<TWIN RING MOTEGI>
日本初上陸から4年目となるIRLインディカー・シリーズは、今年で創設10年目を迎えた。オーバル・トラック専門リーグとして設立されたシリーズもロードコースでの開催も追加し、創設時から比較するとマシンやドライバーを取り巻く技術や安全性は大きな進化を遂げているが、11年目に突入する今季、さらに大きな転換期を迎えることになった。
●開催戦数は14に
昨年の全17戦から今季は全14戦に縮小されたインディカー・シリーズ。その大きな理由のひとつがコストダウン。開催サーキットで言えば、フェニックス(アリゾナ州フェニックス)、パイクスピーク(コロラド州ファウンテン)とカリフォルニア(カリフォルニア州フォンタナ)が無くなることになったのだが、実はこのいずれも西海岸側に位置するサーキットで、東南部を拠点とする多くのチームにとっては大幅な移動費の削減となった。昨年から始まったロードコースは3つとも継続開催となっている。
開幕は例年より1ヶ月遅い3月26日(ホームステッド-マイアミ)。最終戦は例年より1ヶ月早い9月10日(シカゴランド)。スケジュール全体で2ヶ月も短縮になった。このことにより、シーズン中のスケジュールは少々過密になり連戦が増えた。各チームもそれに備えた体制が必要となっており、数レースを見越した作戦も必要となるだろう。
●エンジンは事実上のHondaワンメイクへ
エンジン・サプライヤーのトヨタとシボレーが撤退し、Hondaのワンメイクとなる今季のインディカー・シリーズ。シャシーはダラーラとパノスの2メーカーから選べるとはいえ、タイヤはファイアストン(ブリヂストンの米国ブランド)のワンメイクであることに変更はなく、今まで以上にイコール・コンディションで戦われることになる。
Hondaエンジンが、今季以降問われるのが耐久性。インディカー・シリーズはチームの参戦コスト抑制をテーマにしており、エンジンの耐久性は大きなコスト抑制につながる。昨年からの2デー・レース(プラクティスからクオリファイ、そしてファイナルまでを2日間で行なうレース)1エンジン制は継続。今季は2デー・レースの第7戦リッチモンド・第8戦カンザス・第9戦ナッシュビル・第12戦ケンタッキー・第14戦シカゴランドの5戦(レース距離400マイルの第11戦ミシガンは2デー・レースだが除外)と、3デー・レースながらレース距離が225マイルと短い第10戦ミルウォーキー戦の計6戦は、練習走行から本戦の決勝まで一つのエンジンだけで走り切らなければならない。
インディカー・シリーズのエンジン開発を担当するHondaパフォーマンス・ディベロップメント(HPD)は、供給台数の増加(特にシリーズ中参戦台数が一番多くなるインディ500の33台)に伴い、その対応をできる体制をオフシーズンにとっており、準備は万全だ。
●今季からHondaエンジンに変更になったチームの活躍
事実上のHondaワンメイクになったことで、ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングとマールボロ・チーム・ペンスキーという名門有力チームもHondaエンジンを使うこととなった。
ガナッシは2003年インディカー・シリーズでシリーズ・タイトルを獲ったチーム。そのガナッシに昨年年間最多優勝記録でタイトルを獲ったダン・ウェルドンが移籍。2003年にチャンピオンを獲得しているスコット・ディクソンもチームに残っており、歴代チャンピオンふたりを擁してのタイトル奪還に意欲を見せている。またペンスキーは今季も昨年と同じ体制、2001年-2002年の2年連続チャンピオンのサム・ホーニッシュJr.と2002年-2003年の2年連続インディ500チャンピオンのエリオ・カストロネベスのコンビで挑戦することになっている。
今季はこの2チームの活躍が予想される。それは昨年までエンジンパワーで劣勢であったチームだからこその有利点があるからだ。彼らはそのパワー不足を補うために空力セッティングに力を注いできたのである。ペンスキーがアンドレッティ・グリーン・レーシング勢と互角に戦えたのはその空力セッティングのおかげであった。ガナッシは今季シャシーをパノスからダラーラに変更。昨年の空力データをそのまま使うことはないのだが、同じく劣勢であったシボレー・ユーザーのパンサー・レーシングから、ダラーラをよく理解している有能なエンジニアを迎え入れている。そして彼らは今季他のチームと同じエンジンを使うことになり、パワーでのディスアドバンテージはない。そうなれば、今季のチャンピオン最有力候補になるのは間違いないと言える。
●主役はドライバー
今季はエンジンがワンメイクになり、より一層ドライバーの技量が試されるシーズンとなる。もちろんチームのエンジニアも大きな役割を果たすが、ドライバーが的確な状況の判断をし、きちんとフィードバックできなければ良いマシンに仕上げることは不可能だ。
注目するドライバーの筆頭はまず昨年のチャンピオンのダン・ウェルドン。ガナッシへ電撃移籍した彼がタイトルを防衛できるかどうかは誰もが注目しているところだろう。また、彼のチームメイトのスコット・ディクソンも注目のひとりだ。ディクソンにとってウェルドンの加入は大きな刺激になったはず。2003年にチャンピオンを獲ってからのここ2年は低迷していただけに、今季は今までのうっぷんを晴らすかのような活躍をしてくれるだろう。
そのガナッシ勢の対抗本命には、ペンスキー勢の2人と、アンドレッティ勢のトニー・カナーンとダリオ・フランキッティだろう。ともに2003年シーズンからフル参戦を果たし、2004年のチャンピオンでもあるトニーはこれまで6勝を挙げ、50戦中43戦を完走。ダリオも4勝を挙げ、37戦中27戦を完走と完走率も高く安定している。昨年はウェルドンの陰に隠れた2人だが、このベテランたちがタイトル争いをより激しくすることは間違いない。
アンドレッティ・グリーン・レーシングには、注目のドライバー、マイケル・アンドレッティの息子のマルコ・アンドレッティが今季からインディカー・シリーズに参戦することになった。まだ19歳のマルコは今まで参戦してきたレースではほとんど敵なし状態。インディカー・シリーズというトップクラスでどこまで通用するかに注目したい。またインディ500ではマイケルが復帰することも発表されている。このレースでの親子対決も目玉のひとつになる。
そして、いまやインディカー・シリーズの顔となった唯一の女性ドライバー、ダニカ・パトリック(レイホール-レターマン・レーシング)。彼女のおかげで全米でのインディカー人気は創設以来最高のものになった。そのダニカの初優勝を全米、いや全世界が注目している。今季彼女が優勝するようなことがあれば、シリーズの人気にもさらに拍車がかかるだろう。
日本人ドライバーでは、松浦孝亮(スーパーアグリ・フェルナンデス・レーシング)が同チームから3年連続の参戦となる。今季からはシャシーをダラーラにスイッチした松浦。ダラーラの方が安定性があり、パノスよりもダウンフォースでは有利と言われているが、チームメイトのスコット・シャープ(デルファイ・フェルナンデス・レーシング)はパノスのまま。ということは2人の間でデータの共有ができないというデメリットがある。それでも安定性をとった松浦だが、これが吉と出るか凶と出るかは注目したいところだ。また、昨季フル参戦したロジャー安川はまだチームが決まらずにいる。現在のところ、インディ500とインディジャパン参戦に向けて交渉中とのことだ。
ドライバーの真の技量が試されるシーズンが予想されるインディカー・シリーズ。11のオーバルと、ストリート1戦、ロード2戦を入れた合計14戦で、このシリーズでしか味わえない白熱した高速バトルと数々のドラマを今季もまた見せてくれるだろう。