伝統の第46回デイトナ24時間レースが1月26〜27日にデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで行われました。デイトナ在住の筆者としては家から通える何ともうれしいレースでもあることから、24時間レースといえども特に疲れを感じることなくリラックスして取材に臨めました。
さて、今年のデイトナ24時間ですが、結果から言ってしまえばチップ・ガナッシ・レーシングの01号車(レクサス・ライリー)が2年連続優勝を飾りました。ファン-パブロ・モントーヤを筆頭に、今年から同チームでNASCARスプリント・カップにデビューするご存知インディ王者のダリオ・フランキッティ、元グランダム王者のベテラン、スコット・プルーエット、そしてメキシコの新勢力メモ・ロハスという豪華ラインアップの実力はやっぱり本物で、ライバル勢がトラブルから相次いで脱落していくのを尻目に、順調に走行を重ねて見事栄冠に輝きました。モントーヤとプルーエットにとっては2年連続、フランキッティとロハスにとっては初、そしてチームとエンジン・マニュファクチャラーのレクサスにとっては2006年から3年連続でのデイトナ24時間制覇という快挙となりました。
01号車はもちろん優勝候補の筆頭と見られていましたが、結果的には昨年ほどの力強さは最後まで見られなかったですね。昨年は01号車を含む3台による、およそ24時間レースとは思えないほどのデッドヒートで、レース終盤にも関わらず同一周回でのテールtoノーズの手に汗握る白熱した戦いが展開されました。それを振り切ったのが、残り5時間を切ってからのモントーヤの脅威の“トリプル・スティント”で、ここで一気にライバルたちを突き放した走りは今でも記憶に鮮明に残っています。打って変わって今年は、雨が降っては止むという不安的な天候もあり、01号車の序盤はスタート前のタイヤ交換などで終始後ろから追う展開。中盤から終盤にかけて、トップを走るライバル勢が相次いでトラブルで脱落したことも01号車の優勝を“アシスト”した要因となりました。実際、レース後にモントーヤが「去年のクルマはほんとうに速かったから優勝できる予感はあったけど、今年は毎スティントともハード・プッシュを強いられたよ」と語り、決してスピードで抜きんでた存在とは言えませんでした。それをカバーしたのがチーム力だったと僕は思います。ルーティーンでのブレーキ交換やタイヤ交換など、「レース前に何度も何度も練習したんだ。この努力がほんとうに実ったね」とオーナーのチップ・ガナッシも語っており、チーム一丸となって得た勝利だったと言えます。最終的には2位に2ラップ差をつける圧勝となりましたが、見た目ほど楽な優勝ではなかったのです。
とはいっても、豪華ドライバーの能力もやはり「さすが!」と思わせるものでした。特にモントーヤは昨年見せた“トリプル・スティント”を今年は2度も見せるなどタフネスぶりを発揮。その両スティントとも01号車をトップにまで順位を押し上げたんですから、やはり役者が違いましたね。また、注目のフランキッティは主に夜間走行を担当。しかも、なぜだかフランキッティの走行中は雨が降り出すなど非常に難しいコンディションでのドライブを強いられましたが、さすがは百戦錬磨のフランキッティ。安定した走りで与えられた仕事をキッチリこなしたあたりはさすがでした。優勝に値する走りだったと思います。
2位には、2年連続NASCAR王者ジミー・ジョンソンを迎えた昨年のグランダム王者99号車(ポンティアック・ライリー)が入りました。夜間にトップへ浮上しそのまま押し切るかと思われたのですが、トップ走行中にギヤボックスが突然悲鳴を上げて緊急ピット・インを余儀なくされ5ラップ・ダウンに。しかしここからジョンソンがステアリングを握って追い上げ、2位までポジション・アップしたあたりはさすが昨年のシリーズ王者です。デイトナ24時間4度目の挑戦だったジョンソンも自分の仕事を難なくこなしたあたりはさすがでしたね。多くのNASCARドライバーとは違い、ジョンソンはオフロードのスタジアム・トラック出身という異色の経歴を持つこともあり、500馬力のグランダム・カーあたりは難なく乗りこなしてしまうほど、ドライバーとしての総合力が非常に高いんです。レース翌日からラスベガスでNASCARの合同テストがあることから今年は多くのNASCARドライバーが24時間レース出場を回避する中、あえて挑戦したジョンソンの、このレースに賭ける思いがヒシヒシと伝わってきました。
3位にはペンスキー-テイラー・レーシングの9号車(ポンティアック・ライリー)がこちらもトラブルを克服してのポディウム・フィニッシュとなりました。エリオ・カストロネベス&ライアン・ブリスコーというIRLコンビに、2004年NASCARスプリントカップ王者のカート・ブッシュという、ペンスキー所属のスター・ドライバー・トリオで臨み、01号車同様に大注目を集めた9号車。序盤にいきなりタイヤ・バーストに見舞われ周回遅れとなってしまったものの、その後雨によるイエロー・コーションの多発にも助けられトップにまで浮上します。しかし、その後も何かとアクシデントに見舞われ順位を落とし、99号車同様に終盤の猛チャージによって見事3位でフィニッシュ。耐久レース経験が少ない3人にもかかわらずこの結果ですから、来年もしチャンレンジしてくるようでしたらガナッシ勢に大きく立ちはだかることは間違いないでしょう。
あと、筆者が一番注目したのがチャンプ・カー出身のNASCARドライバー、A.J.オールメンディンガー。マイケル・シャンク・レーシングの6号車(フォード・ライリー)を駆って序盤はトップを快走し、終盤にも01号車と猛烈なトップ争いを展開しました。残念ながら残り3時間でサスペンションが壊れ、優勝戦線から脱落してしまったのですが、チームの成績以上に目立ったのがA.J.の表情が活気に満ち溢れていたことです。昨年はNASCAR1年目で不慣れなストック・カー&オーバル・レースで不遇を過ごしてきたA.J.の表情はまったくさえないものでしたが、デイトナ24時間ではインタビュー中にも笑顔が絶えないほど。カリフォルニア出身のA.J.は冗談を言うのが好きな典型的な“ヤング・アメリカン”ドライバーなんですが、チャンプ・カー時代に見せていたあの陽気なA.J.が戻ってきた感じです。今年はNASCAR2年目で飛躍の年となりそうですが、24時間レースでの走りを見ていると、やっぱりA.J.はロード・コースでこそその才能が開花すると思ってしまった筆者であります。