昨日の第6戦に引き続き、日曜日の第7戦も予定どおり午後3時43分にエンジン始動。ポールポジションのマイク・コンウェイを先頭に、25台がいっせいにスタートしました。前日、今季2戦目で今年の初優勝(通算2勝目)を達成したコンウェイは、スタート後ウィル・パワーに先行を許すも、5周目のターン1でパワーをパス。7周目には2.1501秒もの差を築き上げたのですが、2度目のスティントでレッドを装着したことにより、ポジションをダウンしていきます。
イエローが相次いだ大波乱の第7戦デトロイトを制し、念願のインディカー初優勝を達成したのはサイモン・パジノウでした。6番手からスタートした彼は、ほとんどのドライバーが苦戦していたレッド・タイヤを最初に投入して20周を走り、残りをブラックで追い上げる作戦を採用しました。しかし多重クラッシュでスピンしたパワーの真後ろにいて、回避するためにフロントウィングにダメージを負ったため緊急ピットイン。フロント・ウィングの交換を強いられていたのです。
37周目の再スタート時、10番手だったパジノウ。周回を重ねるたびにポジションをアップし、レッド・タイヤでペースダウンを余儀なくされていたトップ・グループを次々とパスしていきます。55周目に最後のピットを終えたパジノウは、再びブラックでラスト・スパートをかけ、ピットインしたジェイクスをパス。そのままゴールまで突っ走りました。「インディカーで勝つまで、21年もかかったよ」とパジノウ。8歳でゴーカートを始めた彼は、インディ500の期間中の5月18日、29歳になっていました。
「この21年間、たくさんのハードワークがあった。最後の2周はクルマの中でとても感情的になり、集中するのが難しかったよ。『プッシュしろ、プッシュしろ、気を抜くな』ってずっと言い続けていた。フィニッシュラインを越えた時、心地よい瞬間だったね」とパジノウ。2007年にパワーのチームメートとしてチャンプカーを戦っていた彼は、翌年に大きな転機を迎えます。「08年にジル・ド・フェランとホンダからスポーツカーのレースに誘われたんだ。僕自身はオープン・ホイールを続けたかったから、諦めたくなかった。仕事としてそのオファーを受けたんだけど、正直学ぶことがたくさんあったよ。タイヤやエンジン、エレクトロニクス、エアロダイナミクスの開発など、僕はジルからも多くのことを勉強した。もっと強いオープン・ホイールのドライバーになって、帰ってきたんだ」
2位は3年目のシーズンで初表彰台を獲得したイギリス人、ジェイクスです。今年からレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング入りした彼は、このデトロイトでいっきに開花したといえるでしょう。前日の第6戦では予選4位(3番手スタート)でしたが、朝の第7戦の予選では2位を獲得。フロントローからスタートしたジェイクスは徐々にポジションを落とし、パジノウ同様多重クラッシュに巻き込まれて同じ周回にピットでフロントウィングを交換していました。最後のスティントは前日に苦労したレッドを投入したのですが、「朝のウォームアップでレッドを試したら、とても良くなっていた。最後の数周でグリップは落ち込んだけど、プッシュトゥパスも残っていたし、コンウェイを抑えるには十分だったよ」とジェイクス。ここから勢いに乗りたいところです。
3位は前日のウィナー、コンウェイが入りました。昨日はブラック、ブラック、レッドで勝ちましたが、今回は間にレッドを投入。そこでポジションを落としたのが響き、最後にブラックで再び追い上げたものの3位に終わりました。「序盤はイエローのタイミングで何台かがピットに入り、そこでシャッフルされたよね。レッドではキンボールやパジノウにパスを許すことになった。ブラックに変えてからはプッシュし続け、6台ぐらいパスしたと思う。楽しかったよ」とコンウェイ。次はトロントに向けてコインと話をしているんだそうです。
前日のレースの倍となる6回ものコーションが発生した第7戦。特に28周目のターン1では、セバスチャン・ブルデイが前のパワーに追突したのをきっかけに、10台がからむ多重クラッシュが発生しました。大荒れとなったことに関して、2位に入ったジェイムズ・ジェイクスは「昨日は予選からそのままレースで、誰もフルタンクで走ってなかったけど、今日はレース前にプラクティスがあったから、みんなもっとうまくいけると考えていたと思う」とコメント。1レース経験し、昨日よりもうまく走れるといった気持ちが、アグレッシブな走りにつながったと言えるでしょう。
ここ数年シーズンの序盤に勝利を重ね、3年連続でチャンピオン争いを演じてきたロードコース・チャンピオンのパワー。今年は7戦中、今回が5度目のトップ走行となりましたが、なかなか結果を出すことができません。怒りがおさまらず、ブルデイにグローブを投げつけるシーンもありましたが、1ポイントでも多く獲得すべく、チームはパドックに戻ってマシンを修復。再スタートして20位でフィニッシュしました。
優勝したパジノウと同じく、レッド・タイヤでスタートしていた佐藤琢磨。21番グリッドから3つポジションを上げて9周目にピットへ入り、その後は新品のブラックで最後まで走りきる作戦でした。ブラックを履いた琢磨はどんどん順位をアップし、23周目の再スタート時は7番手まで躍進していたのですが、ターン3でルーキーのトリスティアン・ボーティエに押し出される形でタイヤバリアに衝突。今季初のリタイア(23位)を余儀なくされました。
ドライバーズ・ミーティングでの取り決めで、横に並んだ時は1台分のスペースを空けることになっていたそうですが、突っ込みすぎたボーティエは体制を崩して琢磨にヒット。しかし問題はそれ以前にもあり、ボーティエはレースがスタートする際にも隣に琢磨がいることを無視してラインを変え、あわや追突しそうになった琢磨はブレーキを踏まざるを得ない状況になっていたそうです。スタートで出遅れたのはそのためでした。
「ドライバーズ・ミーティングで1台分のラインを空けるのは何度も話したんですが…」と納得できない様子の琢磨。「スタートの時はほんとうに危なかったので、すぐに無線で伝え、チームがレースコントロールと話をしたんですが、その後何度もイエローが発生したこともあり、(ボーティエが)ペナルティになることはありませんでした。完全に不完全燃焼だし、自分の思い描いていたバトルにならなかったので、非常に残念です」
昨日はスポット参戦のコンウェイと、低予算の小さなチームで戦うデイル・コインが表彰台に上がり、チャンスが多いインディカーならではのレースに歓喜したファンも多かったのではないでしょうか。今日はスポーツカーからオープン・ホイールに復帰したパジノウと、サム・シュミットが初めてインディカーで勝利を挙げました。シュミットといえばかつて彼自身もドライバーとして、インディカーで優勝(1999年ラスベガス)した経験があります。その後のテストで負傷したことによって障害を負い、車椅子での生活を強いられることになったのですが、レースを止めることありませんでした。チーム・オーナーとしてインディ・ライツでもっとも優勝しているチーム(チャンピオンになること6回!)を作り、インディカーに再度挑戦したのです。「私もドライバーとして一度勝ったから、サイモンの気持ちが分かるよ」とシュミット。「この13、14年、長い道のりだった。そう、ファンタスティックだ。ありがとう!」
7戦中6人のウィナーが誕生している今シーズン。苦労したドライバーやオーナーが初めて勝つ瞬間を見ることができるのは、ほんとうに貴重なことですよね。チーム・ペンスキーやガナッシ・レーシングといった名門がなかなか勝てないこともあり、今年はかつてないほど、おもしろいシーズンとなっているのではないでしょうか。これからのオーバル3連戦でも新しいウィナーが誕生するのか、それとも強豪が復活するのか、目が離せないです!
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