皆さんご存知のとおり、武藤英紀のアンドレッティ・グリーン・レーシング加入が発表されました。ダリオ・フランキッティがNASCARへの参戦を発表してからは、現地で武藤の名前が噂に上っていたのでまったくの予想外というわけではなかったものの、実際に「AGRに加入」という発表を聞くと、さすがに身震いがするほど興奮してしまいました。アメリカンオープンホイールのトップカテゴリーで、日本人ドライバーがトップチームのひとつに加入するのはもちろん初めて。これは物凄いことです。
いまさら説明するまでもないですが、AGRはIRLを代表するトップチーム。CARTシリーズに参戦していたチーム・グリーンと、2003年のインディ500でフルタイム・ドライバーを引退したマイケル・アンドレッティが合体して創設されたチームで、以来IRLで3度の年間チャンピオンを獲得し、インディ500も2度制覇するなど、名実共にIRLを代表するトップチームです。発表によると、武藤は今シーズンにフランキッティがドライブしていた27号車での参戦になるとのこと。つまり、“インディ500&年間チャンピオンマシン”でルーキーシーズンを戦うことになります。なかなかシビレる内容ですね。武藤のチーム加入で来季のAGRは、トニー・カナーン、マルコ・アンドレッティ、ダニカ・パトリック、そして武藤という4台体制に。フランキッティが抜けたとはいえ、超豪華&強力なドライバーラインアップは健在。ここで武藤がどんな走りをしてくれるのか非常に注目です。
ただ一方で、来季のAGRが今シーズン同様に、果たして毎戦優勝争いを展開できるようになるかは微妙なところ。何せ、ここまでチームのイニシャルセッティングのほとんどを担当していたのが、離脱したフランキッティだったんです。つまり、AGRのマシンセットアップの方向性はすべてフランキッティのクルマがベースとなっていたんです。ワンメイクシリーズのIRLでは、セットアップの差がそのままタイム差として跳ね返ってくることは言うまでもありません。今シーズン第8戦アイオワで、前日までまったくタイムが上がらなかったマルコが決勝に向けてフランキッティのセットアップをそのまま踏襲したら、レースではそのフランキッティを最後まで追い詰めて2位に入ったのは有名な話。フランキッティというセットアップの柱を失ったAGRは、おそらくカナーンを中心にセットアップを行っていくんだとは思いますが、果たして今シーズンまでのようにスムーズに行くのかは懸念されるところです。
また、セットアップだけに限らず、チームメイト同士がコミュニケーションを重ねて情報を共有するのがAGRの仕事の進め方。プラクティス終了後、チームの全ドライバーとクルーチーフらが集まってピット上で緊急ミーティングを重ねているのはIRLではお馴染みの光景です。このチームの輪に、武藤がどれだけ早く入っていけるかも重要なポイントになるはず。インディカーではルーキーですが、武藤には臆することなく、自分の考えや意見をどんどん積極的にチームメイトに伝えていってほしいですね。
この発表の数週間前には、今年のIPS王者アレックス・ロイドが強豪チップ・ガナッシ・レーシングに加入することが明らかになりました。昨年までは、シリーズ王者とてステップアップできなかったIPSでしたが、今季はランキング1&2位の両ドライバーが共に、いきなり優勝も狙えるトップチームのシートを獲得するという劇的な変化が起きています。これはIRLの将来にとっても非常に喜ばしいことです。先のコラムでも述べましたが、IPSは賞金額を増やしたのに続き、このシリーズでの結果がインディカーのシート獲得に繋がることを世界中に知らしめたともいえます。このステップアップをさらに確立できれば、今後も将来有望な若手ドライバーが世界中から集まるはずです。その辺の話についてはまた今度、このコラムで随時お話させていただければ思います。なにはともあれ、武藤とロイドが今度はインディカーでも優勝争いを展開して、良きライバル関係を築いってほしいですね。“AGRの武藤英紀”の走りを見るのが、今から待ちきれません。