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インディカー・シリーズ 第10戦 ワトキンス・グレン【決勝】フォト&レポート

<US-RACING>

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レース後半のフルコースコーションがまたしてもドラマを演出し、ライアン・ハンター-レイがインディ・カー・シリーズ初優勝を飾った。昨日の予選で3位を獲得したハンター-レイに、チャンスがめぐってきたのは49周目。コーション中にも関わらず、2つ先を走るスコット・ディクソンが突如スピンし、その直後を走っていたブリスコーを巻き込んだ。コース上にストップした2台を尻目に、労せずして2番手に浮上したハンター-レイ。ここでチーム・オーナーのボビー・レイホールは、チャンスとばかりに手を叩いた。ハンター-レイは51周目のリスタートで、ダレン・マニングをインサイドから鮮やかにパスすると、初優勝に向けて独走。参戦16戦目にして念願のキャリア初優勝を手に入れた。「夢が叶ったよ。アメリカ人がエタノールのスポンサーを付けたアメリカのチームで勝つという使命を、ボビー・レイホールが僕に託してくれた。そして今、僕たちはビクトリー・サークルにいるんだ。この喜びは言葉では言い表せないよ。ほんとうに信じられない」と喜びを爆発させるハンター-レイ。レイホール・レターマン・レーシングにとっても、実に4年ぶりとなる歓喜の勝利だった。

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ハンター-レイと同じく初優勝の期待があったダレン・マニング。38周目にピット・ストップを行っていたことで、2回目のコーション中にピットへ入る必要がなく、13番手からトップに立った。40周目に起きたコーションから連鎖的に続いたアクシデントによって、フィニッシュまでの燃料を心配する必要はなくなったが、ハンターレイを抑えるだけのパフォーマンスを発揮できず。トニー・カナーンの追撃をかわし、キャリア・ベストの2位でフィニッシュした。A.J.フォイト・エンタープライゼスにとっても、2002年カンザスでの優勝以来となるベスト・フィニッシュだ。「ライアンはとても速かったよ。ストレートでは分があったと思うけど、彼のほうがダウンフォースを付けていたようだね。ここ数戦は苦しんでいたから、チームにとっては良い結果を残せた」とマニング。今日の活躍をたたえ、リンカーン・エレクトリック・ハード・チャージャー・アワードが送られた。

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今朝のウォーム・アップ・プラクティスで大クラッシュを喫したトニー・カナーンは、負傷した手首の痛みを堪え、3位表彰台を獲得した。今週末はアンドレッティ・グリーンにいつもの速さがなく、カナーンも予選でファイアストン・ファスト・シックスに残るのが精一杯。決勝ではクラッシュの影響もあるのか、トップ争いに絡むことが出来ず、フィニッシュまでマシンを運ぶのがやっという感じがした。「今日は出来る限りのことをやったよ。ウォームアップでサスペンションを壊してしまった後、マシンを修復してくれたクルーには感謝している。手首に痛みがあるなかでポディウムに乗れたのは良いことだね。チャンピオンシップでもトップに近づいている」とほっとした様子のカナーン。苦戦のワトキンス・グレンだったが、チャンピオンシップではディクソンとの差を66ポイントに縮めることができた。

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昨年のアイオワ以来となる4位でフィニッシュしたバディ・ライス。17番手スタートながらも、ここ数戦とは比べ物にならないくらい好調で、次々に前を走るマシンを抜いていく。2回目のコーションを前にピット・ストップを行っていたが、もう一度燃料を補給する作戦をとり、すばやい作業で12番手から6番手にジャンプ・アップ。さらにディクソンとブリスコーのアクシデントに乗じて4番手に浮上すると、そのポジションを最後まで守り抜いて、シーズン・ベストの4位を獲得した。「良い結果を残せたよ。チームのみんなにとっても素晴らしい結果だった。予選では小さなミスがあって、僕達の求めていたことがすべてできなかったけれども、速いマシンがあるから前にいけることが分かっていたんだ。ロング・ランではほんとうに良いマシンだったよ」と喜ぶライス。今シーズンはフラストレーションが溜まるレースばかり続いていただけに、ようやく会心のレースとなった。

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活躍が期待されたチャンプ・カー勢は、2番手スタートのジャスティン・ウイルソンがトラブルで早々にリタイアし、5番手スタートのオリオール・セルビアもピット・レーンの速度違反で後退してしまう。そのなかでデイル・コイン・レーシングのブルーノ・ジュンケイラとマリオ・モラエスが健闘を見せ、それぞれキャリア・ベストの6位と7位でフィニッシュ。開幕戦では走ることもままならなかったデイル・コイン・レーシングが、ここまでチーム力をアップしてきたことには驚くばかりだ。6位のジュンケイラは「今日の結果はとても嬉しいよ。二週間後のミド-オハイオが待ちきれないね」と、意気込みを語ってくれた。

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コーション中のスピンというまさかのミスで、ワトキンス・グレン4連覇を逃したスコット・ディクソン。序盤はライアン・ブリスコーと1秒以内の攻防戦を演じ、今年も間違いなく優勝候補だった。だが2番手走行中の49周目、リスタートに向けてタイヤを温めるためにウェービングを行っていたところ、ターン10で突然リアが流れ、そのままスピン。あろうことかブリスコーまで巻き込んでコース上にマシンを止め、この瞬間に4連覇の可能性は絶望的となる。両者は同一周回で復帰するも、結局ディクソンが11位、ブリスコーが12位でレースを終えた。「最悪だよ。ほんとうに馬鹿なことをしてしまった。新しいタイヤだったから、リスタートに向けてタイヤを温めたかったんだけど、すこしアグレッシブになりすぎたね。ブリスコーと彼のチームには、申し訳ないことをしてしまったよ」と落胆するディクソン。両者がコース上で止まった瞬間、ピットで頭を抱えたチップ・ガナッシと、何も言わず呆然と立ち尽くすロジャー・ペンスキーの姿が印象的だった。

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アタック中にイエローが出る不運で、20番手からのスタートを余儀なくされた武藤英紀。後方からの追い上げとなったものの、スタートから1台ずつ確実に順位を上げていく。レース後半に相次いだアクシデントもかいくぐり、54周目のリスタート時には、なんと7番手につけていた。ロード・コースでのキャリア・ベストを目指すべく、前のブルーノ・ジュンケイラを追いかけるが、思うようにペースが上らず、逆にマリオ・モラエスとグラハム・レイホールの先行を許してしまう。さらに後ろからE.J.ヴィソが迫ったものの、これをしのぎきり、9位でフィニッシュ。見事な追い上げを見せた武藤だったが、予選と決勝を含めて課題の残るワトキンス・グレンとなった。

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「7番手までポジションを上げていたので、出来ればそのままでフィニッシュしたかったですね。20番手スタートということを考えても、9位というのはとても良い結果だと思います。ポイントを獲ることは良いことですし、ロード・コースのレースを楽しめました。最後まで諦めずに、できるだけ多くのマシンをパスしようとしていましたね」

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1948年に公道を使ったレースが起源のワトキンス・グレンは、今年でちょうど60周年を迎えた。第二次世界大戦後のアメリカで初めてレースが行われたロード・コースとして知られ、ワトキンス・グレンはアメリカン・ロード・レーシングのメッカと言われている。インディカー・シリーズの開催は2005年からだが、アメリカン・オープン・ホイールという点では、1979年から81年にかけてチャンプ・カーのレースが行われていた。また、それ以前の1961年から20年間にわたって、F1アメリカ・グランプリの舞台にもなっている。今週末はヒストリックGPのレースもあって、訪れたファンは旧型F1マシンと最新インディカーの両方を楽しむとともに、“ザ・グレン”の名で親しまれているコースの60周年を祝った。ちなみに写真のマシンは、名門ペンスキーのF1マシン、ペンスキーPC03。1976年にジョン・ワトソンによってドライブされ、南アフリカGPで5位に入賞している。今日は1990年と97年のインディ500ウイナー、アリー・ルイエンダイクがステアリングを握った。当時トレンドだった背の高いインダクションと、スポーツカー・ノーズが時代を感じさせる。

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今日は朝から快晴となったワトキンス・グレン。昨日とは違い、午前中から気温が高く、レース中は28度まで上昇し、日差しを浴びると日陰に逃げ込みたくなるような暑さとなる。レースがスタートするころになると、雲行きが少し怪しくなるが、その後再び晴れ間が広がり、結局今週末は雨の心配が無用だった。キャンピングカーやグランドスタンドに集まった多くのファンが、観戦日和となったワトキンス・グレンでのレースを満喫していた。