INDY CAR

2008年インディ・ジャパン記者発表会に出席した武藤英紀のコメント

<US-RACING>

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2008年4月17日から19日にかけて栃木県のツインリンクもてぎで行われる、ブリヂストン・インディ・ジャパン300マイルの記者発表会が、東京ドーム・ホテルにて盛大に行われた。ゲスト・ドライバーには今シーズン名門アンドレッティ・グリーン・レーシングからインディカー・シリーズへ参戦する武藤英紀選手も登場し、今シーズンの展望や自身初めてとなる凱旋レース、日本のファンが待ち望む日本人ドライバーの地元優勝にかける意気込みを語った。
インディ・ジャパン発表会後には武藤選手の囲み取材も行われ、時折冗談を交えながら発表会とは違った武藤選手のリラックスした表情が見られた。
■記者発表会対談

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Q:今シーズン、アンドレッティ・グリーン・レーシング(以下AGR)から参戦することになりましたが、どういうお気持ちでしょうか?
A:そうですね、はじめにAGRから出ると聞いたときには、正直自分でも信じられなかったです。実際にチームと一緒に仕事をして、テストした上で言えるのは、外から見る印象よりも、チームのみんなが温かいですし、とてもやりがいを感じています。
Q:AGRというチャンピオンチームからデビューするのは、相当なプレッシャーがあるのではないかと思いますが、わりと落ち着いていますね?
A:そうですね。チームが勝つことに慣れているというか、数々優勝してきていますし、みなさんが思うほど優勝に対する想いが強くないので、その中に入ると落ち着いてやれます。
Q:ということは、やはり手ごたえを感じていますか?
A:いや、いつも僕は自信がないですね(笑)
Q:そうですか?
A:ただチームの雰囲気は良いので、ミスなくまとめられれば、勝てるのではないかなと思っています。

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Q:今、勝てるのではないかという言葉が出ましたが、そういう手ごたえをチームとして感じているようですね、でも、やはり我々としては昨年のインディ・プロ・シリーズ(IPS)での実績があるからこそ、AGRから武藤選手に声がかかったのだろうと思っています。
さて、昨年IPSでは2勝も挙げましたね。日本のトップ・カテゴリーにいながら、新天地へ挑戦するというのはどういう気持ちだったのでしょうか?
A:僕は国内ではフォーミュラ・ニッポンとスーパーGTというトップ・カテゴリーに出ていました。その中で最初にIPSの話をいただいたときは、正直ステップ・ダウンになるので、少し抵抗があって悩んだんですが、やはり自分は海外でレースをしたかったというのがありましたし、IPSの先にインディカー参戦ということが実現出来るのであれば、その可能性にかけてもう一度自分を振り出しに戻してやってみようと思いました。
Q:開幕戦からいきなり経験のないオーバルでのレースでしたが、不安などはなかったですか?
A:今思えば、やはり初戦はすごく慎重になっていたかも知れないですね。途中でクラッシュして完走できなければ、何も学ぶことが出来ないですから、走り出しは慎重になりました。それでも開幕から3位になれたので、手ごたえは感じましたね。
Q:適応するスピードがかなり速いようですね?
A:オーバルが自分に向いているのかなと思いましたね。

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Q:昨年はロード・コースとオーバルという性格の違うコースで、それぞれ勝利を挙げましたが、もてぎのオーバルについてはどうでしょうか?
A:いつもは観る側だったので、昨年のホンダ・サンクス・デイのときに実際走ってみた限りでは、ターン3〜4が思ったよりもバンクが浅く、逆にRがきついので、難しいコースだなという印象は受けましたね。
Q:まぁ、でもいけるでしょう?
A:そうですね、チームはもてぎで3勝しているので、自分が4勝目になれたらいいなと、今からわくわくしています。
Q:初めての凱旋レースということに対する思い入れはありますか?
A:今まで凱旋というのは経験がないので、スタート前に「君が代」がかかって日本でレースをするという瞬間は、感極まってしまうかもしれないほど思い入れがあります。
Q:もてぎのレースにはご家族や友人も大勢駆けつけてくれるのではないですか?
A:そうですね、みんなに応援してもらってここまできましたから、もてぎで自分がいい走りをして、みんなと一緒に喜びたいと思っています。
Q:武藤選手といえば、東京生まれの東京育ち。築地の魚屋の息子ということですが、そういうところから和のテイストを武藤選手自身が感じるところはありますか?
A:代々頑固ですよね。僕も性格が頑固だねってよく言われるので、それを代々引き継いできたのかなと思いますね。
Q:その頑固さは、このレースの世界では良いことですか?
A:わりと良い方向に行っているのかなと思います。
Q:正直、家を継いでくれというのはあったのかな?
A:祖父はやはり継いでほしいとずっと言っていましたが、今はもう「やれるだけやれ」という感じで応援してくれています。父親はもともとレースすることを賛成してくれていました。
Q:メジャー・リーグのイチロー選手はよく侍にたとえられることが多いと思いますが、インディカー・シリーズの侍という呼ばれ方をされるのはどうですか?
A:それはすごくいいことですね。侍という響きに負けないように頑張りたいと思います。僕のヘルメットの後頭部には、武藤の「む」が武士の「ぶ」なので、侍をモチーフにしたデザインを施していますよ。
Q:では、その侍が日本で、このインディ・ジャパンでぜひばっさ、ばっさとチャンピオン・ドライバーたちを斬り倒して行って、武藤選手自身が大勢のファンの皆さんと喜びを分かち合えることを期待しています。
それでは最後にビシッとメッセージを伝えてください。
A:もてぎにはたくさんの人が応援しに来てくれると思うし、ぜひ応援しに来てください。そこで皆さんと一緒に歓喜の瞬間を迎えられるように、全力で戦います。勝ちます!!頑張ります!!
■発表会後囲み取材

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Q:12月に2回ほどテストをしていますが、そのときの詳細と感触を教えてください。
A:12月はホームステッドのオーバルと、セブリングのロード・コースでテストを行いました。まず、ホームステッドでは、レースを想定したロング・ディスタンスのセット・アップを主に行ってきたんですけど、1スティント行ったなかでマシンのバランスは良くて、トニー(カナーン)とのタイム差もあまりなかったです。ほかのチームがいなかったから、何ともいえないのですが、チーム内だけでみれば手ごたえを感じれる良いテストでした。
セブリングでは4セットのタイヤを使えるということで、午前中は主にユーズド・タイヤでレース用のセット・アップを行い、終始マルコ(アンドレッティ)よりコンマ2秒くらい速く走れていました。3セット目を履く前にコース・アウトしてしまい、テストが終わってしまいましたけど、そこまでの流れは良かったですし、マルコより速かったことも少し自信につながりました。
Q:テスト時のチームの評価は聞いていますか?
A:最後にコース・アウトしたのは良くなかったけども、それまでの流れは良かったのではないかという評価を得ています。良くて驚いたといわれましたね(笑)
Q:記者発表のときにオーバルがむいていると思ったと言っていましたが、どういう理由でそう思われたのでしょうか?
A:ロード・コースと変わらない感覚で走れるということです。スピード域は確かに速いんですけどね。
Q:それはだんだん慣れてきたという事ですか、それともあるとき突然変わったという事ですか?
A:最初はやっぱり目がついていかないんで、慣れるのに多少時間がかかりましたけど、目が慣れると単独走行に限っては自分の思い通りに走れるようになりました。
Q:Gフォースに関してはどうですか?
A:問題ないです。
Q:ステアリングについてはどうですか。フォーミュラ・ニッポンよりも重いですか?
A:まだロード・コースをじっくり走ったことがないので分かりませんが、あまり変わらないと思います。
Q:まだテストの段階ですが、IPSとインディカーでは何が一番違いますか?
A:やはり一番違うのはスピード感でしょうね。おそらく50〜60km/hはトップ・スピードが違うと思いますけど、200 km/hから250 km/hまでの差よりも、300 km/hから350km/hというのはまた別世界で、今まで色々なマシンを経験したなかでも目がついていかないほどほんとうに速いマシンです。今でもはじめの5〜6周は速く感じますね。
Q:人間のスピードの限界というのは感じますか?
A:スピードに慣れてしまえば、まだまだ370 km/hでもいけそうな気がします。体力的にはまだ余裕がありますし、女性ドライバーもいますしね。
Q:発表会の雰囲気はどうでしたか。「やるぞ」という気持ちになりましたか?目が潤んでいたようにも見えましたけど。。。
A:いや、まったくしてないです。寝不足かもしれないですね(笑)おととい帰ってきたばかりで、まだ時差ぼけが続いています。

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Q:もてぎ以外に楽しみにしているレースはありますか?
A:あまり意識していないですが、開幕戦かな。一年の始まりですからね。良い形でうまく開幕戦を迎えたいと思います。たとえ遅くともあせらないで、じっくり行きたいです。そう言ってるとすぐにもてぎが来ちゃうんですけどね(笑)
Q:AGRはホームステッドを得意としていないようで、逆にもてぎやインディアナポリスを得意としているようですね。
A:そうですね。チームによって得意不得意はあると思いますので、仮にホームステッドで良くなくても、絶対に良い時が来ると思います。
Q:インディカーではまだインディアナポリスのオーバルを経験していませんが、どのような印象を持っていますか?
A:やはり日本人の僕にとってはもてぎのレースが一番重要なんですが、次といえばインディ500でしょうね。アメリカ人にとってはインディ500がメイン・レースですし、チームも当然インディ500を重要視していると思います。でもトニーが「インディ500はオレが勝つ」と言っていたので、そこは譲らなくちゃいけないのかな(笑)インディ・ジャパンはトニーが譲ってくれると言っていましたが、もしかしたらマルコが譲ってくれないかも知れないですね(笑)
Q:そういう意味で今のチームメイトとのコミュニケーションはいかがですか?
A:3人とはお互いに冗談を言い合いますし、今のところ良い雰囲気ですね。
Q:武藤選手にとっては最初のもてぎのレースになると思いますが、レースには幼稚園児から高校生くらいまで、かなり多くの観客が来るんですよね。そういう若いファンのみなさんに自分のこういうところを見てほしいというのはありますか?
A:まだ、僕も若いと思っているんですけど(笑)でも、僕も生のレースを観て憧れを抱いたので、みんなに憧れてもらえるようなインパクトのあるアグレッシブな走りを見せたいですね。
Q:サンクス・デイなどでもてぎを走った印象を聞かせてください。
A:ターン1〜2はアメリカにもあるようなレイアウトですよね。ターン3〜4は妙にRがきつく感じるのと、バンクの角度がアメリカのコースに比べると浅いです。路面が良くなかったせいもありますが、最初はブレーキを踏まなくてはいけない感じだったし、ほかのオーバルとは違う癖のあるコースに感じますね。

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Q:アメリカのトップ・カテゴリーのトップ・チームに入った印象や、ほかのチームとの違いというのは何かありますか?
A:まず人数が違いますよね。ファクトリーで言えば、規模がめちゃくちゃ大きいです。それでいて作業の一つ一つが細かい。チームみんなの心は温かいんですけども、仕事が始まると各々の作業を黙々とこなしている印象があります。だから外から見ると冷たい印象を与えてしまうのでしょうね。みんなプロ意識を持ってやっています。ただ、スタッフが130人もいるので名前と顔がなかなか一致しない。いまだに「Nice to meet you」と言ってしまう人もいます(笑)
Q:アメリカの住まいというのは去年と一緒なんですか?
A:はい。インディアナポリスです。
Q:ファクトリーからは近いですか?
A:15分くらいのところですね。距離で言うと15kmくらいです。
Q:今シーズンの目標などはありますか?
A:今までシーズンを通した目標を立てたことがないので、1レース1レースでベストを尽くしてやっています。
Q:AGRというチームで優勝を当然視されていることにプレッシャーはありますか?
A:いままで十数年日本人がインディカーにチャレンジして、だれもまだ勝ったことがない。日本人の目からしても、僕の目からしても1勝というのは大きなものですが、AGRからすると勝利はそう大きなものではなくて、チームの一員というなかで考えると、ミスなくレースを走ればおのずと勝てるんじゃないかなと思います。それが日本にとってはとても大きな1勝になりますね。
Q:アメリカのコースはIPSで経験済みですが、逆にもてぎは経験がないぶん何かドライブする上で気をつけることはありますか?
A:ちょっと分からないですね。もてぎが始まる木曜日に、もう一回同じ質問をしてください(笑)そのときには答えられると思います。でも、日本のファンの皆さんが大勢応援してくれるので、気持ちの後押しは絶対にあると思います。それを活かしたいですね。
Q:中学校を卒業したときには、F1までの道のりということで、日本でスカラシップを取ってヨーロッパに行く佐藤琢磨選手のような近道を思い描いていたのではないかと思いますが、結果的に日本のトップ・カテゴリーまで上り詰めてからアメリカの最高峰シリーズに挑戦するという道のりは、今考えるとどうですか?
A:まぁ、毎年人間の考え方は変わっていきますし、変わっていかなくてはいけないとも思っています。でも振り返れば、日本で大勢の人に知り合えて、またみんなが僕に良くしてくれましたし、全部が良い経験になっているので、マイナスではなかったですよね。今思えば、それぞれが自分にとって必要な年だったかなと思います。それが、十代の僕が描いていたものからすると時間はかかっているかもしれないですけどね。
Q:日本のトップ・カテゴリーで走ったことによって、日本のファンに名前を知ってもらえた状態で凱旋できるというのは、良いことなんじゃないかということですか?
A:今、言われた通りだと思います(笑)あんまり考えことがなかったんですけど、でもそうですね。そういう気持ちもあります。