INDY CAR

武藤英紀、日本人ドライバー史上ベストの2位フィニッシュ

<Formula Dream Indy>
<2008 IRLインディカー・シリーズ 第8戦アイオワIowa Corn Indy 250>
【日 程】2008年6月21〜22日
【開催地】アイオワ州ニュートン
【コース】アイオワ・スピードウェイ
【距 離】オーバルコース:0.894マイル(1.438km)
【天 候】22日:快晴/気温24〜26℃
【時 間】午後0時30分〜(日本時間6月23日午前2時30分〜)

■■■6月22日決勝■■■
<オーバーテイクが難しいアイオワのショートオーバル>
 アイオワ・スピードウェイは路面がスムーズで、バンクも最大14度あるため、ほぼアクセル全開で1周を走ることが可能だ。インディカーはここでの1ラップ平均が時速約185mph(=約297.665km/h)にも達する。第6戦が行われたザ・ミルウォーキー・マイルは全長が1マイルと若干長いが、フラットなコースであるために平均時速は17mph(=約27.353km/h)以上も遅い。
 ミルウォーキーより5度も大きな14度バンクによって、ここアイオワではサイド・バイ・サイドのバトルが期待できると思われがちだ。しかし実際には、アクセルをほとんど戻さないままの戦いとなるためマシン間のスピード差が生まれにくく、オーバーテイクは難しいのだ。
<快晴の下で24台がスタート>
 今日もアイオワ州デモインには快晴が広がり、夏の到来を感じさせる日差しの下でIRLインディカー・シリーズ第8戦のスタートは切られた。アイオワ・スピードウェイの全長は0.894マイル(1.438km)。シリーズで2番目に短いショートオーバルでの250周にわたるドッグファイトが始まった。今回のレースには26台がエントリーしたが、2台が予選前のプラクティスでアクシデントを起こし、決勝に駒を進めたのは24台であった。
<序盤で苦しいポジションダウン>
 武藤はスタートで7位から11位までポジションを落とし、その後もオーバーテイクを許して36周目までに13位まで後退した。ここでエド・カーペンターのアクシデントが発生。12位へとひとつ順位を戻したが、ピットストップでウィル・パワーに先行されて13位で第2スティントを迎えることとなった。
<着実にポジションを挽回>
 レースが中盤へと突入しても武藤のポジションは飛躍的に向上することはなく、逆に100周を終えた時点では15位にまでダウンしていた。しかし、2回目のピットストップを終えた後のリスタートで2台をオーバーテイク。3回目のピットストップではクルーが武藤にトップ10でのレース復帰を果たさせた。2度のピットストップでフロントウイングを立てるセッティング変更を施したことで、マシンはスピードを取り戻した。
<残り60周のフルコースコーション>
 ハイスピードで進んだレースは終盤戦を迎えた。250周のレースの187周目、1台のマシンがスピンし、4回目のフルコースコーションが発生。190周目にトップグループはピットストップへと雪崩れ込んだ。しかし、ここで武藤陣営はコースにステイアウトする作戦に出た。
 前回のピットストップからはすでに30周が経過していた。ゴールまでの残り周回数は60周。無給油で走り切るのは難しい距離である。190周目にピットに入ったチームは、何の問題もなくゴールまで走り切ることが可能だった。
 しかし、ピットに入らないことでトラフィックから抜け出すアドバンテージをチームは選んだ。ゴールを目の前にしてフルコースコーションが出されれば燃費セーブの心配がなくなる可能性もあった。
<トップ3バトル>
 202周目にリスタートが切られ、その3周後には給油組の中からトニー・カナーンが3位へと浮上してきた。武藤はリスタートで2位を守り、トップをいくウェルドンにアタックするチャンスをうかがった。
 211周目、武藤との距離が思うように縮められずにいたカナーンがクラッシュ。リヤから激しく壁にヒットし、オイルが漏れたためにコース清掃には長い時間が必要になった。
 このフルコースコーションが14周にも及んだため、ダン・ウェルドンも武藤も燃費を気にすることなくゴールまで戦えることとなった。しかし、3位以下にはマルコ・アンドレッティ、スコット・ディクソン、ダニカ・パトリック、エリオ・カストロネベスといった強豪が並んでいた。
 武藤はウェルドンにアタックし、後方からはマルコが2位の座を奪おうとチャレンジしてきた。このバトルは227周目のリスタートからゴールまで続いた。武藤はアンドレッティの攻撃をついに退けきって、ウェルドンには0.1430秒及ばなかったが、キャリアベストとなる2位でゴール。初めての表彰台に上った。2位は日本人インディカー・ドライバーとしてのベストリザルトだ。これまでのベストは2003年のテキサス・モーター・スピードウェイにおける高木虎之介の3位だった。また、武藤は今回の2位フィニッシュによって40点を稼ぎ、ポイントスタンディングでトップ5に食い込むことにもなった。
■■■コメント■■■
<武藤英紀>
「トップ5入りという目標を達成できたので、これからは優勝だけに集中していきます」
「2位はうれしい結果ですが、ダン(ウェルドン)を抜けなかったことが悔しい、という感じが自分の中では強いですね。スタートでのマシン、その後のトラフィックの中でのマシンは乗りづらかったのですが、途中からマシンのハンドリングが良くなって、リスタートで何台かをパスすることができました。でも、昨日までのような良いフィーリングではありませんでした。基本的にアンダーステアで、フロントがグリップしている感じがなかったのです。そこでピットストップでフロントウイングを立てていったんですが、グリップがちょうど良いところを一気に飛び越してリヤが滑る方向にいって、また乗りづらいマシンになっていました。
 それでもピットに入らない作戦で2位に上がってからは、1台しか前を走っていない状態になり、マシンのバランスは良いものになっていました。ダンに近づくことができ、いけるかな? と思ったんですが、外側にマルコ・アンドレッティが常にいたので、自分の思いどおりのラインが取れなかった。彼はチームメイトなので、自分の走りたいところより少しイン側を走っていました。あの時に誰も後ろにいなかったら、ダンを抜くことができていたかもしれない。ターン4でもっと外側からアプローチして、ダンのインへと入っていくラインが取れていたら……と思います。
 表彰台に上ったこともうれしいのですが、悔しさも大きいから複雑な心境でした。最後は戦えるペースで走れていたというレースでしたが、実力というより、作戦面による2位でもありますから。やっぱり中盤に自分の実力でもっとポジションを前へと持ってこれるようにしないといけないですね。
 6位を一度達成してからは、トップ5入りをずっと目標にしてきました。今回2位に入ることができたのは、自分としては少し早いタイミングとも思いますが、これでまたひとつハードルを越えることができたので、これからは優勝だけに集中していきます」

<レイ・ガスリン:レースエンジニア>
「ヒデキはすばらしいドライビングを見せてくれた」
「優勝だったらもっとうれしかったが、2位はとても良い結果だ。最後のイエローがなかったら燃費はかなり厳しかっただろうが、あのイエローのおかげでゴール前のバトルをフルパワーで戦えた。テキサスでは裏目に出たが、今回は燃費の作戦が当たった。残念だったのは、最後のバトルでダン・ウェルドンをパスできなかったことだ。
 今日のレースでの我々は、スタート時にはハンドリングがルーズで、レースを通して見るとアンダーステアが強かった。予測されていたとおりにオーバーテイクが非常に難しいレースとなり、リスタートが順位を上げる大きなチャンスであったが、我々はルーズなハンドリングだったために前半は苦しい戦いになっていた。
 トラフィックが多い今回のようなレースでは、トラフィックの中での走行を考えるとハンドリングはルーズ側にあることが必要だ。しかし、それは危険な状況を保ったまま走ることを意味する。ルーキーにとっては非常に難しいが、そういうマシンでなければトップ争いをすることはできないのだ。
 ヒデキは苦しい中でもリスタートで何台かをパスし、自分の前に1台しかマシンがいない状況では素晴らしいドライビングを見せてくれた。
 来週のリッチモンドでは、作戦によって上位に食い込むのではなく、トップ争いをスタートから戦って上位フィニッシュを勝ち取りたい。テストで良い感触を得られているので、それは可能だと思う。予選で上位のポジションを獲得すれば、トラフィックに煩わされることなくトップ争いをすることができるだろう」
■■■決勝結果■■■
0.894マイル(1.438km)×250周=223.5マイル(359.689km)  出走24台
順位 No.  ドライバー     タイム     平均速度mph(km/h)
1位  10  D.ウェルドン    1:38’35.8923  136.007(218.882)
2位  27  武藤英紀        +0.1430  136.003(218.876)
3位  26  M.アンドレッティ    +0.9028  135.986(218.848)
4位  9  S.ディクソン      +1.2726  135.977(218.834)
5位  2  AJ.フォイトIV      +1.3564  135.975(218.831)
※全車シャシー:ダラーラ/エンジン:Honda/タイヤ:ファイアストン
■■■ポイントスタンディング■■■
順位 No.  ドライバー     ポイント       ビハインド
1位  9  S.ディクソン      316        リーダー
2位  3  H.カストロネベス    268           -48
3位  10  D.ウェルドン      267           -49
4位  11  T.カナーン       216          -100
5位  27  武藤英紀        199          -117