<US-RACING>
武藤英紀が日本人として初めて2位表彰台を獲得する、見事な結果を残してくれた。昨日のプラクティスで総合トップ・タイムを記録し、決勝での走りが大いに期待された武藤だが、予想に反してスタートからみるみるうちに後退。一時は16番手までその順位を落としてしまう。それでも、ピット・ストップのたびにフロント・ウイングを調整し、ペースを回復。トップ10まで順位を取り戻すと、上位陣がコーションを利用して190周目にピット・インするのに対し、フィニッシュまで燃料が持たないことを承知でコースに留まる賭けに出た。一気に2番手まで躍進した武藤にツキがめぐり、なんと197周目と212周目に続けてコーションが発生する。これでフィニッシュまでの燃料を確保し、後はトップのウエルドンを捉えるだけ。日本人が待ち望んだ初優勝の期待が大きく膨らむが、ウエルドンに0.1430秒届かず、自己ベストの6位を大きく上回る2位でフィニッシュした。
何とか武藤をしのいだダン・ウエルドンは、30歳の誕生日を祝う今シーズン2勝目。不運なクラッシュによって、2レース続けてバック・アップ・カーを使用することになったが、今回はツキを呼び寄せることができた。嬉しそうに両手を挙げるウエルドンの横で、武藤は自己ベスト更新の喜びよりも、勝利を逃した悔しさが表情に出ている。トロフィーを受けとり、シャンパン・ファイトを行ったときには、さすがに表情が崩れる場面があったものの、それ以外は終始厳しい表情だった。武藤がほんとうの笑顔を見せてくれるのは、優勝したときなのかもしれない。ちなみに、これまでの日本人最高位は高木虎之介の3位だったが、その当時は3位までの表彰式がなく、武藤は日本人として初めてインディカーの表彰台に乗ることになった。
「2位という結果は嬉しいですが、悔しさも大きく、複雑な気持ちです。自分が思い浮かべていた表彰台フィニッシュより、かなり喜びが少ないものでしたね。終盤はウエルドンを抜けると思っていましたが、アウト側にマルコがいたので、思い通りのラインが取れませんでした。後ろに誰もいなければ、もう少し外からアプローチしてインに入って、最終ターンで抜けたと思います。けっこうイエローが出たので燃料に問題がなく、ようやく作戦がはまったかなという感じでした。6位以下だったことも、思い切った作戦に踏み切れた理由ですね。終盤のペースは良かったですけど、中盤に実力で順位を上げられるようにならないと、ほんとうに喜べないと思います。日本人として初めてトロフィーをもらったことも知りませんでした。(僕の代わりに)皆さんで喜んでください(笑)。リッチモンドは同じようなコースですし、トップ5のハードルは越えたので、優勝だけに集中します」と決意する武藤。今シーズン中に武藤が表彰台の中央で微笑む姿が見られることを期待する。
8番手からスタートしたマルコ・アンドレッティは、スタートから2周で一気に4番手へ躍進し、レース中盤の135周目にはトップに躍り出る。190周目にピット・インを行ったことで、いったん順位を落とすが、227周目のリスタートで3番手まで取り返すと、燃料に余裕があることをいかし、激しく武藤を攻め立てた。残り2周となったとき、武藤のイン側をこじ開けようと試みるも、一歩も引かない武藤に根負けし、そのまま3位でフィニッシュ。マシンを降りたアンドレッティは、武藤に駆け寄り、互いの健闘を称えあった。「クリーンなバトルだったね。ファンのみんなも楽しんでくれたと思うよ。ヒデキとのバトルはエキサイティングだったけど、とてもフェアなものだった」とレースを振り返るアンドレッティ。昨年と同じく上位を争うレース展開を見せたが、オーバル初制覇までの道のりはまだまだ続く。
ペンスキーを抑え、トップ5に入る健闘を見せたA.J.フォイト4世。18番手スタートから、わずか1周で12番手までジャンプ・アップすると、力強いペースを維持してさらに順位を上げていく。アンドレッティ・グリーンやチップ・ガナッシという強力なライバルを相手に、131周目には5番手まで順位を上げ、フィニッシュまでそのポジションを守り抜いた。「今シーズン・ベストのレースだね。長いあいだアウト・サイドで走るのは、とても楽しかった。この調子でトップ5フィニッシュが続けられたらと思うよ。今日の順位はとても嬉しいね」と喜ぶフォイト4世。彼が所属するヴィジョン・レーシングや、パンサー・レーシング、レイホール・レターマンなど、第4勢力がビッグ3を脅かす力を付けつつあるようだ。
決勝日は朝から快晴となるアイオワ・スピードウェイ。気温は26度に達したが、湿度が高くないため、それほど暑さを感じず、レース観戦に適した陽気だった。レース名が「アイオワ・コーン・インディ250」となっている通り、アイオワはエタノールの原料であるトウモロコシの最大産地。そのためエンジン始動の掛け声も、「スタート・ユア・コーン・エタノール・エンジン」と、他のイベントとは違う工夫がなされ、全24台がコースへ飛び出していった。
グランド・スタンドはほぼ満席となり、4万人の大観衆が見つめる中、午後12時31分にスタートが切られた。予選がキャンセルされたため、グリッドはポイント・ランキング順となり、奇しくも昨年と同じディクソンとカストロネベスの二人がフロント・ローに並んだ。今週末いまいち調子に乗れていないというディクソンは、スタート直後にアウトからカストロネベスにかわされ、カナーンにもポジションを許してしまう。今日はトップ争いができる状態ではなかったが、それでも最後はきっちり4位に入り、さすがディクソンというところを見せた。ポイント・ランキング・トップの座もしっかり守っている。
レース序盤で激しいドッグ・ファイトを演じたエリオ・カストロネベスとトニー・カナーン。ともにブラジル出身であり、長年同じ舞台で戦ってきただけあって、互いの手の内を知り尽くしたベテラン同士のバトルは、スリリングさのなかに若手の争いにはない安心感があった。コーションが発生すると、リスタートでアグレッシブにカナーンからトップをもぎ取るカストロネベスに対し、ピット・ストップでスマートに順位を取り戻すという二人のバトルがレース中盤まで続いた。優勝候補筆頭のベテラン二人だったが、今日はピット戦略に破れ、ともに今シーズン初勝利を逃した。特にカナーンは武藤英紀を追っていた3番手走行中の212周目に、単独クラッシュを喫し、痛すぎる戦線離脱となってしまった。
今日の勝負を分けたのは、この日4回目となるコーション中の190周目にピット・インするかしないかだった。その前にピット・ストップが行われたのは、3回目のコーション中の160周目。250周レースの残り90周をノー・ピットで走りきる作戦は、かなりギャンブル的要素が強かった。しかし、今回は見事にこの作戦が的中し、ウエルドンと武藤がトップ2でフィニッシュした。手堅い戦略とギャンブル的戦略が入り乱れることで、最後まで誰が勝つかわからない今日のレースは、まさにインディカーの魅力そのものだ。