【Champ Car World Series:2005年11月5日 メキシコシティ】
ジャスティン・ウイルソン(#9 インテル・フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)がアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスにおいて、70周のうち65周をリードする激走で優勝した日曜日のグラン・プレミオ・テカテ/テレメックス・プレゼンテッド・バイ・バメックス。しかしそれはまるでミステリー作家のスティーブン・キングの最終章を読み、最後にやっと自分が思い描いたとおりの筋書きを手に入れたようなものだった。ウイルソンは65周目の再スタートを含めて、チームメイトのA.J.オールメンディンガー(#10 ウエスタン・ユニオン・フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)から何度も猛チャージを受けたが、そのすべてを撃退。ブリヂストン・プレゼンツ・チャンプ・カー・ワールド・シリーズ・パワード・バイ・フォードの2勝目をマークした。オールメンディンガーは2位のポジションをしっかりとキープし、今年5度目の表彰台を獲得。ポール・トレイシー(#3インデック・フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)は2度の障害によってそのたびに後方集団へと追いやられたが、力強い走りを見せて上位に返り咲き、今季7度目の表彰台フィニッシュを手に入れた。
スタートでウイルソンが轟音とともにオールメンディンガーを引き離している間、トレイシーは2度も後方へ追いやられることになった最初の事件に遭遇した。ターン1の進入の際、ルースポーツの2台の後方で3位争いをしている時にタイヤがパンク。新しいブリヂストンを手に入れてバトルに復活した際、19番手までダウンしていたトレイシーは、そこからリーダーと同じような速さで周回を重ねていった。オールメンディンガーがウイルソンから1秒以内を走行していた最初の20周、シリーズ・チャンピオンのセバスチャン・ボウデイ(#1マクドナルド・フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)は5秒あった差をみるみる縮めていき、最初のピット・ストップ開始が可能となるまでの間に、オールメンディンガーのリア・ウイングのすぐ後ろまで来ていた。
トレイシーとロドルフォ・ラビン(#55 コロナ フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)は1回目のピットを終えており、19周目にコースへ復帰。まるでサイコロを転がすかのようにコーション・フラッグを待つ作戦で、二人は上位争いにカムバックすることを望んだ。そのちょうど翌周、ロニー・ブレマー(#19 アメリカン・メディカル・レスポンス フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)がターン13で激突。コースをクリーンにするために長い間イエロー・フラッグが振られ、二人のギャンブルはうまくいった。
トレイシーとラビンはコースに残り、最初の燃料補給をするためにほとんどがピット・レーンへ。ラビンがトップへ浮上し、地元の観客から大歓声が上がった。ほとんどのピット・ストップがスムーズにいったものの、ボウデイは2005年に幸運の女神の力を使い果たしたのか、彼女は彼に背を向けた。このニューマン/ハースのパイロットはピットでの間違った合図以外に、後退しなければならない状況を耐えなければならなかった。ダメージが無かったにもかかわらず、2度もピットに入らなければならなかったのである。
27周目の再スタートでラビンはトレイシーとウイルソンを抑えてターン1へ入ったが、ラビンはミスを犯してしまい、そのアドバンテージは2番目のカーブまでしか続かなかった。トレイシーはターン1の手前でラビンの横に並んだあと、ラビンはすかさずトレイシーの前に出て二人は接触。トレイシーはうまく復活できたものの、この接触で後続のウイルソンにドアを開けることとなり、先行を許してしまう。タイヤがパンクしてしまった不運のラビンは、新しいシューズに履き替えるため、ピット・レーンに向かわなければならなかった。
ウイルソンがリードしたままターン4へ進入しようとしていたその後ろで、トレイシーはオールメンディンガーの前で2番手のポジションをキープしようとしていた。トレイシーはヤング・カリフォルニアンを寄せ付けないようにコースの左端へ移動したが、チャンプ・カーのレース・コントロールは3番手のオールメンディンガーをブロックし続けたとして、トレイシーの有罪を決定。彼は再び後退を余儀なくされる。ウイルソンとオールメンディンガーが爆音とともに走り去る中で、ドライブ・スルー・ペナルティを受けたトレイシーは16番手までポジションをダウンしなければならなかった。
再びリーダーとなった長身のイギリス人はダッシュし、オールメンディンガーと6秒以上の差を構築。その後方のクリスチアーノ・ダ・マッタ(#21 ベル・マイクロ フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)とは14秒もの差を築いた。ウイルソンが確実に先頭をキープし続けている間、トレイシーとボウデイは後方から激しく追い上げ、トップ10までカムバック。ボウデイはアンドリュー・レンジャー(#27 タイド/マイジャック フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)を猛攻し、3周に渡って激しい10位争いを展開した結果、ルーキーはそのポジションを諦めなければならなかった。
グリーン・フラッグの最中に行われた最後のピット・ストップの前、ダ・マッタは5番手まで後退し、シリーズ・ランキング2位のオリオール・セルビア(#2 パシフィケア・フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)とマリオ・ドミンゲス(#7 ロシュフランズ フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)は3番手を争っていた。この日のボウデイを封印させるアクシデントが起こったのは、残り10周でのことだった。
ウイルソンは予定のピット・ストップ後もリードをし続けていたが、新しいブリヂストンはオールメンディンガーのマシンとさらによくマッチし、レース中のファステスト・ラップを3周も記録。チームメイトとの差を3秒以下にまで縮めることができた。オールメンディンガーの後ろでは、ロシュフランズ・ルーキーオブザイヤーを獲得したティモ・グロック(#8 DHL グローバル・メール フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)と地元のドミンゲスによる激しい3位争いを、大勢のメキシコ・シティの観客が注目し始めていた。ドミンゲスは彼のフォーサイス・チームによる素晴らしいピット・ストップで、3位までポジションを上げていたのだ。
グロックが残り12周のターン1のインで仕掛けるまで、グロックとドミンゲスは3周に渡ってテール・ツー・ノーズの状態を続けた。ルーキーの挑戦にひるむことなくドミンゲスがポジションを守った結果、2台はコーナーの中ほどで接触。ドミンゲスはピンを喫してしまい、ホームタウンで表彰台獲得のチャンスに終止符を打たなければならなかった。
61周目の再スタートでウイルソンが集団を引き離す一方、トレイシーは徐々にポジション・アップして8番手に浮上。5番手のボウデイはダ・マッタの背後に迫った。2002年シリーズ・チャンピオンとの車間距離を縮めたボウデイだったが、それは同時に彼自身のシーズン終了までの時間も縮める結果となってしまう。ボウデイはターン1の進入でPKVレーシングのダ・マッタのリアに接触してしまい、両者はスピンしたままグラベル・トラップへとコースアウト。この衝突でボウデイのマシンはフロント・ウイングを破損。惜しくも残り9周とのころで今年最初のDNFを喫してしまう。
このコーション後の再スタートでは、オールメンディンガーがウイルソンの背後にピタリとつけて勝利へのラスト・チャンスを狙った。ここでウイルソンはまたしても力強い再スタートを披露した上、2周連続してファステスト・ラップをマークして優勝に王手をかけた。トレイシーは今年最後の再スタートで見事なダッシュをみせ、ターン1への進入でセルビアとグロックをパス。これまでに彼がスタートした236回の中で、最も波乱に満ちた一日を終え、3位表彰台に上った。
セルビアはグロックからのアタックにも負けず4位でフィニッシュ。グロックは今年2度目のトップ5フィニッシュとなった。ベテランのジミー・バッサー(#12 ガルフストリーム フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)は6位に入り、ネルソン・フィリップ(#34 ウェルボックス フォード‐コスワース/ローラ/ブリヂストン)は最終戦で自己ベストの7位フィニッシュを果たした。
トップ3ドライバーのコメント:
ポール・トレイシー:「最終的に願っていた結果を残せなかった。見てのとおり、自分達にとってはフラストレーションが残る一日だった。上手くスタートしてA.J.をかわして2番手に上がることができたが、誰かがリアタイヤに接触して、タイヤがパンクしてしまったんだ。ピット・インしてタイヤ交換をしたあと、コースへ復帰したときにはすでにトップから3分の2周も遅れてしまった。これでピット・ストップのタイミングがずれることになってね。その後フルコース・コーションが出たことで、やや運が自分達に傾き始めたと思った。再スタートではロドルフォと競り合った際に、彼のタイヤに接触してパンクを誘発してしまい、同時にA.J.の行く手を阻んで彼をブロックする形になってしまったようだ。そのあとは再び差が開いてしまった。それでも諦めずに何台かのマシンをパスしたあと、終盤のラッキーなフルコース・コーションに助けられた。プッシュ・トゥ・パスもたくさん残っていたから、さらにポジションを上げることが可能だったよ。そういう意味では良い結果だったといえるだろうね」
A.J.オールメンディンガー:「振り返ってみると、今年は何度か1-2フィニッシュを獲り損ねているわけで、僕とジャスティンはしっかりとその事実を認識していた。それが、こうして最後にカール(ルッソ)に1-2フィニッシュをプレゼントすることができたことは、すばらしいことだ。僕達が好成績を収める度に彼のほほに涙がつたうのを見ると、いかに彼が僕達全員のことを思っていてくれているのかが身にしみるよ。僕達チーム側の人間からすれば、チーム・オーナーがそこまで親身になって背後についていてくれるということは、とても大きな意味をもつ。彼とはスタートから一緒だが、彼はこのチームを常に100パーセント支援している」
ジャスティン・ウイルソン:「とてもいい気分だね。金曜日にA.J.が言っていたとおり、厳しい道のりだった。A.J.はすばらしかったね。彼のセットアップを参考にした。二人で協力することで、手分けしてそれぞれ別々のセッティングを試すことができたんだ。もし自分のセッティングがダメでも、もう一台のマシンのセッティングを使うことができる。今週末はその作戦でいったから上手くいったんだよ。A.J.も言ったように、チームはすばらしい仕事をしてくれた。我々こそ1-2フィニッシュを得ることが相応しいチームだ。来年もこの調子で1-2が狙えることを願っている」
注目のポイント
今回のメキシコシティのイベントにおける観客動員数は、3日間の合計で271