Nobuyuki Arai's

タイトル戦線に変化あり!?インフィニオンで見たペンスキーの底力

画像 第15戦インフィニオンは名門チームの底力をまざまざと見せ付けられる週末でした。ペンスキーとカストロネベスのパッケージングは初日から他を圧倒し、予選でも文句なしのポールポジションを獲得すると、決勝でも2位以下を5秒以上も引き離す圧勝。その2位にもチームメイトのライアン・ブリスコーが入り、予選&決勝の「ダブル1−2フィニッシュ」という完璧な成績で締めくくりました。この結果は、チームにとってはチャンピオンシップでも非常に重要なものでしたが、それ以上にチーム・ペンスキーというレースオーガニゼーションが、なぜ長年の間北米オープンホイール界でトップの地位についているのかを思い知らされる結果でもありました。

画像

 事件は、インフィニオンのレース開幕2日前の水曜日に起こりました。カリフォルニア州ソノマにあるサーキットに向かっていたチームのトランスポーターが、途中のワイオミング州で火災に遭い、積んでいたマシンを含むレース機材一式がすべて燃えてしまったのです。しかもよりにもよって、インフィニオンは米国内でのレースではチームのファクトリーがあるノースカロライナ州から最も遠い場所。バックアップを送るにしても時間がかかり、一時は参戦すら危ぶまれていたほどだったのです。しかし、幸運にも1週間前に同じインフィニオンで行われていた公式テストで使用したマシンが現地に残っていたため、レースの出場は取りあえず問題なくできることに。すると、チームは火災のあった直後にノースカロライナ州のファクトリーからバックアップのマシンを載せたトランスポーターを即座に出発させ、レース初日の金曜日にはちゃんとサーキットに到着させる離れ業を演じたのです。「通常2日掛かるマシンのセットアップとレースの準備を、クルーはわずか半日でやり遂げた。このチームはいつ、どんなことがあっても、それに備えるチーム力がある。こんなチームは他にはない。これが、チーム・ペンスキーがチーム・ペンスキーたる所以なんだ!」と、初日にトップタイムをマークしたカストロネベスは記者会見で、チームクルーの驚異的な仕事ぶりを絶賛していました。取材している側からも、クルーひとりひとりの顔つきが心なしか違って見えたのも決して気のせいではなかったと思います。

画像

「そんなクルーの働きに何としても応えたかった!」と言うカストロネベスは、クルーのハードワークにポール・トゥ・フィニッシュで応える完璧ぶり。とにかく、初日からものすごい集中力を見せていましたね。彼のトレードマークである明るさはいつも通りなのですが、走行後にはピットテントでクルーといつもより時間を重ねて真剣にミーティングを重ねていましたし、「何とかしてやろう!」という闘志がむき出しに感じられましたね。ブリスコーも走り出しからカストロネベスと同等のタイムをマークし続けていましたし、ペンスキーのクルマのセットアップが完璧に決まっていた感じでした。特に、起伏の激しいターン3〜4はマシン・バランスの良し悪しがはっきり出る箇所でもあるのですが、ペンスキーの2台はライバル勢に比べてマシンが格段に安定していて、踏むべきポイントでアクセルを躊躇なくガツンと踏み込めているように見えました。チームの惨事をまったく感じさせない絶好調ぶりで、そのままのスピードを決勝まで持続していったのです。

画像

 チャンピオンシップを考える上でも、ディクソンに78点ものポイント差をつけられていたカストロネベスは優勝が絶対に必要なまさに崖っぷちの状況。自身にとっても、昨年のセント-ピータースバーグ以来30戦も優勝がない状態で、今シーズンもここまで2位が7回と惜しいレースが続いていただけに、何としてでも優勝が欲しかったレースでした。そこで、何とポール・トゥ・ウインの圧勝劇。しかも幸運なことに、ライバルのディクソンはレース中、エンリケ・ベルノルディの遅いマシンにつかまったことでポジションアップができず12位という惨敗でした。これでポイント差は43点にまで縮まり、チャンピオンシップは一気にヒートアップしてきたのです。

画像

「1レースで35点もポイント差が縮まるのは本当に痛い。特に終盤こういうレースをされると、流れが一気にエリオへ傾きかねない」と危機感を募らせたディクソン。しかも次戦ベルアイルは、CART時代の2000〜2001年に連勝し、IRL初開催だった昨年はポールポジションを獲得するなどカストロネベスが大の得意としているコース。ワトキンスグレン、エドモントンとディクソンはここまで2勝しているものの、ロードコース戦のマシンのスピードを見る限りではペンスキーの方がやや勝っている印象があります。もちろん43点という大差をつけているディクソンの有利に変わりはないものの、勢いに乗ったカストロネベスをロードコース戦で止めるのはさしものディクソンといえども至難の業。ディクソンとしてみれば、ポイント差を計算しながら無理をしないレース運びをしてくるでしょうが、落とし穴があるとしたらその辺にありそうな感じがしてなりません。まずは、ベルアイルでの初日プラクティスのスピードに注目したいです。