<US-RACING>
上位陣が多重クラッシュで姿を消す波乱の展開となったテキサスで、228周レースの159周をリードする完璧なレース運びを見せたホーニッシュJr.が、今シーズン初勝利をあげた。予選2番手からスタートを切ったホーニッシュJr.は、グリーン・フラッグと同時にポール・ポジションのシャープをかわして、トップに躍り出る。ライバルたちがアクシデントに翻弄されて後退するなか、ホーニッシュJr.は何の影響も受けずにレースを終始有利に進めた。マルチ・クラッシュによるコーションの後は、カナーンの猛追を0.0786秒差で退け、キャリア通算19勝目のチェッカー・フラッグを受けた。「シーズンのスタートが不運と言うか、上手くいかなかったから、ようやくヴィクトリー・サークルに入れたのはほんとうに気分がいいよ。シーズン中ずっと良い結果がでると言い続けてきたんだ。自分達のやり方ができれば、すばらしいレースが出来るってね。今日のマシンはとても良かった。僕たちの邪魔をする不利なこともなかったよ」と、今シーズン初勝利に安堵の表情を浮かべるホーニッシュJr.。表彰式では毎年恒例となっているカウボーイハット姿に、拳銃を両手にもっての祝砲を鳴らした。昨年のチャンピオンが復活の1勝を上げ、今シーズンのタイトル争いはますます面白くなってきた。
ホーニッシュJr.を最終ラップまで追い詰めたトニー・カナーンは、後一歩及ばず、2位でフィニッシュした。197周目に目の前で発生したマルチ・クラッシュを、間一髪で切り抜けることに成功したカナーンは、コーション明けの残り23周のスプリント・バトルでホーニッシュJr.に猛アタックを仕掛ける。アウトサイドから何度も揺さぶりを掛けてパスを試みるも、最後までホーニッシュJr.の硬い守りを切り崩すことはできなかった。「あのアクシデントを切り抜けたことは、あまり自慢にしたくないね。いったいどうやって通過できたのかわからないんだ。通り抜けたときには、まるで映画の“デイズ・オブ・サンダー”みたいだと感じたよ。たまには運がいいときもあるんだね。マシンは良かったけど、最速のマシンじゃなかったし、ほんとうは2位に入れるマシンでもないと思う。他のドライバーの不運に助けられたんだ。最後は一応サムをパスしようとしたけど、できるなんて思わなかったよ」と話すカナーン。優勝は逃したが、ポイント・スタンディングスで2位に浮上した
キャリア・ベスト・フィニッシュの3位を獲得したダニカ・パトリック。序盤からトップ・グループを形成し、先週、接触した因縁のあるダン・ウエルドンと好バトルを演じる。インディ500と先週のミルウォーキーではピット・ストップで順位を落としていたが、今日のレースはピット作業も完璧に決まり、残り31周で3番手に躍進。レースの最後までホーニッシュJr.やカナーンと優勝争いをするものの、パスするまでには至らず、そのまま3位でフィニッシュした。「全体的に良い一日だったわ。チームはほんとうに強かったと思うの。このコースでパスするのが難しいのは、サムがほとんどレースをリードしていたことをみればわかるわね。マシンを一生懸命セット・アップし、レースの戦略でもちょっとしたギャンブルに出てみたけど、上手くいったわ」とレースを振り返るパトリック。インディ500から調子を上げ、今やトップ争いができるほどの速さが戻ってきた。IRL初の女性ウイナーの誕生は近いのかもしれない。
コース上空に雲が覆っていたものの、雨が降ることはなく、3日目もスケジュールどおりにレースが行われたテキサス。この時期のテキサスは、日中はレースどころではない暑さになるため、ナイト・レースになっているのだが、夜でも十分に蒸し暑さが残っている。今日も少し動けが汗ばむほどのコンディションとなった。レースは87戦ぶりのポール・ポジションを獲得したシャープを先頭に、混乱なくスタートが切られる。シャープはスタート直後にホーニッシュJr.にかわされ、結局7位。コーション回数は3回とここ数戦では少ない部類といえるが、最後のビッグ・アクシデントの印象が強く、波乱のレースという言葉がぴったりのレースとなった。
1回目のコーションの原因を作ったジョン・ハーブ。37周目にブロッキングでドライブ・スルー・ペナルティを受けたハーブは、47周目に燃料補給とタイヤ交換をするために再びピット・ロードへ向かった。ところが、突如としてハーブはバランスを崩し、ピット・レーン内側のウォールに激突。インディ500に続いて、2戦連続のリタイアとなってしまった。
87周目に6位を争っていたマルコ・アンドレッティと接触したヴィジョン・レーシングのトーマス・シェクター。インサイドのポジションをキープしていたシェクターは、アウトサイドにいたアンドレッティに進路をふさがれ、右フロント・ウイングがアンドレッティの左リア・タイヤに接触してしまう。シェクターのマシンはコントロールを失い、コース内側のグリーン上まで飛ばされてようやく止まった。マシンを降りたシェクターは怒りをあらわにし、接触の影響なく走行を続けるアンドレッティに対して、アピールする場面がカメラに捉えられた。この一件でアンドレッティはブロッキングのペナルティを受ける。いったんはマシンを降りたシェクターだが、マシンを修復してレースに復帰し、29周遅れの14位でフィニッシュした。このシェクターのアクシデントを始め、チームメイトのA.Jフォイト4世のホイール脱落が発端のマルチ・クラッシュ、そのクラッシュに同じくチームメイトのエド・カーペンターが巻き込まれるなど、ヴィジョン・レーシングにとっては散々な一日となった。
予選は精彩を欠いたチップ・ガナッシの2台は決勝で調子を上げ、ウエルドンとディクソンが序盤からトップ争いを演じていた。しかし、トップを走るホーニッシュJr.を追いかけていた197周目、周回遅れのフォイト4世が脱落させたホイールを避けようとしたエド・カーペンターが、アウトサイドにいたディクソンに接触。スピンしたマシンから立ち上る白煙の中を、カナーンは絶妙のハンドルさばきですりぬけていったが、チームメイトのウエルドン、ペンスキーのカストロネベスが避けきれず次々に突っ込んでしまい、合計6台が巻き込まれる大アクシデントとなった。幸い誰もけが人は出なかったが、速さを取り戻していたチップ・ガナッシの2台は、もらい事故で優勝争いから脱落する最悪の結末となった。
テキサスはIRLの僅差フィニッシュ・ランキングのトップ10に2レースがランク・インしており、例年、接近戦が多いコースとして知られている。今年もマルチ・クラッシュによるフル・コース・コーションが、最後のトップ争いを演出し、ホーニッシュJr.、カナーン、女性ドライバーのパトリックによる3つ巴のバトルが最終ラップまで続いた。フィニッシュ・ラインを通過したとき、ホーニッシュJr.とカナーンとの二人の差はわずかに0.0786秒。トップ2に必死に喰らいついていたパトリックも、トップと0.3844秒差でキャリア・ベストのフィニッシュを飾り、今年のテキサスは大いに盛り上がるレースとなった。
15番手からスタートした松浦孝亮。順位をキープしながら上位進出を伺っていたが、1回目のコーション中に無線のトラブルよるミス・コミュニケーションから、ペース・カーを追い越すミスを犯してしまう。この行為に対してIRLは松浦に30秒ペナルティと言う重い処分を科したため、瞬く間に周回遅れとなった。しかし、周回遅れは挽回できなかったものの、上位陣がアクシデントで消えたため、今季ベストの9位でフィニッシュすることに成功した。「IRLとチームの無線が混線して自分のポジションがわからなくなり、ペースカーをパスしたときに30秒のペナルティが掛かって、今日のレースが終わってしまいました。レース中のマシン・バランスはそんなに悪くなかったけど、スティントを1回走るごとにかなりバランスが変わって苦労しました。めちゃくちゃなレースの中でも、色々なアクシデントの助けもあって、今期ベストのトップ10フィニッシュができたことは良かったと思います。自分たちはまだまだやらなくちゃいけないことがあるので、次もがんばります」と語る松浦。この結果が次戦以降に良い流れを運んでくれることを期待したい。