<US-RACING>
コース経験の深いチャンプ・カー勢優位で始まったエドモントンは、マシンを熟知したインディ・カー勢に軍配が上り、チップ・ガナッシのスコット・ディクソンが今季5勝目を挙げた。51周目に行われた2回目のピット・ストップで、予選までは圧倒的速さを見せたペンスキーを出し抜いたディクソン。その後カストロネベスから猛烈なアタックを受けるが、どんなプレッシャーにも動じず、カストロネベスが86周目にオーバー・ランのミスを犯してしまう。コンマ5秒を切っていた白熱の接近戦はここで決着がつき、ディクソンは悠々とチェッカーまで走りぬけた。「ファンタスティックだね。チャンピオンシップを考えてもこのレースは絶対に落としたくなかった。残りの4レースもこの調子をキープしなくてはいけないね。安定してポイントを獲得し続けたい」と気を引き締めるディクソン。ポイント・ランキングのリードは、カストロネベスに対して65ポイントまで広がり、キャリア2度目のシリーズ・タイトルが早くも現実味を帯びてきた。
今シーズンなかなか勝てないエリオ・カストロネベスは、今回も2位でフィニッシュ。レース開始からわずか4周目にチームメイトのブリスコーからトップを奪ったカストロネベスだったが、コーション中に行われた2回目のピット・ストップでディクソンに先行を許したのがすべてだった。あの手この手を使ってディクソンを攻め続けたものの、逆に焦りがベテランらしからぬミスを呼び、86周目にブレーキをロックさせてタイヤ・スモークを上げるほどのオーバランを喫して万事休す。一瞬にして1秒以内から5秒にまで広がった差はいかんともしがたく、そのまま2位でチャッカーを受けるしかなかった。「全力を尽くして攻め続け、毎周ディクソンにプレッシャーを与えていたんだ。でも、彼は一度たりともミスを犯さなかった。ペンスキーの実力はこんなものじゃないから、まだまだ頑張り続けるよ」と悔しがるカストロネベス。同郷のヴィットール・メイラのように、“勝てない症候群”にかかってしまったのだろうか。
コース経験という優位を守れなかったチャンプ・カー勢は、最後までインディ・カー勢を切り崩せなかった。その中でジャスティン・ウイルソンは表彰台の一角を獲得し、チャンプ・カー勢最高位の3位に入る。2004年にチャンプ・カーにデビューしたウイルソンは、過去3年のエドモントン開催でいずれもトップ4フィニッシュに入り、2006年には優勝しているほどこのコースと相性が良い。今年はインディ・カーにマシンが変わったものの、彼のスピードだけは変わらず、6番手から見事に3位を手に入れた。「この結果はとてもうれしいよ。今日はコースで色々なことがあったけど、僕達は常に安全な場所にいることができた。ポール(トレイシー)とも良いバトルができて、とても楽しめたよ」と喜ぶウイルソン。残り4戦となったが、うち2戦はロード&ストリート・コースだけに、ウイルソンをはじめチャンプ・カー勢も奮闘してくれるだろう。
地元カナダで今季初参戦を実現させたポール・トレイシー。プラクティスまではトップ10圏内につける好パフォーマンスを見せるも、慣れない予選方式に戸惑い、16番手からのスタートを強いられた。しかしドライバー紹介でも一番大きな声援を受けたトレイシーは、いざグリーン・フラッグが振られると、彼の持ち味であるアグレッシブさが前面に出たレースを展開。無線トラブルでピットと意思の疎通がとれないハプニングもあったが、スタートから次々に順位を上げ、これが初参戦とは思えない4位でフィニッシュした。地元ヒーローの大活躍に、エドモントンの大観衆は沸きにわいた。「このチームはほんとうに最高だよ。彼らは1週間半でこのマシンを準備したんだ。スポンサーに対しても最大の努力を見せることができたんじゃないかな。もう少しプラクティスがあって、僕も6ヶ月間レースをしていれば、もっと上位を狙えたはずさ」と満足げに話すトレイシー。この一戦にとどまらず、最終戦まで彼の走りを見たいファンは大勢いるに違いない。
武藤英紀はまったく浮上のきっかけがないまま決勝日を迎えたてしまったが、スタートから順調に周回をこなしていき、17番手まで順位を上げていた。前戦ミド-オハイオの課題だったピット・ストップの遅れもなく、さらにポジション・アップを狙っていた29周目。ターン14でマシンのコントロールを失って、タイヤ・バリアに右フロント・サスペンションを強打してしまう。これが致命傷となり、武藤は無念のリタイアで最下位に終わった。「難しかったですね。それほど悪くないペースで周回していて、ピット・ストップでも順位を上げられていたんですけど。スピンに関しては唐突にリアが滑ってしまって、どうすることもできませんでした」と振り返る武藤。インディ・プロ・シリーズでオーバル初優勝を経験した次戦のケンタッキーで、復活ののろしを上げたい。
初めてのインディ・カー開催となったエドモントンで、タイトルスポンサーを務めているのは薬局チェーンのレクソール。コースのいたるところでレクソールの看板を目にすることができ、ターン11から12にかけてはすべてレクソールになっていた。さらに今回はコースのみに留まらず、ニューマン/ハース/ラニガン・レーシングのグラハム・レイホールをスポット・スポンサーとしてサポート。グランド・スタンド裏にはマッサージ・ブースを設けるなど、この3日間でレクソールの知名度は確実に上ったはずだ。
初日から決勝日までの3日間、天候に恵まれたエドモントン。決勝日は朝から薄い雲が空にかかっていたが、レース開始時刻が迫るにつれて雲がなくなり、初日から照り付けている強い日差しが戻ってきた。それでも気温は思ったよりも高くならず、暑くもないちょうどいい風がサーキットに吹く中、アメリカ国歌に続いてカナダ国歌が斉唱された。ハード・ロック・バンドKISSのボーカル、ジーン・シモンズがエンジン始動の掛け声を上げると、仮設コース内の滑走路から飛び立ったカナダ空軍の戦闘機がコース上空を通過し、カナダ初開催のインディ・カー・シリーズが豪華に幕を開ける。レースは地元期待のポール・トレイシーが4位に入る活躍を見せ、ほぼ満席のグランド・スタンドからはトレイシーの健闘を称える声がいたるところから聞こえてきた。来年からこのエドモントンはもちろん、トロントが復活するという噂があるだけに、カナダ人ドライバーのエントリーは欠かせない。トレイシーのようなカナダ人スターをシリーズは必要としている。