ついにやってくれました。武藤英紀が日本人ドライバー初の2位表彰台フィニッシュ! これまで幾多の日本人ドライバーが挑み、そして届かなかった表彰台を、ようやく武藤が上ってくれたのです。日本モータースポーツ史に残る快挙に、アイオワが大いに沸きました。
日本人ドライバーがインディカー・シリーズの表彰台に上る……これまで届きそうで届かなかったこの成績を、ついに武藤が手にしてくれました。本当に、本当に素晴らしい結果です。最後のリスタートから残り24周は、もう完全に仕事を忘れるほど、僕も大興奮。この日はメディアセンターでレースを観戦していたのですが、最後はいてもいられなくなってピットロード上に飛び出してしまいましたね。トップのダン・ウェルドンを追うと同時に、後ろからはマルコ・アンドレッティの追撃を交わさないといけないというかなり厳しい状況を、ルーキーらしからぬ落ち着いたドライビングで、ミスすることなく切り抜けてチェッカー。ウェルドンを追い抜くことはできなかったものの、堂々2位フィニッシュのチェッカーを受けた瞬間、僕も思わず何度もガッツポーズを作ってしまいました。ビクトリーレーンでの撮影のためすぐに移動しなくてはならず、感激の余韻に浸っている暇はありませんでしたが、これほど感激したレースは初めてといってもいいほどでした。しかし、そんな僕の喜びようとは対照的に、武藤自身は決して満足していなかったのです。
「2位という結果はうれしいですけど、でも悔しさの方が大きいです。(シャンパンファイトも)なんだか複雑な気持ちでした」というのがレース後の武藤の第一声でした。悔しがる原因はふたつ。ひとつは、この結果はチームの作戦によるところが大きかったということ。27号車は161周目のピットインを最後に、無給油で250周目のチェッカーまで走り切る作戦を取ったのですが、それが見事に的中。トップ勢が190周目に給油のためピットインをした際にポジションを一気に2番手まで浮上させることに成功したのです。アイオワ・スピードウェイは1周0.875マイルのショートオーバルながら、ターンの最大傾斜角が14度と大きいことで高速コースとしても知られており、追い抜きが非常に難しいオーバルでもあります。そういったことも加味して、チームは燃費ギャンブルを取り、それが見事に功を奏したのです。武藤にとっては、チーム全員で勝ち取った2位であるものの、ドライバーとしてはそんなに貢献できなかったという想いが強かったことから、満足はできなかったのでしょう。でも、最後の攻防を見ていると、武藤のドライビングは本当に冷静で、安定していたものでしたし、並みのルーキーでしたら必ずプレッシャーに押されミスをしでかしていたほど、厳しい展開でした。それを乗り越えた武藤の走りは十分評価できるものだと思います。二つ目は、最後までウェルドンをかわせなかったこと。後ろからマルコが迫っていたためアウト側のラインを取ることができず、それが最後までウェルドンに挑めなかった原因になってしまったのです。「最後は後ろからマルコも来ていたので位置取りが厳しくて、思う通りの自分のラインが取れなかったのが残念でした」とは武藤の弁。チームメイトのマルコとチーム一丸となって、ウェルドン攻略に向かって欲しかったですが、まあそれもレース。むしろ、レース後に悔しさを露にしていた武藤の表情を見て、改めて頼もしく思ってしまいましたね。
記録上の話をすると、武藤の2位というのはCART時代も含めて、2003年テキサスで高木虎之介が達成した3位を上回る日本人ドライバーによる最高位。高木が達成した当時のインディカー・シリーズに表彰台のセレモニーはなかったため、初めて表彰台に上った日本人ドライバーとなったのです。1990年のフェニックスでヒロ松下が当時のPPGインディカー・ワールド・シリーズに日本人ドライバーとして初めて参戦を開始してから18年。これまで幾多の日本人ドライバーが挑み、届かなかった表彰台についに武藤がたどり着いたのです。その歴史的瞬間に立ち会えた自分は本当に幸運だったと思います。さあ、残るターゲットはただひとつ。「これであとは目指すべきものはひとつ。“優勝”だけに集中していきたいです」。武藤の優勝を目指した新しい戦いに期待したいです。本当におめでとう!