2009年インディカー・シリーズも、いよいよ後半戦に突入。第2戦ロング・ビーチが終わってからオーバルのレースが続き、先週末に行われたワトキンス・グレンは今シーズン初の常設ロード・コースでのレースでしたね。
戦いの場がロード・コースに移ったことで、元チャンプカー勢のチームやドライバーに、そろそろペンキー&ガナッシの連勝をストップして欲しいという期待が高まっていたところでした。
もう既にご存知だと思いますが、このワトキンス・グレンでついに、デイル・コイン・レーシング&ジャスティン・ウィルソンが優勝! チームにとって、オープン・ホイールのトップ・カテゴリーで初めてのレース・ウィンです!! 25年越しの努力が、558戦目にしてようやく実った瞬間でした。
今回はペンスキーの2台とスコット・ディクソンをおさえて優勝したジャスティンと、デイル・コイン・レーシングについて、書きたいと思います。
今となっては、アメリカン・モータースポーツにどっぷりと馴染んだジャスティンですが、元F1ドライバーだけにドライビング・テクニックのレベルはものすごく高いです。実は僕が1998年にFPA(フォーミュラ・パーマー・アウディ)に参戦した年に、ジャスティンは初代チャンピオンでした。
その前にも名門ポール・スチュアート・レーシングに所属し、イギリスのジュニア・フォーミュラでは大活躍。イギリスに住んでいた頃から顔なじみなので、今でもサーキットで会うと立ち話をしたりしています。ジャスティンはものすごくお人好しで、その人柄はチーム・スタッフやファンからも大人気です。
FPA時代からカー・コントロールが非常にうまかったので、F1に行ってもおかしくない実力を持っていたジャスティン。2001年には国際F3000シリーズのチャンピオンを獲得し、2003年にF1デビューとなったのですが、ジャスティンがF1に残るには2つの問題がありました。一つは資金難、そして二つ目は身長です。
ジャスティンは190cmを超える長身で、コックピットにおさまるのがやっと。175cm前後のドライバーがギリギリにフィットするように設計されているF1マシンに、ジャスティンはかなり苦労して乗り込んでいました。チーム側も空力上マシンの設計を変えるわけにはいかなかったので、ジャスティンは我慢して走るしかなかったのです。
念願のF1デビューを果たしたものの、シーズン後半戦から移籍したジャガー・レーシングは、その後チームの売却先であるRed Bullの意向でマーク・ウェバーとクリスチャン・クリエンをドライバーに抜擢。ジャスティンはシートを失ってしまいます。
そんな中、2002年の冬にクリスチアーノ・ダ・マッタの後釜としてニューマン/ハースが行ったオーディション・テストに参加。残念ながらセバスチャン・ブルデーにシートを奪われてしまったのですが、アメリカのレースと雰囲気に魅力され、2004年からチャンプカー・シリーズへの転向を決意したのです。
コンクエスト・レーシング、ルー・スポーツ、ニューマン/ハースと渡り歩き、今シーズンからデイル・コイン・レーシングに所属。ロード・コースでのレベルの高さは、開幕戦のセント・ピーターズバーグでしっかりと証明されましたね。
デイル・コインと言えば下位チームというイメージが高い中、移籍していきなりトップ争いをした事実に、誰もが驚きを隠せなかったことでしょう。今思えば、セント・ピーターズバーグやロング・ビーチの走りを考えると、今回のワトキンス・グレンで優勝しても、おかしくない走りをしていたと言えます。
今回の優勝はジャスティンの実力が7割近くで、残りの3割はチーム力だと思います。今まで下位チームと言われていたデイル・コイン・レーシングでしたが、今シーズンは「勝ち」に行くことを狙っていたようで、ちゃんとした予算が集まらない限り、1台体制に集中しようと決意していました。
2台体制にすることによってデータの量が増え、1台に対してかかる予算の単価は下がります。しかしちゃんと2台分の予算がないのに、無理をして2台体制にしてしまうと、両方の足を引っ張ってしまうことになりかねません。パンサー・レーシングは2台で走るよりも、しっかりと1台でやった方が良いと言い切ってしまうくらい、2台分のマシンをメンテして同じクォリティーを保つことはとても大変なのです。
今まで無理に2台やってしまっていたのは、どちらかと言うと「NO」と言いづらいお人好しのオーナー、デイルの責任かもしれません・・・。金額が足りなくても「スポンサーを獲得したから何とかできないか?」とお願いすると、引き受けてしまう事が多かったのですが、今年はデイルが心を鬼にして挑んでいるように感じます。
実際、僕も今年のインディ500では何度も彼と交渉しましたが、金銭面ではまったく折れませんでした。メインのプライマリー・カーの足を引っ張ることは、絶対にしないと決めていただけに、あのトーマス・シェクターでさえもフルで予算を持ち込んだようです。
では、今までのデイル・コイン・レーシングと何が違うかと言うと、エンジニアリング力だと思います。まず、去年のインディ500直前にガナッシから解雇された、チーフ・メカのミッチ・デイビスを獲得。彼はガナッシに長年所属していただけに、マシンを組み上げる際の細かいコツや、裏技的なセット&データを持っていたと思います。その辺の内容は、僕も喉から手が出る程欲しいです。ハイ・・・(笑)。
ミッチの加入によってチーム力は上がり、去年のロード・コースのレースでも何度かブルーノ・ジュンケイラや、マリオ・モラエスが良い走りをしていましたね。ミッチはオフ・シーズンの間にニューマン/ハースに移ってしまいましたが、デイルはガナッシでファン・モントーヤがインディ500で優勝した際に担当していた大御所エンジニア、ビル・パッパスを獲得しました。
ビルは長年の経験で、速いマシンを作り上げるというコンセプトに関しては、完全に理解しているはず。恐らく他のトップ・チームに比べると開発費用が少ないために、オーバル・レースでは苦戦することがあったとしても、ロード・コースのレースで良いドライバーと組めば、必ず勝つ自信があったのでしょう。
昨年いっぱいでニューマン/ハースから解雇され、シーズン・スタート直前まで何も決まっていなかったジャスティンは、オープン・テスト前にデイル・コイン・レーシングのショップを訪問。この時にビルと出会い、デイル・コインの「マジで戦う姿勢」を実感して契約に至ったそうです。ビルの他にジャスティンも加入したことによって、スタッフ全員のモチベーションが向上したのは言うまでもありません。
今回、ジャスティンがトップでチェッカーを駆け抜けた時、チーム・スタッフは飛び上がって大喜び。同時にピット・レーンにいた全チームが、デイルを祝福していました。それにしてもペンスキーとガナッシを負かしたのが、まさかデイル・コインだったとは! この原稿を書きながら、僕自身もあらためてビックリしているほどです。おめでとうジャスティン&デイル!!
さて、先週一緒にロスでトレーニングをして過ごしたヒデキは、今回もレース中盤に3位を快走。ピット後に順位を落とし、最終的にクラッシュしてリタイアしてしまい、残念な結果に終わりました。アイオワ、リッチモンドと続いた良い流れをここで崩さず、テンポラリー・コースでの2連戦をがんばって欲しいところです。
今週末はトロントでIRLのレースが初開催されます。ここは長年CARTやチャンプカーでレースをしていただけに、また元チャンプカーのドライバーやチームが活躍しそうな気配が・・・。
コースはセント・ピーターズバーグとロングビーチをあわせたような市街地コースです。冬は路面が凍結するほど冷え込むので荒れやすく、現在のコースの路面状況は推測できませんが、そのような状況で以前までのデータがどこまで活かされるかがキーとなるでしょう。
そして、レースのプロモーターでもあるAGR勢にも期待がかかります。チームの共同オーナーであるマイケル・アンドレッティは7回も優勝経験があるほどで、マイケルにとっては縁起の良いコースです。
2005年に優勝したジャスティンは勢いに乗って連覇も夢ではないし、トロントから5戦契約をしてペンスキーから復帰するウィル・パワーは、2007年のウイナー。優勝候補がたくさんいすぎて、予想するのが難しい展開になりそうです! そう考えると今年のインディカー・シリーズは、メチャメチャおもしろいですね!!