<US-RACING>
断続的に降る雨が予想もつかないエキサイティングなレースを演出し、めまぐるしくトップが入れ替わるなかで最初にチェッカード・フラッグを受けたのは、ミナルディ・チームUSAのルーキー、ロバート・ドーンボスだった。スタートで2番手に上がるも、レース序盤はトップを走るブルデイにじわじわと引き離され、ピット・ストップでは8位まで順位を落とす苦しい展開となったが、雨がコースを濡らすと彼の走りが冴え渡る。ライバルたちが濡れた路面に足元をすくわれて順位を落とすなか、ドーンボスはただひとりだけまったく危なげない走りを見せた。44周目にウェット・タイヤへ履き替えると、その速さは更なる輝きを放ち、降りしきる雨の中で一時は2番手を走るブルデイよりも1.5秒速い圧巻のラップ・タイムを記録。この日最後となる57周目のリスタートも完璧に決め、わずか5周でブルデイを2.889秒引き離して初優勝のフィニッシュラインを通過した。ドーンボスはデビューからわずか6戦目で勝利の美酒を味わい、ルーキーがデビュー・イヤーに優勝するのは2003年の最終戦、メキシコシティでのライアン・ハンター・レイ以来の快挙。1985年にF1から始まったミナルディのオープン・ホイール・レーシング最高峰への挑戦は、23シーズン目にして実を結ぶことになった。「素晴らしいよ。ほんとうに最高の気分さ。今週末はすべてのセッションでかなり攻めていたんだ。ドライ・コンディションでも競争力があって、レース・ペースも良かった。今日はとてもトリッキーな天候だったけど、集中力を保って前のマシンを抜いたときは楽しかったね。初勝利を手にすることができてほんとうにうれしいよ」と初優勝に大喜びのドーンボス。チャンピオンシップ・ランキングはついにブルデイと同ポイントで並び、スーパー・ルーキーのドーンボスが今シーズンのタイトル争いをますます盛り上げてくれることは、間違いない。
「ほんとうに信じられないよ。こんなにすばらしいレースは見たことがない。難しいコンディションの中でロバートは見事に仕事をやってのけた。ミナルディ・チームUSAがチャンプ・カー・ワールド・シリーズの初勝利を獲ったんだ」と、喜びを全身で表すミナルディ・チームUSAのオーナー、ポール・ストッダート。ミナルディF1チームの最後の5年間を率い、その政治的なパフォーマンスがF1関係者の間で数々の物議をかもした名物オーナーが、チャンプ・カー・ワールド・シリーズという新天地で、ついに優勝の二文字を掴みとった。「今週末、最初からスピードはあったが、この変わりやすい天気でどうなるかずっと不安だったんだ。でもロバートがいつも通りのクレバーな走りで、完璧なパフォーマンスを見せてくれた。これからたくさん勝つつもりだけど、今日は記念すべき初勝利だ」。2001年に創設者のジャンカルロ・ミナルディからチームを買収し、F1の舞台を戦ってきたストッダートだが、思えばその5シーズンは苦難の連続だった。史上最年少F1王者のフェルナンド・アロンソ、マーク・ウェーバー、ジャスティン・ウイルソンといった有望な次世代の若手ドライバーを輩出しながら、チームは慢性的な資金難に苦しめられ、マシン開発もままならないこともあった。時にはトップ・チームから5秒以上も遅いマシンをグリッドに並べなくてはいけない苦汁を味わうが、決して諦めることはなく、最後までF1の舞台を戦い抜いた。シリーズを変え、チーム体制がF1とはまったく別物といえども、ミナルディの名とそのスピリットはミナルディ・チームUSAに受け継がれ、これからもファンを熱くさせてくれるはずだ。
天候に翻弄されながらもセバスチャン・ブルデイは2位表彰台を獲得した。スタートはフライングすれすれの完璧なダッシュを見せ、レース序盤をリードしていくものの、1回目のピット・ストップを終えた後に降り出した雨に足元をとらわれ、ターン2のシケインをショートカット。このときは事なきを得たが、2回目のリスタートを有利に運ぼうとスピードを上げたとたん、今度はターン14外側のグラベルへコース・オフしてしまう。これで一気に11番手まで後退するが、ここからがブルデイの真骨頂。路面のコンディションが安定すると、コース上で次々と前車を抜き去り、2番手まで追い上げた。優勝したドーンボスの背後にも迫ったが、彼の巧みなブロックに阻まれ、そのまま2位でフィニッシュすることになった。「少し残念だよ。ドライ・コンディションでのマシンは、ほんとうに良かったんだ。あのまま晴れていたら、今日は僕たちにとってとても良い一日になっていたはずさ。チームのみんながすばらしい仕事をしていて、マシンの感触もかなり良かった。燃費も稼げていたし、ペースも速かった。イエロー中にコースが濡れ始めた時は、タフなレースになると思ったよ。トップにいる僕が、最初に滑りやすい場所を通るわけだから、そこでミスを犯した。リスタートに向けてターン14に差し掛かったとき、あまり速く走ってなかったのにもかかわらず、マシンが真っ直ぐグラベルへ行ってしまったんだ。ピット・タイミングをずらしたおかげで順位を上げることができたけど、ドーンボスのブロックはフェアじゃなかったね」と憤慨するブルデイ。チャンピオンシップで今日のウイナーのドーンボスに並ばれ、第6戦終了時に26点をリードしていた昨年のような余裕はなくなった。
3位にはチーム・オーストラリアのウィル・パワーが入り、開幕からタイトルを激しく争っている3人が表彰台を独占した。ポール・ポジションのゴメンディがトラブルでスタート前にグリッドから消えたため、今日のレースはパワーにとって有利な展開となるはずだったが、スタートでまさかのエンジン・ストール。フロント・ロー・スタートのアドバンテージは消え去り、最後尾となった。しかし、波に乗る2年目の若手ドライバーはレースを捨てず、途中ターン5でスピンしながらも、度重なるコーションのリスタートを利用して、前を走るマシンを次々に抜き去り、オーバーテイク・ショーを披露する。他のドライバーが3回行ったピット・ストップを2回で済ませたことも、彼を大きく躍進させた。最後はチームメイトのシモン・パジノウを豪快にパスし、3位まで順位を取り返してチェッカード・フラッグを受けた。「グリッドを行き過ぎてしまって、リバース・ギアに入れなければいけなかったよ。それから1速に入れたときには、すでにレッド・シグナルが点っていた。次の瞬間にシグナルが消えると思ってアクセルを全開に踏んだけど、エンジン・ストールさ。たぶんターボが回らなかったからだと思う。ミラーを見ると、他のドライバーがほんとうにわずかな間隔で僕を避けていった。誰かが当たっていたら大きなアクシデントになると思ったね。そこから燃料をセーブする作戦に出て、結局3位でレースを終えることになった。決して諦めないことがチャンプカーでは良いことなんだ。最後尾なっても、頑張れば表彰台でフィニッシュできる。ほんとうにすばらしいレースだよ」とレースを振り返るパワー。タイヤのパンクで10位に終わった前戦のクリーブランドを払拭する、会心のレースとなった。
最高のスタート・ポジションから一転、トリスタン・ゴメンディに待っていたのは最悪の週末だった。昨日の予選が雨となったため、初日のタイムでキャリア初のポール・ポジションを獲得したゴメンディは、スタート前に電気系のトラブルが発生し、フォーメーション・ラップを走れない事態に陥る。さらに、グリッド上でエンジンが掛からなかったため、マシンはピットへ押し戻されてしまった。その間にレースのスタートが切られ、ようやくマシンに火が入ってコースに復帰したときには、すでに2周遅れ。ゴメンディとPKV陣営はなんとか挽回を狙うも、この2周のラップ・ダウンが最後まで彼らに重くのしかかり、結局12位でレースを終えることになった。「かなりがっかりしているよ。電気系のトラブルでマシンが走り出さなかったんだ。コースに出たときはもう2周遅れで、あとはポイントを取ることだけに集中したね。僕たちはポールを取って、勝てるチャンスだってあったんだからほんとうに残念だ。気持ちを切り替えて来週のトロントで、ポールと優勝を狙いに行くよ」と悔しがるゴメンディ。開幕前はまったく無名だった彼の速さを、今では誰もが認めている。後は結果を残すだけだ。
厚い雲の切れ間から青空が見え、スタートはドライ・コンディションで切られる。レース開始直後から空模様が怪しくなっていき、16周目にホームストレート上に小雨が落ちてきた。この雨は断続的に降り注いだものの、コースの一部分を濡らすだけで、レイン・タイヤに交換するまでのコンディションにはいたらず、ドライバーはぬれた路面をスリック・タイヤで走ることを強いられる。このためスピンやコースオフするマシンが続出し、レースは次第に荒れた展開へ変わっていく。40周目には青空が見えているにも関わらず、雨が激しさを増し、44周目に全車がレイン・タイヤに交換。レース後半は完全なウェット・レースに変化した。アレックス・フィギーのスピンによって3回のコーションが立て続けに起き、度重なるリスタートは白熱したウォーター・スクリーン・バトルを演出。計6回のコーションが発生し、5人のリーダーが出たこのレースは、ミナルディ・チームUSAのドーンボスが制し、最後は勝者を祝福するかのようにモン-トランブランの上空が晴れ渡った。