<US-RACING>
グランダムやNASCARなど続々と開幕を迎えているアメリカのレース・シーンで、インディカー・シリーズもこのオープンテストから本格始動です。アメリカを発端とする世界的な経済危機の影響が心配されたなかでも、テストには21台のマシンが出揃いました。なかにはルクソー・ドラゴン・レーシングやチーム3Gといった新規参入チームもあって、今年のインディカー・シリーズも活気にあふれていますよ。新しい顔ぶれも見えるオープン・テストの情報をさっそくお届けします。テストが行われるフロリダ州のホームステッドは朝から快晴。日中は心地よい暖かさがありましたが、テストが行われる日暮れ時から風が強くなり始め、気温も下がっていきました。常夏のフロリダといえども、この時期の夜はさすがに半袖で外に出るのは厳しいですね。
初日のトップ・スピードを記録したのは、2008年シリーズ王者のスコット・ディクソンです。昨年の勢いそのままに、ただ一人211マイルを超える211.372マイルを記録。よほどセットアップが決まっているのか、わずか49ラップを走っただけでトップを奪いました。今年からチームメイトに2007年王者のダリオ・フランキッティが加わり、チップ・ガナッシのラインナップはさらに強力になっていますから、今年もチップ・ガナッシがチャンピオン争いの主役となるかもしれません。
ディクソンに肉薄したのがチーム・ペンスキーのライアン・ブリスコーでした。チームの絶対的エースであるエリオ・カストロネベスは、脱税容疑の公判待ちで不在という状況ですが、そんな心配を吹き飛ばすほどのブリスコーの快走です。新加入のウィル・パワーも210.138マイルの5位につけ、もしかするとカストロネベスがいなくても大丈夫!?。昨年のサーファーズ・パラダイスで激しいドッグ・ファイトを繰り広げた二人が、初日のワンツーに来たことで、この結果を見るだけでも開幕戦が待ち遠しくなりますね。
チップ・ガナッシからインディカーに復帰したダリオ・フランキッティは3位に入りました。昨年サーファーズ・パラダイスで実戦復帰をしていますが、インディカーでオーバルを走るのは2007年のシカゴランド以来。そんな状況でもトップ3に来てしまうのは、さすがフランキッティですね。彼曰く「2003年に怪我をしたときは、同じくらいの期間マシンに乗っていなくても違和感がなかったんだ。今回の場合、インディカーには乗っていなくても、NASCARには乗っていたから問題ないよ」だそうです。
デイル・コインからKVレーシングに移籍した若干20歳のマリオ・モラエスが、なんと4位をゲットするすばらしい走りを見せました。チップ・ガナッシとペンスキーの牙城を崩したのは、意外にもアンドレッティ・グリーンではなく、KVレーシングだったのはビックリです。経済危機の影響で今年から1台体制に縮小されたKVレーシングですが、1台になったことでチーム基盤が強固になったのか、初日から良い仕上がりになっています。モラエスも一年を通してオーバルの経験を積んだことで自信を持って走っているようで、二強に続く第三のチームはKVレーシングとモラエスになるかもしれないですよ。
2008年シーズンに続いてアンドレッティ・グリーン・レーシング(AGR)から参戦する武藤英紀。今年からチームがセッティングの方向性を大きく変えるということで、テストでは様々なセッティングにトライして28周を走り、208.029マイルを記録しました。今日は16位というちょっと心配したくなるような順位でしたが、タイムを狙いにいくような走りをしていないということで、本人はそれほど心配していない様子です。明日のテストでは今日と違うセッティングを試すそうで、どこまでスピードを上げてくれるのか見守りましょう。
「久しぶりに走れて楽しかったですね。もう少しスピードに慣れるまで時間がかかると思っていたのですが、昨年の延長線上にあるような感じで早く対応できました。セッティングのコンセプトは昨年からかなり変えていて、チームメイトと4人でそれぞれ違うことを試しています。トニー(カナーン)は大幅に変更しているセットにトライしていましたね。僕が試したものに関してはスピードが足りないですが、悪いところをいろいろ発見できたという意味では有意義なテストでした。タイムは笑っちゃうくらい遅いですよね。燃料を常にいっぱいに積んで走っていたので遅いのは当然かもしれないですけど、明日はまた違うことを試しますよ」
昨年トーマス・シェクターを擁して、随所ですばらしい走りを見せていたルクソー・ドラゴン・レーシングが、今シーズンからフル参戦することになりました。レギュラー・ドライバーに抜擢されたのは、2008年インディ・ライツ・チャンピオンのラファエル・マトス。昨年、いきなり参戦したライツでチャンピオンを獲得するほどのドライバーだけあって、マトスは注目株の一人です。オープン・テスト初日は56周を走りこみ、トップから2.678マイル遅れの12位。無難なスタートを切ったというところでしょうか。高いポテンシャルを秘めたチームと才能のある若手ドライバーのコンビが、今シーズンどんな走りを見せてくれるのか楽しみですね。
今回のオープンテストではもう1つ新規参入のチームが参加しました。その名は、チーム3G。まったく聞き覚えのないようなチームですが、母体は昨年ロジャー安川が所属したベック・モータースポーツで、インディライツに参戦していたケスター・レーシングとパートナーを組んでいます。ドライバーはアメリカ人のスタントン・バレット、36歳。こちらも聞きなれない名前ですが、プロのスタントマンとして活躍するかたわら、NASCARでレース活動をしていたドライバーだそうです。初日の結果は最下位ながらも、トップから0.7秒以内につけているので、今後どこまでレギュラー勢との差をつめていけるか注目です。
マシンやエンジンに関しては大きな変更はないものの、細部が若干かわっています。まず、音が変わりました。インディカー・シリーズでは昨年から排気音を小さくするマフラーが投入されていて、今年はさらに排気音を絞った新しいマフラーになっています。お腹にぐっと響くような重みが軽減されて、乾いた音になっていたのですが、驚いたのはコースサイドにいても耳栓が必要ないくらい静かになっていたことです。ドライバーにとっては、サイレンサーが大きくなって抵抗が増えたためにパワー・ダウンとなるようで、この日初めて新型マフラーで走行した武藤選手は、「トップ・スピードに到達するまでに時間がかかっているような気がします」と話していました。マフラーの形状変更でボディワークも改修され、マフラーの出口が盛り上がる形状になっています。音の大きさはレーシングカーの魅力ではありますが、今年からストリートでのレースが増えるので、観客やコース周辺の人にとっても良い変更だと思いますね。明日は移籍したドライバーを中心にお届けしますので、お楽しみに。