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2013年王者はディクソン、レースはパワーが制しました。佐藤琢磨は無念のリタイアに

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2013年シーズンを締めくくる最終戦フォンタナを制したのは、ポール・ポジションからスタートしたウィル・パワーでした。強烈な西日を避けるため、完全な日没となった午後6時5分にエンジンに火が入り、気温30度の中レースがスタート。パワーはトップ5をキープしたまま38周目に最初のピットインを終えたものの、最初のイエロー後に一時19番手まで順位を落としてしまいます。その後バイザーを交換するアクシデントもありましたが、レースの後半に差し掛かった134周目にトップへカムバック。231周目に最後のピットを終えたパワーは、残り13周となる237周目にトップへ躍進し、最後は2位に1.4883秒もの差をつけて3勝目をマーク。オーバルでは11年のテキサス第2に次ぐ2度目、通算では21勝目を達成です。97年にこのスピードウェイを作ったロジャー・ペンスキーが、ここで初めてレースを制することができました。
 

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「すごく満足している。とてもハッピーだよ」と大喜びのパワー。毎年最終戦のオーバルでタイトルを逃し、昨年もここでクラッシュに終わったパワーは「今日は絶対に勝ちたかった。おそらくこれままで最高の勝利であることは確かだ」と語りました。「去年ここで勝ったエド(カーペンター)が、『ウィルがみんなの期待どおりのことをやったよね』って言ったんだよ。もちろん彼のことはすごく尊敬していて嫌いじゃないけど、その一言がすごくモチベーションになったのは間違いない。ここで彼を負かして勝ちたいって思ったからね」
 

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これまでロードや市街地コースで力を見せつけながら、オーバルが弱点だったパワー。「今年の目的はすべてのオーバルで最後まで走り、自信をつけることだった。これまでの問題として、オーバルでフィニッシュできないことが多かったからね。ピットでぶつかったり、色々なことがあったけど、走らなければ経験できない。今年はオーバルを最大限経験することができたよ」とパワー。オーバルで自信を得た今年、来年はチャンピオンシップのバトルに復活しそうですね。2位は昨年の覇者カーペンターで、今季ベスト・フィニッシュ。3位は今年のインディ500ウィナーで、来季ガナッシ入りを決めたトニー・カナーンが入りました。
 

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前回のヒューストン第1レースで優勝、第2レースでは2位フィニッシュし、今季初めてランキング・トップに浮上したディクソンは、25点リードで最終戦に臨みました。エンジン交換のペナルティで17番グリッドからスタートし、最も長い39周目に最初のピットへ。198周目にはトップへ躍進する場面もあり、優勝してチャンピオン確定の期待も高まりましたが、この日多くのクルマで問題となっていたオーバーヒートがディクソンを襲います。229、232、241周目と終盤にピットインを繰り返したディクソンは、ぎりぎりまでペースを落としながら、トップと同一周回数の5位でフィニッシュすることに成功。ホンダ勢の中で唯一生き残り、03、08年に続く3度目のチャンピオンを獲得しました。
 

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「後ろからパック(集団)でスタートするのは、かなりクレイジーだよね。前に行きたかったけど、少しバランスを失ってアンダーステアだったから、後方にいるしかなかった」と序盤を振り返るディクソン。「一番重要なのはトップと同一周回にいることで、どのぐらいの速さで走ればいいのか、チームからの情報をチェックしながら走っていた。空気圧を変えたり、ウェイトジャッカーを調整したりしたけど100周ぐらいまで良くなかったね。その後クルマはよくなったけど、終盤に向かってオーバーヒートの問題が出て、長い間気づかずに走っていた。昨年も同じような問題があって警告灯が点いた途端、眩しすぎて他の表示が何も見えなくなったから、今年は警告灯を外していたんだ。それで気が付かなかった。この問題を知ったのは予定外のピットの指示があった時で、それがどの程度なのかは知らなかった。でもエリオにも問題が起きて周回遅れになったから、パーフェクトなシナリオになったね。クルーがラジエターを冷やすためにピットで作業してくれたおかげで、エンジンは最後までOKだったよ」
 

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「これが3回目のチャンピオンだけど、それぞれがまったく違ったね。初めてチャンピオンになった時はまだ若かったから、その価値をほんとうに理解していなかった。チームがこのシリーズに来て最初の年だったし、まだ22か23歳だったからわからなかったんだ。2回目の08年はオープン・ホイールが合併し、すごくコンペテティブなシリーズになったから、その中で勝てて夢のような年だった。結婚もしたし、インディ500でも勝てたから、これ以上にすごい年はないと思った。今年はシーズンの中盤まで、チャンピオンを狙えるなんて思ってもいなかったよ。アイオワでエリオが僕を怒らせるようなことをして、『僕はチャンピオンシップを戦ってないんだから、そんなことするな。もっと気を付けないと、チャンピオンシップの邪魔になるよ』って言ったのを覚えてる。それが最後の数戦で最終的にこうなったんだから、おかしいよね。エリオには同情する。今年彼は強かった。とてつもない対戦相手だったよ。僕も同じ状況になったことがあるから、気の毒だと思う」と今年の王者になったディクソン。今季初優勝したポコノの前、第10戦アイオワではランキング7位でした。第14戦トロント第2レースで3連勝を挙げてランキング2位になったものの、第16戦ソノマでパワーのクルーと接触し、第17戦ボルティモアではパワーに押し出されてリタイアと不運にも見舞われてきました。「クリーンで素晴らしいレースができたことを、エリオに感謝したい。彼は限界までプッシュしたけど、今夜、我々の年になった」
 

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25点差でディクソンを追っていたランキング2位のカストロネベスは、ディクソン同様フレッシュ・エンジンに交換したため、12番グリッドからスタートしました。最多リードで1ポイントでも多く獲得しなければならなかった彼は、13周目に早くも2番手までアップ。しかしセバスチャン・ブルデイやライアン・ハンター−レイをなかなかパスすることができず、初めてトップに立ったのは82周目のことでした。結局リードしたのは3回、計27周だけで、最多リードのボーナスポイントは諦めるしかない状況となります。
 

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5回目のコーションではピットがまだ閉まっているにもかかわらず、ロジャー・ペンスキーが誤ってピットへ呼び寄せるというまさかのミスも発生。グリーンとなった215周目、カストロネベスは8番手から追い上げて3周後には2番手に躍進し、チャーリー・キンボールと激しいデットヒートを繰り広げます。しかしこの時に接触したことでフロント・ウィングにダメージを負ってしまい、残り24周で緊急ピット・イン。グリーンの最中だったために周回遅れとなり、6位フィニッシュを余儀なくされて、キャリア3度目のランキング2位となったのです。
 

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「今年のテーマだったトップ10には入ることができた。けど不運にもヒューストンの1戦が我々をチャンピオンシップからふるい落とし、そこでガナッシとスコット(ディクソン)は素晴らしい仕事をした。我々はできる限りの力で戦い、素晴らしいレースになったと思うし、ファンも喜んでくれたと思う。たしかに残念だが、初めてのことじゃない。これをバネに2014年に向かいたいね。ガナッシとスコット、おめでとう」。レース後、記者会見で接触したキンボールと話したかと聞かれたカストロネベスは「あまりにも近づきすぎで、たしかに危機一髪の出来事だったけど、彼も同じように勝とうとしていたから、何も話すことはないよ。タグリアーニとも同じように危ない時があったが、回避できて神様に感謝している。彼らとの戦いがタフになるのはわかっていたし、決して簡単ではないというのも知っていた。次はこんなシチュエーションにならないよう、うまくやりたい」
 

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前日にクラッシュを喫し、予選を走れなかったことで25番手の最後尾スタートとなった佐藤琢磨は、2周目に早くも19番手にジャンプ・アップします。36周目に最初のピットに入った際、右後ろのクルーがホイールナットを落として周回遅れとなりますが、最初のコーションで同一周回に復帰。レースを折り返した後の127周目には13番手まで順位をアップしたものの、路面の削りカスやクラッシュしたマシンの破片などを拾ってラジエターが冷えなくなり、エンジンがオーバーヒートして144周目にリタイアを余儀なくなれました。
 

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「今回インディ500と同じ3列スタートで、かなり前の車と接近してスタートできたので順位を上げやすかったです」とスタート時を振り返った琢磨。「最後尾からのスタートできっちりと様子を見ながら1コーナーに入っていくことができ、最初のポジションアップはうまくいったと思います。今回は去年に似た戦略をとって、最初のピットまでをできるだけ引っ張るつもりでした。グリーンの状態でピットに入り、そこまではうまくいったと思います。ホイールがうまくはまらなくて出遅れ、かなりロスして周回遅れになったのは痛かったのですが、イエローを使ってラップダウンから脱出することができました。最後尾に近い状態に戻ってしまいましたが、その後徐々に順位を上げることができました」
 

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レース時のコンディションに関しては「日が暮れてからのスタートで、去年よりも気温の変化は少なかったのですが、今回はダストがひどかったです」と語った琢磨。「たぶん路面を削った時の粉末状の粉が残っていて、レースで全車が色んなレーンを走ることで止めどなく出てくる状態でした。今日はアクシデントも多く、その細かい破片も残っていて、再スタート直後は雨の中を走っているようで何も見えなかったです。ヘルメットや車の塗装も、青い部分が残ってないほど、サンドブラストのような中で走っていました」。リタイアの原因となったオーバーヒートは、「ダストや破片、捨てバイザーなどを走りながら拾ってしまい、緊急ピットインしてクルーがラジエターから掻き出す作業をしてくれたんですけど、その数周後に水温と油温が一気に上がってしまい、エンジン・トラブルということでリタイアしてしまいました。その後レースを見ていたのですが、最後まで白熱の手に汗握るレースだったので、あの中に入れていたら良かったのにと思いましたね。最後尾から追い上げて、去年のようにレースをリードしたかったのですが、叶いませんでした」
 

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ヒューストン第2、フォンタナとパワーが優勝したことにより、10勝対9勝でマニュファクチャラーズ・タイトルは2年連続でシボレーが獲得しました。今回、シボレー勢の中で規定の使用数を超えたエンジンを使用してペナルティを受け、ポイント獲得の対象外になっていたのはカストロネベスだけでした。ホンダ勢はディクソン、タグリアーニ、琢磨、レイホール、ジェイクス、ニューガーデン、ピッパ・マンの7台が規定の5基を超えるエンジンを今回使用しており、この中の誰かが勝ってもタイトル獲得の対象ではなかったのです。シングル・ターボのホンダは4月から栃木研究所の田辺氏が加わってドライバビリティを向上させることで戦闘力を上げていましたが、今回の予選の結果のとおりエンジン・パワーの面で劣勢だっただけでなく、耐久性においても厳しい戦いを続けていたということになります。ホンダとしては、終盤に素晴らしい走りを見せたキンボールに、是が非でも勝って欲しかったでしょう。というよりも、得意の市街地コースであるヒューストンで連勝できなかったのが辛いところで、シーズン序盤に不振に喘いでいたウィル・パワーが終盤になって復活、シボレー勢の層の厚さを見せつけられる結果ともなりました。チャンピオンチームのガナッシを失う来季に向け、ホンダはアンドレッティ・オートスポーツを迎え入れます。ツイン・ターボに統一される来年、2年のツイン・ターボの経験を持つシボレー勢に対抗するため、このオフのテストが大変重要となるのは間違いありません。
 

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「少しずつ良くしていった成果が、やっと表れた」と今シーズンを振り返ったラリー・フォイト。ほとんどのチームがインディアナポリスにある中で、AJフォイトの地元テキサスにこだわるチームが02年以来となる勝利を挙げ、99年以来となるポール・ポジションを獲得しました。残念ながら優勝したロング・ビーチにAJはいませんでしたが、息子であるラリーの新体制を象徴するようなシーンでもありましたね。前回のヒューストンではAJも復活し、ポール獲得のセレモニーで琢磨と並んだシーンは、ほんとうに感動しました。あのAJフォイトが久しぶりにレースで脚光を浴びる日が訪れ、しかもその立役者が琢磨だったのですから、うれしくないわけがありません。「来年も琢磨だ!」と公言しているAJ、ラリーは「あと数週間で決めたいね」とチームは来シーズンも琢磨を起用する意向で、発表が待ち遠しいです。チームは2台体制の準備も進めており、そちらもうまくいって欲しいと願うばかり。サイモン・パジノウはチームが2台体制となったこともあり、今年ランキング3位を獲得しました。来年はぜひ、トップ3を目指してほしいです。
 

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はい、ということで2013年シーズンが幕を閉じました。今年はなんといっても、佐藤琢磨の初優勝に尽きますね。写真集のあとがきでも書きましたが、93年のロング・ビーチでインディカーの取材を始めた僕にとって、20周年のレースでまさか日本人ドライバーの初優勝に遭遇するとは夢にも思ってもいませんでした。ほんとうにすごい偶然だと思います。その反面、14年間毎戦欠かさず現場に行っていた広之にとっては、辞めてわずか3戦目のことでした…。
 
サポーターズクラブのみなさんがいなければ、今年もインディカーを取材することはなかったでしょう。そして快く現場に送り出してくれた家族にも、心から感謝しています。また来年も続けられるよう、このオフシーズンにがんばりますので、今後とも応援をよろしくお願いします!(斉藤和記)
 
●最終戦リザルト

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●最終戦ハイライト映像