<US-RACING>
10年目の挑戦で念願のもてぎ初優勝を果たしたトニー・カナーン。スタートから圧倒的な速さを持っていたトップ2を無理に追わず、燃費作戦に出たことが勝利に繋がった。スタートから燃料をセーブしながら走っていたカナーンは、この日26周しかレースをリードしなかったが、トップを走るウエルドンの1秒以内につけると同時に燃費走行を続け、プレッシャーを与え続けた。レース終盤、燃料が尽きたウエルドンが186周目にピットへ飛び込んだのに対し、燃費で勝るカナーンは5周後にピット・イン。狙い通り、見事ウエルドンの前でコースに復帰すると、トップのままチェッカード・フラッグを受けた。2位のウエルドンとの差はわずか0.4828秒。もてぎ史上最も1位と2位が接近したフィニッシュとなった。ようやく手にしたもてぎの勝利をかみ締めるように、ゆっくりとウイニング・ラップを行ったカナーン。クルーとがっちり握手を交わしてから、力強くガッツ・ポーズを決めた。「チームがほんとうにすばらしい仕事をしてくれたんだ。チームのみんなには心から感謝しているし、応援してくれた日本のファンの皆さんにも感謝している。ようやくもてぎで優勝が出来たよ」と喜びを爆発されるカナーン。長い間ホンダのドライバーとして戦い、その地元でやっと優勝を果たしたカナーンの次なる目標は、インディ500制覇となった。
2番手からスタートしたダン・ウエルドンは、ポール・ポジションのカストロネベスをかわしたものの、昨日に続いて今日も2位という結果に終った。44周目にインサイドから豪快にポール・スタートのカストロネベスをパスしたウエルドンは、最多リード・ラップとなる126周をトップで快走する。速さで勝っていたウエルドンだったが、逆に燃費は厳しく、優勝したカナーンよりも常に前でピット・ストップ。結局最後のピット・ストップもカナーンより5周早く入ったことで先行を許し、最終ラップでカナーンの背後まで追い上げたが、優勝にはあと一歩足りなかった。「ホンダがすばらしいエンジンを用意してくれたから、すごく速かったよ。そのおかげで僕とトニーは、ほとんど差がなかったからね。残念ながら無線がレースの序盤に壊れたことが、大きなハンデになった。これからこういうミスがないようにすることが、大きな課題だね。でも、トニーとレースをするのが大好きなんだ。彼はとてもフェアなドライバーだから、僕も安心して厳しいバトルが出来るよ。だからトニーが優勝したことは良かったと思っている」と話すウエルドン。2戦連続で優勝を逃したが、ポイント・ランキングはトップに浮上した。次戦カンザスでは開幕戦以来の優勝を狙う。
7番手から着実に追い上げ、3位でフィニッシュしたダリオ・フランキッティ。過去9回ももてぎに出場しながら、今回が3回目のトップ3フィニッシュとなった。「スタートからマシンの調子が良かったんだ。前のマシンを追い越すことができるセット・アップだったから、自信もあったよ。最初のスティントの終盤は僕のマシンが一番速かったんじゃないかな。トニーやダンと同じくらいのペースで走れたけど、パスできないと思ったから、チームが作戦でギャンブルに出た。結局は最後まで燃料が持たなかったが、結果には影響がなかったので、良い作戦だったと思う」とレースを振り返るフランキッティ。もてぎ皆勤賞のカナーンが今日優勝を飾り、同じく9回出場しているカストロネベスは昨年優勝している。来年はフランキッティが優勝する番?
地元レースを0周リタイアという悔しい結果で終えた松浦。「これまでにないくらい良い調子」と話していた昨日の予選後の記者会見から一転、今日のレースはマシン状況はがらりと変化し、スタート直後のターン1でスピンを喫してしまう。くるりと回った松浦のマシンはターン1の出口でウォールに激突。4年目のもてぎ挑戦は、あっという間に終わってしまった。「抜けるようにリアが流れて、立て直すことが出来なかった」とスタート直後を振り返る松浦。「自分でもどうなったのかわからないし、データも少ないのでまだ何もわからないです。スピンするほどマシンのコンディションが変わってしまうのは初めての経験だったので、チームと一緒に原因を探っているところです。昨日から調子が良く、気合を入れてこのレースに臨んでいたので、今日の結果は残念です。今回たくさんのファンが観に来てくれたのに、1周もできないまま母国レースを終えたことを申し訳なく思います。今回はたまたまセット・アップをはずしましたが、絶対に勝てるポテンシャルのあるチームだと思いますので、次は勝ちに行きます」とすでに気持ちは次のレースへと向いている。次戦カンザス、そしてインディ500では良い結果を期待しよう。
今日の勝負の分かれ道となった、マルコ・アンドレッティのクラッシュ。135周目に9番手を走行していたアンドレッティは、ターン4でタイヤかすに乗ってしまい、吸い込まれるようにしてウォールへ激突した。燃料がフル・タンク状態で50周前後の走行が限界だった中、残り周回75周という微妙なタイミングで3回目のコーション。直前にピット・ストップを終えていた上位陣は、ここで燃料を補給するかどうかの選択を迫られ、ペンスキーの2台、ディクソンとフランキッティはピット・インを選び、カナーンとウエルドンはコース上に留まることになった。レースが再開されたのは残り52周の148周目。コーション中にピット・ストップを行ったドライバーが、このままいけるかどうか、もてぎは緊張に包まれた。再びクラッシュがあれば、燃料が持つ可能性は高い。しかし結局アクシデントはなく、残り10周を切るとコーション中にピット・ストップを行ったドライバーも次々にピットへ飛び込み、最後まで粘ったホーニッシュJr.も残り5周で力つきる。通常の作戦を選んだカナーンに軍配があがった。
決勝日のツインリンクもてぎは雲の量が多かったものの、青空が広がり、やわらかな日が差し込んだ。気温はこの週末一番高い21度を記録し、絶好のレース日和だった。まさに10周年に相応しいエキサイティングなレースが展開され、カナーンが10回目のもてぎチャレンジで初優勝を飾る、感動的なフィナーレとなった。
今年もオープニング・セレモニーが11時40分からスタートした。例年様々なアトラクションが用意されているが、今年もオープニング・トークからスタートし、オフィシャル・カーなどのパレードのあと、ドライバー紹介。そして日本とアメリカ両国歌の演奏を一とおり終えると、ブルー・インパルスの飛行が行われた。その後ドライバーがマシンに乗り込むと、栃木県宇都宮市出身の渡辺貞夫氏が率いるインディ・ジャパン・スペシャル・セッション“JAPAN-U.S. FRIENDSHIP LIVE”が行われた。4年前から地元の子供たちや米国空軍太平洋軍楽隊と共に演奏するようになり、スタート直前まで盛り上げてくれる。特別にアレンジされたバック・ホーム・アゲイン・イン・インディアナを聞きながら、気分は最高潮に達していく。
2003年からレース・セレモニーでの恒例となっているブルーインパルスによる展示飛行。今年も航空自衛隊唯一のアクロバットチームがすばらしいアクロバット飛行を披露し、もてぎに集まった観客は華麗な演技を見つめていた。一方、地上で注目を集めたのはこのブルーインパルスJr.。今回、機体が刷新され、インディ・ジャパンでは初お披露目とのこと。ブルーインパルスの整備士がパイロットとなって、上空の演技に負けないくらい見事な演技を披露していた。演技の途中には棒の先についた小さな模型飛行機での編隊飛行も行われ、インディカー・ファンを楽しませていた。
今年で10年目を迎えたもてぎのオーバル・レース。この週末は過去最高となる7万8500人が訪れ、インディカーの迫力に酔いしれた。毎年、観客動員数が増えているもてぎのレース。10年前はオーバルという言葉すら知らない人たちが多かったが、年に1度のこのレースによって、確実にオーバル・レースが浸透してきている。また来年、この日本唯一のオーバルですばらしいレースを観ることが、今から待ち遠しい。