午前中は雨に見舞われたミルウォーキーですが、午後には回復。気温30度で蒸し暑いコンディションの中、予定どおり午後3時35分にエンジン・コマンドがありました。アンドレッティ・スポーツ・マーケティングがイベントを引き継いで2年目の今年、いきなり満員というわけにはいきませんが、昨年よりも観客が増えたように感じます。
6人のドライバーによって11回もトップが入れ変わったレースを制したのは、昨年に引き続き今年もライアン・ハンター-レイでした。予選4位からスタートしてすぐに2番手に上がり、62周目にチームメートのマルコ・アンドレッティをパスしてトップに浮上。中盤に入って佐藤琢磨に先行される場面もありましたが、終盤に琢磨が早めに最後のピットへ向かい、その後に発生したイエロー中にピットを終えるなど、運にも恵まれました。
ミルウォーキーでは3勝目、通算では11勝目となります。第2戦アラバマに次ぐ今季2勝目を達成し、アンドレッティが今回メカニカル・トラブルで20位になったこともあり、ランキング2位に浮上。昨年はこのミルウォーキーから3連勝を達成し、チャンピオン獲得に向けて大躍進を遂げました。ポイント・リーダーとの差は16点、昨年同様ここから勢いに乗りたいところでしょう。「父の日に優勝し、6か月の息子とこうしてビクトリー・レーンにいるのはとても幸せだよ」とハンター-レイ。なんだかデレデレした感じがいいですね。
「序盤は順調にレースをリードできたけど、その後バランスを失っていたんだ。ラッキーなことに最後のスティントでまた調子が戻ってきた。我々のクルマは渋滞の中でほんとうによかったよ。自分が行きたいどのレーンでも選べたからね」とハンター-レイ。最初から最後までクルマの調子が良かったわけではないようです。表彰台では両側のペンスキー・ドライバーからクリーム・パフ攻撃を受け、クリームだらけになってましたよ(笑)。
ウィスコンシン州といえば酪農ですが、最近はこのクリーム・パフを州の名物デザートにしようという動きがあるようですね。外見的にはシュークリームですが、かなり大きいです。牛柄の帽子を被ってクリーム・パフを投げ合うのがミルウォーキー・マイルの伝統になったりして。そういえば昔は地元のミラー・ビールがタイトル・スポンサーで、レース後はビール・ファイトがお決まりでしたね。
ハンター-レイよりもラッキーだったのが、エリオ・カストロネベスでしょう。予選17位から追い上げての2位ですから、文句のつけようがない展開といえるのではないでしょうか。「ロジャー(ペンスキー)の作戦は素晴らしかったよ」とカストロネベス。21周目のイエローを利用して最初のピットへ入ったのですが、このタイミングがうまくはまり、いっきに上位へと進出することができました。
「後方からスタートするのは、厳しいよね」とポイント・リーダーのカストロネベス。「ここはみんな同じようなレーンを使うから、抜くのがほんとうに難しい。僕らのように異なった戦略を使うチームもあって、こうして抜くこともできるから、素晴らしいレースだったと思う。タフだったけど、報われてよかった。勝ってはいないけど、とてもハッピーだ」
やっと今シーズン初の表彰台にたどり着いたのが、ウィル・パワーです。「エリオのように何人かは作戦がうまく決まったよね。タイヤのライフによって順位が入れ替わる感じで、新しいタイヤであればどんどん走れるけど、古くなればパスされる」とレースを振り返ったパワー。「エリオがチャンピオンシップでリードしているのをずっと気にしていたよ。チーム全体のためにも、深刻になるようなことは何もしたくなかった」
一方、予選15位からスタートした佐藤琢磨は、予選17位のカストロネベスとまったく同じタイミングで21周目の最初のコーションを利用してピットへ入りました。この時のピット作業ではペンスキー勢に軍配が上がり、カストロネベスのほうが先にピットアウトしたのですが、ピットでの調整がうまく決まった琢磨はグリーンになるやどんどん順位をアップ。5分の1を消化した50周目には9番手まで上がりました。
上位勢がグリーンの最中でのピットを余儀なくされた中、絶好調の琢磨は69周目についにトップへ躍進。絶妙なタイミング(98周目)でアンドレッティがコース上に止まり、イエローとなったことで予選上位勢がここで2度目のピットを終えたため、レースの5分の2となる100周を迎えた時点でも琢磨は依然トップを堅持することができました。カストロネベスが2番手、ハンター-レイが3番手で中盤に突入です。
注目の3度目のピット・ストップ、トップ3の中でカストロネベスが155周目と先にピットへ向かい、琢磨が2周後の157周目、ハンター-レイが164周目にピットを終了。トップ3の順位は変わらず、レースはいよいよ終盤へと突入します。しかし快調にトップを走行していたかに見えていたものの、「急激にクルマがおかしくなり、いっきにリアのスタビリティが無くなりました」と琢磨。「3コーナーに入って行ったら急にリアが出てしまって4コーナーの外のレーンまで出てしまい、危うくコントロールを失ってしまうところでした」
198周目、ハンター-レイにトップの座を渡さなければならなかった琢磨は、最終ピット・ウィンドウに入った200周目に最後のピットへ。「もうちょっと走行を伸ばしたかったんですが、早めにフレッシュタイヤを履いてクルマを調整すれば、最後にまたトップ争いにいけるだろうと思っていました」と琢磨はその時の状況を振り返ります。ところが211周目にアナ・ベアトリスが壁に衝突してイエローが発生。ここで上位勢がピットへ入り、間に周回遅れを挟むことになった琢磨は、7位でフィニッシュするしかなかったのです。
開口一番、「悔しいです」と本音を漏らした琢磨。「トップを走っている時は最高でしたね。『ミルウォーキー大好き!』って感じで、ここまでこれるとは思っていなかったので、チームのみんなに感謝していました。今までAJフォイト・レーシングはミルウォーキーと相性が悪かったので、チームとしては非常に大きな進歩を遂げられたと思います。こことアイオワは次元の違うショート・オーバルとなりますが、ここでのデータというのは非常に有効になると思うので、アイオワでも精いっぱいいいレースをしたいと思います」
さて、今回のミルウォーキーは昨年のインディ500と同じぐらい、僕にとっては衝撃的なレースとなりました。これまで、この伝統のショート・オーバルと日本人ドライバーの相性は非常に悪く、何度もラップ・ダウンされる光景を目の当たりにしてきたのですが、今回はまったく逆のことが起きたわけです。琢磨が多くのドライバーを周回遅れにするシーンが展開し、109周もの最多リードを記録。この写真は琢磨が順位をアップするたびに拳を振り上げていたファンで、Tシャツを見てのとおり、長年ここに通っているんだとか。僕の右側にも同じような琢磨ファンの家族がいて、順位を上げるたびに大騒ぎ。なんだかとても誇らしかったです。やっとこのミルウォーキー・マイルで、ファンに認められる日本人のインディカー・ドライバーが誕生したのですから。もちろん他のドライバーも絶賛で、パワーは「琢磨はオールド・タイヤでも速かった。他の誰よりもルーズなクルマを運転できていたよ。ロード・コースでもそうだけどね」とコメント。カストロネベスも「時々、彼のやることは、僕のこれまでの考えを吹き飛ばしてしまう。目を見張るよ。素晴らしい仕事をした」
父の日の週末に、優勝したお父さんのレースに居合わせることができたハンター-レイの息子、ライデン君と奥さんのベッキーです。昨年12月に生まれたチャンピオンの息子は、前回優勝したアラバマにはまだ来ることができなかったそうで、やっとビクトリー・レーンで一緒に写真を撮ることができたとハンター-レイは喜んでいました。「僕らはこの光景を永遠に忘れないよ」とウィナー。2年前のミルウォーキーは、お父さんを亡くした直後だった琢磨。来年はぜひ家族を招待し、一緒にビクトリー・レーンに上がってほしいですね!
今回のUSTREAMレポートは18日(火曜日)22時からです。ぜひご覧ください!
●決勝リザルト
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