<US-RACING>
8回ものコーションが発生し、リード・チェンジが21回に及んだ大波乱のレースを制したのは、ポール・ポジションのスコット・ディクソンだった。スタートでカストロネベスの先行を許したディクソンだが、昨日ライバルを圧倒したスピードに加え、今日はライバルが勝手に自滅していく運も味方する。ペンスキーの2台はペナルティで後退し、代わって首位を争うマルコ・アンドレッティとライアン・ハンターレイの二人は、レース残り5周で接触してリタイア。安定した速さで常に上位を陣取っていたディクソンが、ベテランらしいレース運びで、今シーズン3勝目を手にした。「優勝したなんて信じられないよ。チームにとって素晴らしい結果になった。最後のコーションは何があったかわからないけど、チャンピオン争いで貴重なポイントになったね。やっとテキサスで優勝できて、ほんとうに嬉しいよ」と大喜びのディクソン。カウボーイ・ハットを被り、勝利の祝砲を打ち鳴らす。チャンピオンシップ獲得に向けて大きな勝利となった。
序盤ディクソンとトップ争いを演じたエリオ・カストロネベス。まさかのピット・レーン速度違反でペナルティをくらい、今シーズン初優勝の希望が一気に遠のいてしまう。一時はラップ・ダウンの屈辱を味わうが、ペンスキーの巧みなピット戦略とカストロネベスのスピードを駆使することで、徐々に順位を上げていった。最後は前を走る若手ドライバーのクラッシュに乗じ、拾いものの2位を獲得。ダメージを最小限にしてレースを終えた。「優勝できるマシンだったからほんとうに悔しいよ。チームのみんなをがっかりさせてしまったね。ペンスキーは信じられない素晴らしい仕事で、僕をリード・ラップに戻してくれた。今日の状況を考えると2位は上出来だよ」と言葉少ないカストロネベス。優勝争い出来るスピードがあっただけに、ペナルティが悔やまれてならない。
カストロネベス以上に浮き沈みが激しいレースとなったライアン・ブリスコー。武藤英紀と3番手を激しく争いながらトップ・グループを形成していたが、最初のピット・ストップで自分のピット位置を間違える大失態を犯してしまう。さらに、焦っていたのかピット・アウトする際に、前のピット・ボックスにおいてあったタイヤを引っ掛け、痛すぎるドライブ・スルー・ペナルティを受けた。しかし、前戦11番手から優勝を飾ったブリスコーは、諦めることなく最後尾から驚異的な挽回を披露する。「マシンがミサイルみたいだった」と語るように、ばっさばっさと前車を料理していくと、ピット・タイミングにも助けられ、103周目にはなんとトップまで上り詰めた。ところが今度はハンターレイをパスする際にフロント・ウイングを痛めてしまい、一気に12番手へ転落する。それでも諦めないブリスコーは、またしても素晴らしい走りを見せ、終わってみればスタート・ポジションと同じ3位をゲット。安定したレースが出来ていれば、優勝もあったかもしれないが、ブリスコーらしい見ごたえのあるレースを見せてくれた。
昨日のプラクティスでマシンが裏返るほどの大クラッシュに見舞われたダン・ウエルドン。足の痛みを堪えながら550キロの長丁場を戦わなくてはいけなかったが、足の怪我を微塵も感じさせない素晴らしい走りを披露した。急ごしらえで用意したバック・アップ・カーも見事な仕上がりをみせ、ウエルドンをアシスト。失意の11番手から、なんと4位まで追い上げてフィニッシュした。「チームのみんなにとってとても良い結果を残せたよ。残念ながらポラロイドのマシンで走れなかったけど、それも過ぎてしまったことだ。セーフティ・チームの働きには感謝している。彼らは今週末とても忙しかったね。今回は少しかみ合わないことが多かったが、これもレースってことだよ」とウエルドン。次戦以降の巻き返しを誓った。
自己ベストの予選4位を獲得した武藤英紀は、スタートで順位を守り抜き、序盤はカストロネベスを先頭にしたトップグループに喰らい付く。47周目には3番手に上る素晴らしい走りを見せ、日本人が待ちわびた初優勝を期待させた。ところが、路面コンディションの変化でマシン・バランスが狂い徐々に後退。98周目のピット・ストップで一時は18番手まで転落してしまう。早めのピット・ストップで順位を挽回し、終盤は燃費作戦で上位を狙うものの、ベルノルディの単独スピンによるコーションに阻まれ、作戦は水の泡になってしまった。最後のクラッシュを切り抜け、自己ベスト・タイの6位でフィニッシュするが、さらに上位を狙っていた武藤の表情には悔しさがにじんでいた。
「トップ5に入れたらもっと良かったですね。イエローが出なければ、トップ3になれたと思いますけど、コーションが発生して燃料をセーブした意味がなくなってしまいました。少しフラストレーションが溜まるレースでしたね。今週末は沢山のことを学べましたし、もっとトラフィックの中で扱いやすいマシンを仕上げたいです。何度も6位になっているので、もうこの順位はいらないですよ」
インディ500で2位となったヴィットール・メイラは、このテキサスでもレース終盤にトップへ躍り出た。ピット戦略を変えることで169周目にトップに立つと、そこから2番手以下を突き放していく。一度でもコーションが出れば、優勝という二文字がぐっと近づくが、序盤の60周で5回も出たコーションは100周を越えてから1度しか出ていなかった。コーションを待ちわびながらトップをひた走るメイラの燃料も、206周目に限界が訪れ、敢えなくピット・インを強いられる。しかし、無情にもその7周後にベルノルディがスピンを喫し、フル・コース・コーションが発生。メイラは為す術なくワンラップ・ダウンの7位でレースを終えた。またしても不運に泣いたメイラの優勝は、まだまだ遠そうだ。
最初のピット・ストップでタイヤ交換をせず、7番手から一気に3番手へ躍進したライアン・ハンター-レイ。今日の走りはいつも以上にさえわたり、レース終盤まで優勝争いを演じる驚きのパフォーマンスを発揮した。しかし残り5周で2番手のアンドレッティを攻略すべくインサイドに飛び込むと、スペースをふさがれてしまい、バランスを崩してアンドレッティもろともターン4のウォールに激突してしまう。両者とも無事にマシンを降りたが、ハンター-レイは優勝争いから一転、悪夢のような結末を迎えることになった。「バックストレートでマルコがインを開けたので、そのままパスしようとしたら、いきなりインを閉めてきたんだ。接触を避けようとさらにイン側に寄ったけど、ホワイト・ラインに乗ってしまってバランスを崩した。ロードコースではありがちだけど、こんなスーパー・スピードウェイではありえないよ」と憤慨するハンター-レイ。めぐってきたチャンスをものに出来ず、悔しさも一入のようだった。
決勝日も晴れ渡ったテキサス。日中は蒸し暑さに見舞われたが、レース・スタートを迎えた午後8時34分には太陽も沈み、気温も少しばかり下がった。初日から続く強い風も3日間の中で一番弱まったものの、相変わらず強い風が吹きつける。例年と変わらず、多くのファンが観戦に訪れ、ハイ・スピード・オーバルで繰り広げられた激しいレースを、心行くまで楽しんでいった。