<Honda>
2007年9月2日(日)・決勝
会場:ベル・アイル・パーク特設コース(全長2.07マイル)
天候:快晴
気温:25℃
ベル・アイル・パークでメジャーなオープンホイールレースが行われるのは、2001年以来のこととなる。このところの好景気を追い風に、荒廃気味だったデトロイトのダウンタウンでは再開発が急速に進み、ほぼリニューアルは完成といった趣きを呈している。そのダウンタウンのすぐ北、デトロイトリバーに浮かぶベル・アイルも、6年前と比べると整備がいき渡り、美しい景観を備えるようになっている。レースの復活に向け、ピットとパドックエリアも舗装された。
デトロイトといえば、アメリカ自動車産業の首都。地域住民のレースへの理解や期待度は高く、レースイベントの復活は大いに歓迎された。らつ腕プロモーターの活躍もあり、自動車産業に限らない多くのスポンサーが集まり、新生デトロイト・インディ・グランプリはより華やかなイベントとして生まれ変わり、大々的に開催された。今週のアメリカは秋の訪れを告げるレイバーデイ(労働者の日)ウィークエンドで、ベル・アイルにはこの夏最後のビッグ・イベントを楽しもうと数多くのファンが詰め掛けた。レースの復活を喜ぶ地元ファンはデトロイトリバー対岸のカナダからも集まり、ストリートレースならではの活気がベル・アイルにはみなぎっていた。
予選でポールポジションを獲得したのは、エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)。ポイント2位につけているダリオ・フランキッティ(アンドレッティ・グリーン・レーシング)が2番手、そして、第15戦終了時点でポイントリーダーとなったスコット・ディクソン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)が予選3番手につけた。
90周のレースは午後3時半過ぎにスタートが切られ、PPのカストロネベスがトップを堅持。そのすぐ後方ではフランキッティが2位を守ったものの、ディクソンは予選4番手だったトニー・カナーン(アンドレッティ・グリーン・レーシング)に先行を許し、4位へと1つ順位を下げた。この4人はレースが進むにつれて徐々に5位以下を引き離し、トップ争いを続けた。
ところが、レースはアクシデントが多発してピットタイミングがチームごとに異なる展開となり、結果的にベストの作戦は、67周目に出された5回目のフルコースコーションを利用して給油を行うことだった。49周目のピットストップでフランキッティの前に出ていたトニー・カナーン(アンドレッティ・グリーン・レーシング)が3位のポジションからピットへと向かい、一旦は順位を6位まで下げたものの、ライバル勢のほとんどが次に出されたフルコースコーションでピットインしたために残り20周でトップに浮上。そのままゴールまで逃げ切り、今シーズン5勝目を飾った。
フルコースコーションが多くなったため、レースは2時間10分でチェッカーフラッグが振られ、予定の90周より1周少ない89周でゴールとなった。2位にはカナーンと同じタイミングでピットインしたバディ・ライス(ドレイヤー&レインボールド・レーシング)が浮上したが、最終ラップで燃料が底をつき、失速した彼をパスしようとしたディクソンが接触、2台はスピンに陥り、すぐ後方を走っていたフランキッティまでをも巻き込むアクシデントへと発展した。これにより5位を走行していたダニカ・パトリック(アンドレッティ・グリーン・レーシング)が2位でフィニッシュし、ダン・ウェルドン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)が予選16番手から3位フィニッシュを果たした。
チャンピオン争いを展開中のディクソンとフランキッティの戦いは、終始フランキッティ優位のまま進んでいた。しかし、69周目に同じタイミングで2人は最後のピットストップを行い、作業スピードの差でディクソンが前に出ることに成功した。そして迎えた最終ラップ、2台はそろってアクシデントに遭った。フランキッティは走り続けることができたが、1周遅れの6位でゴールすることとなった。ディクソンはライスの後ろの8位フィニッシュとなったため、2人のポイント差はディクソンの4点リードから一転、フランキッティが逆に3点をリードして最終戦シカゴランドを迎えることとなった。また、ポイント3位のカナーンが優勝したことにより、彼にもまだ最終戦で大逆転タイトル獲得の可能性が残されることとなった。
スーパーアグリ・パンサー・レーシングから出場する松浦孝亮は、初めて走るベル・アイルのコースに果敢にアタックした。ミドルフォーミュラの時代からストリートコースを得意とする松浦だったが、プラクティス時にマシンにセッティングミスがあったために苦しい戦いを余儀なくされ、予選順位は14番手と後方からのスタートとなった。オーバーテイクの難しいコースながら、松浦は粘り強い走りを続け、1周の遅れを取ったものの荒れに荒れたレースを最後まで戦い抜き、5位でのゴールを手に入れた。
■コメント
■トニー・カナーン(優勝)
「デトロイトでのレースはすばらしいイベントとして復活した。コースは少々バンピーだが、ストリートコースというのはそもそもそういうものだ。今日のレースは本当に長い戦いになっていた。そして、僕にとって最高のタイミングでフルコースコーションが出された。最後は燃費を十分にセーブしながら、トップを守り通すことに集中し続けた。これで僕にも逆転タイトルの可能性があるまま最終戦を迎えることができる。シカゴランドではタイトルを目指して全力で優勝を狙っていくよ」
ダニカ・パトリック(2位)
「いいところも悪いところもある一日だった。予選は11番手と、最高の週末とはなっていなかったけれど、燃費よく、クレバーに走り続けて、ピットストップでポジションを上げることができれば、上位に食い込めるとわかっていた。レースでも私のマシンは最速の存在ではなかったけれど、バトルに加わるのに必要なだけのスピードは備えていた。ピット作戦も見事で、最後に勝負のできるポジションへと私をピットアウトさせてくれた。不運にも見舞われたけれど、最後に幸運が待っていたことで2位フィニッシュを果たせた」
ダン・ウェルドン(3位)
「プロモーターの見事な仕事ぶりにより、デトロイトのレースは大成功となった。このようなすばらしいレースが我々のIRL IndyCarシリーズには必要だ。レースはファンが楽しむことのできるエキサイティングなものになっていたと思う。ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングにとっては、僕が3位でフィニッシュできた点はよかったが、スコット(ディクソン)にとっては不運な結果となってしまった。しかし、彼はまだタイトルを狙える絶好のポジションにつけている」
■松浦孝亮(5位)
「今日のレースはサバイバルレースになると考えていました。マシンのハンドリングをベストに仕上げられなかった自分としては、とにかくゴールまでコース上に留まり続けることを目指していました。フルコースコーションが出ると、拾ったタイヤかすが何周も取れず、自分たちのマシンがタイヤをうまく使えていないセッティングになっていることを痛感させられました。しかし、最後まで走り続けたことにより5位でフィニッシュすることができました。最終戦は1.5マイルのオーバルです。是非ともいいマシンを作って、今シーズンの締めくくりとして、いいレースをしたいと思います」
ダリオ・フランキッティ(6位)
「僕らのマシンの仕上がりは最高だった。しかし、ピットでスコット(ディクソン)に抜かれてしまった。レース終盤、スコットは僕をブロックし、最終ラップには目の前でスピンし、僕の進路をふさいだ。レーシングアクシデントだったと思う。僕が残念なのは、最終ラップのアクシデントでフルコースコーションを出し、僕らのマシンを動けるようにしてくれなかったことだ。今日はとにかく、ワイルドで荒れたレースとなっていた」
■スコット・ディクソン(7位)
「タイトルに向けて大きな価値のあるポイントを獲得すべく、フランキッティよりも前でフィニッシュできるよう慎重に走っていた。最終ラップでライスをパスするリスクを冒す気などなかった。しかし、彼が燃料切れとなって目の前で失速し、彼を避けようとしたが避けきれなかった。シカゴランドに向けてのポイント争いは自分の望んだ状況ではないが、最終戦での僕らは今回以上にすばらしいレースを戦うことができるはずだ。そして、ファンにとって非常にエキサイティングなレースが繰り広げられることとなるだろう」
■ロジャー・グリフィス(HPDテクニカル・グループ・リーダー)
「デトロイトでのレースは非常にすばらしいイベントとなった。とても多くのファンが集まってくれ、彼らの目の前でエキサイティングなストリートレースが展開された。そして、チャンピオンをかけた戦いは、今シーズンも最終戦までもつれ込むこととなった。今回のレースを4点差のトップで迎えたスコット・ディクソンがランキング2位へと後退。ダリオ・フランキッティは逆に3点差のトップとなってシカゴランドでのファイナルバトルを迎えられる。最終戦は今回以上にエキサイティングな戦いとなるだろう。デトロイトのコースはバンピーで、エンジンのオーバーレブがいくつかあったが、Honda Indy V-8には一切のトラブルは発生しなかった。最終戦での我々には、トラブルを出してチャンピオン争いに影響を及ぼしてはならないというプレッシャーがかかるが、エンジンの信頼性には自信を持っており、最速のドライバーが栄冠を手にするレースを演出することができると考えている」