インディ500が無事終了したと思ったら、その6日後には今年からインディ500の翌週になったナイト・レースのテキサスと続き、これまでにないハード・スケジュールでした。
月曜日にインディアナポリスでウイナーの撮影会があり、その夜にロサンゼルスへ戻って木曜日にはテキサスですからね。中二日で色々とこなしてすぐに移動って感じで、テキサスが終るまでは落ち着く時間がなかったです。
テキサスはもうね、From USでの近況報告でも書きましたが、ほんと暑いどころじゃなく「あっぢぃ!」って状態。日中コース・サイドにいられるのは練習走行中くらいが限界って感じでしたよ。ナイト・レースじゃないとこの時期のテキサスはレースできないと言っても過言じゃないと、です。(3回もスミマセン)
レースではシモーナ・デ・シルベストロが火達磨になってびっくりしましたね。クラッシュであんなに燃えたマシンってこれまであまり見たことなかったのでね、その様子を撮影していてほんと心配しました。そう言えば開幕戦のスタートでマルコ・アンドレッティとマリオ・モラエスが接触して、マルコのコックピットの上にマリオのマシンが乗り上げたときも、見ていて「まさか・・・」って感じの雰囲気がありました。
インディ500ではレース終了間際にマイク・コンウェイがフェンスに激突してマシンがバラバラになったし、今年はね、なんか最悪の事態を思わせるような激しいクラッシュが多いです。みんな命に別状はないのが幸いですが、あらためてインディカー・ドライバーっていうのは、ほんと命を張ってレースしてるんだなって思いました。
果敢に挑戦し続けるドライバーの一瞬を逃さないように、これからも撮影していこうと僕自身もあらためて思った次第です。
今回、ポール・トウ・ウインを飾ったライアン・ブリスコーはみごとなレースでしたね。2009年のシカゴランド以来の優勝でしたが、そのときもポール・トウ・ウインなんです。最初から速いときのブリスコーは、最後まで調子がいいということでしょう。
2005年にスコット・ディクソンとターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングから参戦していた当時は、速さを見せるもののミスが多い印象が拭えなかったブリスコー。でも、この年はディクソンでさえもわずか1勝しかできない状態で、チームにとって厳しいシーズンだったんですね。
それが2008年にペンスキーから参戦することになると、みなさんもご存知のとおり、勝てるドライバーになりました。まだたまにミスはしますけど、今は古巣のチップ・ガナッシを脅かすドライバーのひとりに成長したのは間違いありませんよ。
テキサスではブリスコーが今年初優勝のチェッカーフラッグを受けたシーンをおさえてから、表彰台に駆け込もうかと思っていたのですが、ちょっと待てよって思ったんですね。もしかしたらドーナツ(スピン・ターン)をやるかもしれないと、ふっと脳裏をよぎったんです。
最近はドーナツでうれしさを表現するドライバーが少ないので、チェッカーを受けるフィニッシュ・シーンを撮影した後はすぐに表彰台へ移動。ウイナーがマシンに乗ったまま表彰台に来るのを待っていることが多かったんですが、なんかこのときは胸騒ぎというか、そういえば、ブリスコーってペンスキーの3人の中ではまだ今シーズン勝ってないし、けっこう久しぶりだから、なんかするかもなって思ったんです。
それでブリスコーの動向を気にしつつ、表彰台にゆっくり向かっていると案の定、表彰台ではなくメイン・ストレートに向かったブリスコーが、ホイール・スピンを始めて煙をもくもくと巻き上げながら回りだしたんですね。予想はしていたものの、ちょっと慌てながらその様子を撮影したのが今回の写真です。
設定はフィニッシュ・シーンを撮影した時とほぼ変わらず、シャッタースピードが800分の1でも大丈夫なISO 3200で撮影しました。Canon Eos 1D Mark ?は感度を上げてもノイズ(粒子が粗くなる現象)が少なく、とても綺麗な画質なので、ナイト・レースを撮影する僕らにとっては抜群のカメラですよ。
このようなドーナツのシーンは、ウイナーが煙に巻かれて見えなくなることが多いのですが、今回はタイミングよくマシンとチェッカー・フラッグ、そしてスモークがきれいに入り込んだカットが撮影できました。
今回優勝したブリスコーも、すべてのタイミングがうまく合った末の勝利だったのだと思います。2008年に初勝利を飾ったミルウォーキーの時と同じように、ブリスコーはマシンの上から、集まったチーム・クルー達めがけてダイブしてキャッチしてもらい、喜びを爆発させていました。
●撮影データ
機種: Canon EOS-1D Mark ?
レンズ: Canon EF 70-200mm f/2.8 IS USM
撮影モード: マニュアル露出
シャッタースピード: 1/800
絞り値: F4.0
測光方式: 評価測光
ISO感度: 3200
焦点距離: 153.0mm
オートフォーカスモード: AIサーボAF
ホワイトバランス: オート
予選で7位だった武藤英紀は、一発の速さではスピードを出せるもののレースになるとマシンのバランスが悪く、今回のテキサスもインディ500同様辛そうなレースでした。それでも忍耐の走りを見せて12位完走。セッティングがうまく決まっていないマシンでのレースは、僕らが想像する以上に難しいでしょうし、大変なことなんだと思います。
今回の写真は、金曜日の午後7時から行われた30分間のファイナル・プラクティスで撮影したものです。今年もインディ500以外のオーバルのレースは2日間の開催となり、テキサスのプラクティスは予選前の1時間と、予選後のファイナル・プラクティスが30分の計1時間30分しかありません。
ちょっと走行時間が短すぎるんじゃないかなって思いますが、そういう意味では撮影時間も短くなるのでね、大変です。たった30分間だけの走行時間でしたが、どこで撮影しようかと考えた結果、ターン4の外側からにしようと思い、てくてく歩いて行きました。
すると、インディカーの写真をもう何十年も撮っているアメリカ人のおじいさんカメラマン2人がすでにスタンバイ。僕以外にもう1人いたら撮影するフォトホールがなくなってしまう状況でした。幸い誰も居なかったのでね、無事に撮影することができたんですけど、早めにメディアセンターを出たのにぎりぎりだったわけです。
太陽が西の地平線に近づいていた頃で、ターン4のほとんどがグランドスタンドの影で覆われています。しかしコースの一部には、グランドスタントとその上にそびえるスイート・ボックスとのわずかな隙間から西日が差し込み、スポットライトのようにコースを照らしだす部分があるんですね。
そんなの見つけてしまったら、そこを通過するマシンを撮らずにはいられなくなるわけです。24度のハイバンクに映し出される何本もの柱の影と、その光の中を駆け抜けるマシン。そこにはスポット・ライトをあびて浮かび上がるマシン以外に、ぴったりと寄り添う影もいて、一緒に時速350キロ以上で疾走していきます。
少しずつ路面の光が小さくなっていく様子は、まるで、ぎらぎらと一日中照りつけていた太陽が、まだ涼しくするわけにはいかねぇぞって、沈み切る前の悪あがきをしているようにも見えました。ほんの10分間くらいで、この光のスポットは消えてしまったんですけどね。
このようなシーンも、やはりナイト・レースならではのショットだと思います。撮影モードはマニュアルにして光のスポットを測光し、マシンが通過する瞬間を高速シャッターで切り撮りました。
またこんなタイミングにめぐり合いたいものです。
●撮影データ
機種: Canon EOS-1D Mark ?
レンズ: Canon EF 500mm f/4 IS USM
撮影モード: マニュアル露出
シャッタースピード: 1/640
絞り値: F9.0
測光方式: 評価測光
ISO感度: 400
焦点距離: 500.0mm
オートフォーカスモード: AIサーボAF
ホワイトバランス: オート
Photo & Text: Hiroyuki Saito
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