いよいよ開幕したIRLインディカー・シリーズの2008年シーズン。チャンプカーとの統合後、初レースとなった開幕戦ホームステッドの結果から、今シーズンの戦力図を占ってみたいと思います。
レース前のテストでクラッシュし、出場を断念したグラハム・レイホールを除いても総勢25台ものエントリーを集めた2008年IRLインディカー・シリーズの開幕戦。インディ500以外のレースでこれほどのエントリーが集まるのは本当に久々のことで、改めて北米オープン・ホイール・シリーズの新時代が到来したことを実感させられました。やっぱり参加台数が多いと見た目も華やいで見えますし、パドックもすごく活気に満ち溢れているようでした。これこそファンが長年望んでいたものだと思いますし、12年の空白期間を経て、ようやく“戻ってきた”と言えるのではないでしょうか。
さて、開幕戦を終えていろいろなことが見えてきました。まず、今シーズンから新たに導入された4周アタックによる新予選方式が、思った以上に白熱したこと。インディ500でお馴染みのこの方式の導入に、一部のメディアからは悲観的な意見も聞かれましたが、いざ蓋を開けてみるといろいろなドラマが見られ、大成功と言えたのではないでしょうか。予選前の記者会見でトニー・カナーンが、「一瞬のトップ・スピードよりも、4周安定したタイムが出るセット・アップにする必要がある」と語っていた通り、アタック・ラップ全周にわたって安定した走行をしないとグリッド上位にはつけないことは、結果を見れば一目瞭然でした。特に、最終アタッカーのエド・カーペンターが3周終了時点ではディクソンを上回るタイムだったものの、最終ラップのみ1周平均212mph台に落ちてしまい、初ポールを逃したことは印象的でしたね。結果的にカーペンターを含めた2台のビジョン・レーシング勢は予選後に車両違反が見つかり、グリッド最後尾になってしまうのですが、ファンから見れば、最後の最後まで手に汗握る予選となりました。
次に、決勝レースの結果から、今シーズンもやはりトップ3チームの力がかなり拮抗していることがわかってきました。トップ争いを展開したペンスキーの2台、チップ・ガナッシの2台、そしてAGRのカナーン&マルコ・アンドレッティの計6台は、スピードで明らかに他車に比べずば抜けていましたし、今シーズンのタイトル争いの主役となっていくことでしょう。なかでも驚かされたのはマルコ。昨年までハイスピードオーバルは苦手にしていて、トップ争いを見ることはほとんどなかったのですが、開幕戦ではレース中盤を完全に支配します。この走りにマルコの成長が見られましたし、オーバルでこれだけ走れるようになったのなら、チャンピオン獲得も十分可能だと思える内容でした。また、シーズン前の予想でチャンピオン候補最右翼と見られていたディクソンも期待にたがわぬ走りで完勝。ディクソンもマルコ同様に、今まで決してハイスピードオーバルが得意なドライバーとは言えませんでしたが、開幕戦では序盤と終盤にしっかりトップを奪う走りで、見た目以上に完勝と言える内容でした。昨年は、チャンピオン獲得まであとターン2つという所で無念のガス欠に見舞われ、ダリオ・フランキッティにタイトルを持っていかれたディクソンでしたが、フランキッティが去った今季に賭ける意気込みは相当なもの。表情にも自信が表れているようで、貫禄十分といった感じでした。2度目の王者に向け、最高のスタートを切ったと言えますね。
チームごとに見ていくと、トップ3の中ではペンスキーがやや遅れを取っているようでしたね。実際、レース後にエリオ・カストロネベスも「ガナッシとAGRに現時点ではスピードで劣っている」と認めていたほど。合同テストでは、逆にガナッシ勢が「レースセットではペンスキーの方が上回っている」と語っていましたが、それが開幕までの1カ月間で逆転してしまったようです。とはいってもそこは名門ペンスキー。今後はしっかりと立て直してくることでしょう。オーバルでのレース経験に疑問符が付けられていたライアン・ブリスコーも、アクシデントに見舞われるまではトップ・グループでいい走りをしていましたから、ペンスキーの巻き返しに今後は注目ですね。
また、気になる武藤英紀ですが、開幕戦は見せ場なしで残念な結果になってしまいました。とはいっても、これがAGRでの初レースで、インディカーではわずか2戦目。なぜクルマが走らなかったのか? ピットストップ時になぜあのようなアクシデントが起きたのか? チームメイトと比較して自分に何が足りなかったのか? といったことをしっかり見つめ直しているはずです。たしかに開幕戦には日本から大勢の報道陣が詰め掛けていましたし、この結果には武藤自身が一番残念に思っているでしょうが、シーズンはまだ始まったばかり。自分に必要なものをひとつずつクリアしていって、インディカー・ドライバーとして今後さらに成長していってほしいです。
このトップ3チームに次ぐのは、ビジョンの2台、レイホール-レターマンのライアン・ハンター-レイ、そしてパンサーのビィトール・メイラといった面々。なかでもビジョン勢のスピードは驚異的で、決勝レースでも最後尾スタートながら終わってみればカーペンターが5位。今シーズン中に優勝争いも十分可能だろうと思わせるパフォーマンスでしたし、ぜひトップ3チームを食う走りを今後も見せて欲しいですね。また、チャンプカー転向組は予想通り厳しい戦いとなり、最上位はオリオール・セルビアで、5周遅れの12位。恐らく、今シーズン中にオーバル・レースで上位争いをするのは非常に難しいとは思いますが、来シーズン以降に繋げるためにもがんばっていってほしいですね。ただ、次戦はセント・ピータースバーグの市街地レース。開幕戦の鬱憤を、得意のロードコースで晴らし、インディカー組を食う走りを期待したいです。