前回のコラムで、1月7日からのNASCARスプリント・カップのデイトナ合同テストのこと、特に参戦2年目のトヨタの話題を中心にお話させていただきました。今回はその続編ということで、今シーズンのNASCARの移籍ドライバーなど、変更点について書かせていただこうと思います。
2008年シーズンのNASCARは、多くの点で変化を感じることのできるシーズンになります。まずハード面から見ると、CoT(カー・オブ・トゥモロー)の車両に全面移行されます。CoTは、NASCARのR&Dディビジョンが、安全性と競争性の向上を目指して開発した次世代ストックカー車両。昨年は1マイル以下のオーバルレースと、シーズン終盤のタラデガでのリストリクター・プレート・レースの計16戦で使用されましたが、今年から1年前倒しで全面移行されることが決定しました。車両のデザインが今までのストックカーとは大きく異なり、より市販車ルックに近い、どちらかというとツーリングカー車両のようなシェイプですね。これにはドライバーからも賛否両論ありますが、僕の個人的には「ストックカーっぽくない」というのが第一印象でした。まあ、そのうち慣れてくるんでしょうけど……。当然ながらCoTに関する走行データは各チームとも不足しているので、計6日間のテスト期間中、あらゆることを想定したテストを実施してデータ取得に努めていました。この車両の全面導入によって、NASCARの勢力図が大きく変わることもありえるでしょうから、そういう意味では非常に興味深いですね。
また、ご存知のようにシリーズの名称が「スプリント・カップ」に今年から変更になりました。これは、今までのネクステル社が同業の米携帯大手スプリント社に買収されたためです。アメリカには「スプリントカー」という伝統的なオーバルレースもあるのでちょっと紛らわしい気もしますが、これも時間が解決してくれるでしょう。また、ひとつ下のブッシュ・シリーズも、今年から「ネイションワイド・シリーズ」にこれまた名称変更されました。昨年いっぱいで米ビール大手アンハウザー・ブッシュ社との25年にも及ぶ契約が終了し、新たに米保険大手のネイションワイド社がNASCAR第2のシリーズのネーミングライツ(命名権)を買い取ったための変更です。「いちいちシリーズ名称を変更されたんじゃ紛らわしくってしょうがないよ!」と思う人もいるかと思いますが、“スポンサーあってのプロフェッショナル・スポーツ”、こればかりは避けては通れない道なんです。テスト中のパドックにも、早くも新しいロゴがそこかしこで見られましたね。ちなみに、ネイションワイド・シリーズでは昨年までのストックカー車両を使用するため、NASCAR史上初めて、クラフツマントラック・シリーズを含めたトップ3カテゴリーの車両がすべて異なることになります。各シリーズの差別化を推進していきたいNASCARから見れば非常にいい移行だったのではと思います。
さて、次にソフト面を見てみると、一番の注目はデイル・アーンハートJrがチャンピオンチームのヘンドリック・モータースポーツへ移籍したこと。継母でDEI(デイル・アーンハート・インク)のチームオーナーだったテレサ・アーンハートと対立し、偉大な父の名を冠したチームを飛び出したアーンハートJr。その行き先がヘンドリックだったという発表があったのが昨年6月。そして今回のテストで初めてヘンドリックのステアリングを握りました。カーナンバーも代名詞だった“8”から“88”への変更を余儀なくされ、スポンサーもバドワイザーからUSナショナルガードとマウテンデューに変更されたため、カラーリングはグリーンを基調としたものとなるなど、まさに“新生アーンハートJr”といっていいほど強烈な印象でした。NASCARきっての超人気ドライバーらしく、連日アーンハートJrのピット周辺には多くの報道陣が詰め掛けていて、一挙手一投足に神経を張り巡らせていたのが印象的でしたね。そのアーンハートJrはテスト5日目にトップタイムをマークするなど早くもやる気満々。悲願のタイトル獲得へ並々ならぬ闘志を見せていました。それにしても、ジェフ・ゴードンとジミー・ジョンソンとの夢のトリオの実現は今からほんとうに楽しみです。
アーンハートJrからバドワイザーのスポンサーを引き継いだケイシー・ケーンも今年は注目です。その“ベイビーフェイス・ルック”から女性ファンに大人気のケーンは、テスト最終日に最速ラップをマーク。昨年はダッジの戦闘力不足もあって未勝利、ランキングも19位に沈む失意のシーズンを送っていたケーンですから、今年に賭ける意気込みは並々ならぬものがあるはずです。また、新規参入組では、やはりオープン・ホイール出身組に大きな注目が集まりそうです。何せ今シーズンからスプリント・カップにフル参戦を開始する“ルーキードライバー”には、ダリオ・フランキッティ、サム・ホーニッシュJr、パトリック・カーペンティア、そしてジャック・ビルヌーブという大物揃い。前記の3人はそれぞれチップ・ガナッシ、ペンスキー、エバンハムとダッジのビッグチームからの参戦で、優勝も十分狙える体制です。ビルヌーブのビル・デイビスは中堅チームではありますが、前回のコラムで紹介したように今年はトヨタ・カムリの戦闘力がかなり期待できることから、3人に負けず劣らずの成績が期待できるかもしれません。今回のテストでは、フランキッティは連日トップ3に顔を出すほど好調でしたし、ビルヌーブはカムリのスピードもあってかチャートの上位に顔を出すなど、早くも最高峰スプリント・カップのクルマに手ごたえを感じているようでした。このオープン・ホイール組にとっては、昨年ファン-パブロ・モントーヤが残した「ロードコース1勝&ランキング20位」というのがある程度のターゲットとなるのでしょうが、果たしてオープン・ホイール組がどこまでやれるのかもかなり楽しみですね。
前回紹介した強豪ジョー・ギブス・レーシングのトヨタ入りも含め、多くの変化のあるNASCAR2008年シーズン。どのようなシーズンになっていくのか、今年は大注目です!