<US-RACING>
先週火曜日にお送りしたアキュラ総合優勝インタビューでは、ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント(HPD)のチーフ・エンジニアである堀内 大資氏に、アメリカン・ル・マン・シリーズ(ALMS)参戦から、初めての総合優勝にいたるまでの道のりをお話いただいた。今回お届けする後編は、目標のひとつであった総合優勝を成し遂げたアキュラが、今シーズン終盤や翌年以降にむけてどのような展望を持って戦っていくのかを、引き続き堀内氏に語っていただいた。(インタビュアー:川合啓太)
Q:今後の展望についてお伺いしますが、まず最高峰クラスであるP1クラスへの参戦は考えているのでしょうか?
HD:「私の個人的なイメージだとP1に挑戦するのは、P2でチャンピオンを獲った次のステップだと思っています。今年P2のチャンピオンを獲って、来年はP1に出場するというシナリオの下に、P1エンジンの開発も始めています。ただし、出られるかどうかは分かりません。
P1とP2のレギュレーションの差からいって、今のHPDでできる範囲ではP2エンジンのモディファイだけなので、エンジンは同じエンジンで出なくてはいけないというのが、苦しいですけども大前提になります。
HPDというのは現地開発を目標として2003年から再出発しています。今ようやく設計、テスト、部品製作を含めたワンサイクルが終わって、今年P2のチャンピオンを狙っているという状況です。ですから、そこまでしかできないので、P1専用のエンジンに関しては、残念ながら開発ができません。次の段階へはこれから進んでいくということです。しかし、アメリカ人のスタッフだけで、アメリカにおいて部品の製作を進め、しっかり戦えるエンジンを作れるということが、このレースで十分証明できたと思います」
Q:ル・マン24時間レースへの挑戦はどうでしょうか?
HD:「アメリカン・ホンダのレース活動なので、北米からは出ません。HPDの役割は、北米でのレース活動をアメリカン・ホンダとともにやっていくことですから、あくまでインディをホンダとしてサポートし、アキュラとしてALMSで戦っていくというのが大前提になります」
Q:アメリカから出ないということは、来年から始まるというアジア・ル・マンについても同じ考えでしょうか?
HD:「今のところ全然考えていません。アメリカから出るというアクティビティは、むしろホンダ全体のモータースポーツ活動として考えることだと思います。アメリカン・ル・マンの遠征や、オールスター戦ということになれば出場すると思いますが」
Q:ALMSは環境への取り組み積極的ですが、今後アキュラとして環境技術にどのように取り組んでいくのでしょうか?
HD:「アキュラでやっていることなので、環境について何か打ち出さなくてはいけないと思っています。今年のプチ・ル・マンからグリーン・チャレンジというのが始まりますが、今のARXはE10ガソリンで走っていますので、今のままではE85のコルベットには全然かなわないですね。HPDとしても ALMSの次のステップに向けて エネルギー・リカバリー等の検討に着手しています」
Q:現在、アメリカン・ル・マンではE10燃料を使い、インディカーはイルモア・ベースのエンジンではありますが、昨年からE100を使用しています。もともとALMSで使われているエンジンは、次期IRL用に開発されたと伺いましたが、今後E100を使用しての参戦ということは考えていらっしゃるのでしょうか?また、技術的にALMS用エンジンがE100で走るということは可能なのですか?
HD:「現在のALMSのエンジンで E100で走るには、フューエル・インジェクターの仕様を変更すれば走ることは可能です。しかし、圧縮比をE100に合わせるなど、燃料の噴射時期や点火時期の変更が必要になり、結局そのままで走るという訳にはいきません。さらに、マックス・パワーを狙うためには燃料の供給方法も変更することになると思います。従って、E100でレース参戦となると、吸気系・燃料系の大変更をしたくなります。
E10はほとんどガソリンで、アメリカで市販されるレギュラー・ガソリンもE10といって良いかもしれません。E85 と E100は アルコールですが、IRLで使っている燃料は飲めないようにするため E98になっており、フューエル・グレイド・エタノールと言っています。かつてのIRLエンジンはM100(メタノール)からE100(エタノール)へ変更する際、実際にパワーを合わせるため3.0Lから3.5Lへ戻しましたが、アルコール同士なので大変更が必要なく、一方ALMS用にするためにはガソリン仕様への大変更が必要でした。
現在ALMSでは E10とE85が選べるルールになっています。アルコール濃度が増えるほど エンジンパワーが多少出る傾向にありますが、同時に燃料の消費流量(体積流量)はどんどん増えて、いわゆる燃費が悪化し、E0とE100では半分近くなります。同一タンク容量では ピット回数が増えてしまい、激戦のP2クラスでは現在のところアルコール燃料は選べません。勝負の無いGT1クラスではコルベットが2台ともE85に変えました。
結局、E100で走ることは可能ですが、勝負のかかったクラスでは燃費の面でガソリンとE100の混走はできないと思います。たとえば、E85に統一されてはじめてアルコールでのレースになるのではないかと思います」
Q:では、最後に今シーズン終盤に向けた目標をお願いします。
A:「P2クラスのチャンピオンです!」
このインタビューが行われた直後の第6戦ミド-オハイオのレースで、アキュラはポルシェと一進一退の攻防を繰り広げ、訪れた観衆を大いに沸かせた。残念ながらクラス優勝に一歩届かなかったものの、今やアキュラとポルシェの実力差はないに等しいと感じさせるレースだった。シーズン終盤に向かって、アキュラがどんな戦いを見せてくれるだろうか。