「今年も?」と思わされましたが、2日目にしっかり立て直してきてマルコとカナーンが3、4番手につけたところはさすが名門チーム。参戦2年目で成長著しい武藤英紀への期待も高いですし、チームと契約最終年となるダニカ・パトリックも昨年の再現を狙っているでしょう。やはり、AGRは今年も何かやってくれそうな予感がしますね。
ビッグ3以外で注目なのがニューマン/ハース/ラニガン・レーシング(NHR)。スポンサー不足でジャスティン・ウイルソンを放出したのは残念でしたが、チーム加入3年目のグラハム・レイホールがその穴を十分埋めてくれそうな予感がします。昨年はオーバルで苦しみましたが、テストでは総合10番手とまずまず。元F1ドライバーのロバート・ドーンボスがチームに加入したこともNHLRにとっては間違いなくプラス。2年前にチャンプカーにフル参戦し、2勝を挙げるなど適応能力の早さを見せたドーンボスは、ロードコース戦では恐らくすぐにでも優勝争いに絡んでくることは確実です。オーバルでどれだけパフォーマンスを発揮できるかがカギでしょうが、何かやってくれそうな独特の雰囲気を感じましたね。チームは今年3台体制に拡大し、ビッグ3追撃の体制を整えるほどで、今シーズン一番注目したいチームではあります。ただ、3台目として今回走らせたのがミルカ・デュノというのは驚きでしたね。CITGOの巨額スポンサーを持ち込んできたためではありますが、「名門チームも金には勝てなかったか」と現地メディアから厳しい見方もされていました。まだ正式発表はありませんが、ミルカのチーム入りは99%確定でしょう。果たして、ミルカが名門チームのシートを得てどんな走りを見せてくれるのでしょうか?
2日間のテストで俄然注目を集めていたのがマリオ・モラエスです。デイルコインからKVレーシングに移籍したモラエスは、テストで好タイムを連発し、総合ではダリオに次ぐ6番手につけて周囲を驚かせました。弱冠20歳というのはグラハムと同じすが、イギリスF3にも参戦していた実力派。昨年はミドオハイオでレース中盤にトップを快走し、名を売ったモラエスなので、戦闘力のあるKVに移籍して今年一気にブレイクしそうな予感がします。チャンプカー系のKVはロードコースでの実績は十分ですし、オーバルでもこれだけのタイムを出せれば、ひょっとしたら優勝の可能性も十分ありそうです。新たなスタードライバー誕生を期待しましょう。
移籍組では、パンサーに移ったダン・ウェルドンがさすがの走りを披露。タイトル争いからは一歩後退してしまいそうですが、得意のオーバルでは十分優勝争いをするだけのスピードがありそうです。それと、今年インディカーデビューするホンダF1の元テストドライバー、マイク・コンウェイも気になるドライバーではありますね。オーバル初走行だったにもかかわらず、2日目のセッション終了間際にグラハムを上回る総合9番手タイムを叩き出し、ポテンシャルの高さを見せていました。ドーンボスとのルーキー・オブ・ザ・イヤー対決にも注目したいですね。