エドモントンで復活したポール・トレイシーが、いきなり魅せてくれました! 苦悩の数ヶ月を過ごしてきたトレイシーにとって、地元レースで4位という結果は、数字以上に価値のあるものとなりました。
やっぱり役者が違う! エドモントンでのトレイシーを見て、改めて実感しましたね。2002年のインディ500以来となるインディカー・マシンのドライブ、ロングビーチ以来じつに3カ月ぶりのレース、そして恐らく“初めて”協力し合ったトニー・ジョージ率いるビジョン・レーシングの支援を得たウォーカー・レーシングからの参戦と、懸念材料が山積みだった初参戦ですが、蓋を開けてみればあと一歩で表彰台に届く4位フィニッシュ。あらゆるネガティブな要素を考えれば、優勝に値する結果と言っても過言ではないと思います。「俺のことを忘れるなよ!」といわんばかり、39歳になっても強烈な存在感をいきなり示したわけです。いやいや、本当に恐れ入りました。
トレイシーの走りを初日から見ていると、「試行錯誤」という言葉がピタリと当てはまるなと思いました。初日木曜日の走り始めのプラクティス1回目、IRL初のエドモントン戦で最初にコースオフをしたのはまさにトレイシーでした。ターン2〜3のS字コーナーの進入でマシンの体制を崩し、豪快にインフィールドの芝生エリアにコースオフしていましたね。それが合図とばかり、毎セッションに渡ってコースオフの連続で、「苦労しているなぁ」と思ったものです。ただ、ふと気づいたのは、コースオフは繰り返していたものの、同じターンやコーナーでは2度とミスを犯さなかったのです。一度マシンの限界を知れば、あとは問題なしとばかり、その後はかなりアクセルを踏んでいっていましたね。この辺はベテランらしい、言い変えれば「トレイシーらしくない」沈着冷静な走りだったと思います。コースオフを繰り返した結果が、初日総合8番手。予選日の朝のプラクティスも8番手と上位につけたんですから、さすがだと思いましたね。予選は、最後にベストタイムをマークしてQ2進出を決めたと思ったのもつかの間、じつはアタック直前でセッションが終了してしまったためQ1落ちとなり15番手に終わってしまったものの、決勝では魅せてくれました。
トレイシーの決勝での走りは、決して彼らしい豪快で、コース上でマシンを抜きまくるというスタイルではありませんでした。数字だけを見ると予選15番手から4位に入ったものの、ポジションアップの大勢はピット作戦の違いなどから上位勢が徐々に脱落していったことでした。ただ、それ以上にトレイシーがミスなく堅実に走行していき、ピットストップのたびに順位を上げていくといった、一見地味だったものの、気が付くと上位に進出していたという、これまた“トレイシーらしくない”レース運びができたことが、この結果につながったことは確かです。最後に4位までポジションアップできたのも、すべては堅実に走った、いや、久々の、しかも地元のレースだったにも関わらず、堅実に走れた結果の4位だといえるのではないでしょうか。「このレースで、僕がまだレースで上位を走れると証明しなければならなかった。でも、それができて本当にいい気分だよ」とレース後、トレイシーは満足げな表情を見せていましたね。やっぱり絵になります。
今後のことは未定ですが、恐らくシーズン終盤のベルアイルには出場できるのではと言われています。これだけの走りができたのですから、できる限り多くのレースに出場してほしいですね。記者会見で、エドモントンのレースを制したディクソンが「ポールはこのシリーズに必要なドライバー。ビッグネームだし、見ていて本当に素晴らしいドライバー。なんたって彼は“動物”だからね(笑)」と訴えれば、2位になったカストロネベスも「ポールが才能豊かなドライバーであることはみんな知っている。彼はこのシリーズをさらにアトラクティブにできるドライバーだし、フルタイムドライバーとしてポールを持てればこんなにうれしいことはないよ」とトレイシーの本格復帰を熱望していることを語っていました。今回のレースを見て、改めてシリーズ関係者の多くがトレイシーの復帰を待ち望んでいることがよくわかりました。北米オープン・ホイール・シリーズ統合の犠牲者として見られていたトレイシーですが、やっぱりオープン・ホイール・シリーズに彼は必要なんです。トレイシーのような強烈な個性を持ったドライバーが少なくなった近年だからこそ、ぜひシリーズに戻ってきて、多いに暴れまわって欲しいですね。