<US-RACING>
ポール・ポジションから見事にインディ500初制覇を成し遂げたスコット・ディクソン。しかしその道のりは決して平坦ではなく、さまざまなライバルを相手に戦わなくてはいけなかった。序盤はチームメイトのダン・ウエルドンと壮絶なドッグ・ファイトを繰り広げ、中盤ではアンドレッティ・グリーン・レーシングのトニー・カナーンとマルコ・アンドレッティにリードを奪われてしまう。そのたびにコース上とピット・ストップで順位を取り戻し、力強いレース運びを見せたディクソン。160周目にヴィットール・メイラのリードを許すものの、171周目に行った最後のピット・ストップで逆転を決め、そのままトップ・チャッカーを受けた。大観衆の祝福を受けながらヴィクトリー・サークルに戻ると、勝利のミルクを飲み干す。2003年のシリーズ・タイトル獲得以来、待ち望んだビッグ・レースでの勝利をついに達成し、ニュージーランド人として初めて92回の歴史を誇る伝統のレースを制した。
「なんて一日なんだ。ほんとうに信じられないよ。たぶんみんなは僕のレース運びが間違った方向に進んでいると思ったかもしれない。でも僕たちは良いマシンを持っていたから、出来るだけポジションをキープして、リスタートではライバルの前にいることを常に心がけていたんだ。イエローがとても多くて、リスタートのときトップにいるのは格好の標的になってしまう。リズムがとてもとりづらいレースだったが、チームはほんとうに素晴らしい仕事をしてくれたんだ」
伝統のインディ500で復活を遂げたパンサー・レーシングとヴィットール・メイラ。今シーズンは昨年の2台から1台体制に削減されたが、逆にチーム力は上り、シーズン前にも「パンサーは1台だと調子が良いね」と、メイラが手ごたえを語っていた。その言葉通り、8番手スタートのメイラにチャンスが訪れたのは160周目。3番手から先を行くディクソンとカーペンターの間に出来たわずかな隙間を抜け出て、ホームストレート上で一気に2台をかわす離れ業を披露すると、そのまま12周にわたってトップを快走した。残念ながら最後のピット・ストップでディクソンの逆転を許し、念願の初優勝はお預けとなってしまったものの、パンサー・レーシングとヴィットール・メイラが、今後ビッグ3の強敵となりそうだ。「誰も僕がトップを走ることなんて予想していなかったんじゃないかな。でも僕とチームは信じていたよ。僕達はほんとうにしっかりマシンを準備していたし、全てが計画に基づいていた。僕達は2位でフィニッシュしたけど、苦しかった昨年や今年の序盤を考えれば、とても良い結果なんだ。パンサー・レーシングは復活した。今にビッグ3より速くなって見せるよ」と喜ぶメイラ。万年2位男の汚名返上は近いのかも!?
3位に入ったマルコ・アンドレッティは、ルーキー・イヤーの2006年を思い起こさせるような快走を見せた。予選は7番手とやや期待はずれではあったものの、レース・スタートから徐々に調子を上げ、122周目にディクソンを豪快にパス。一躍トップに躍り出ると、大歓声が巻き起こる。だが156周目のピット・ストップで出遅れ、4番に後退すると2度のインディ500覇者エリオ・カストロネベス攻略に苦しみ、思い通りのレースが出来ない。ようやく190周目にカストロネベスを出し抜くが、上位2台を追い詰めるまでにはいたらず、3位でフィニッシュした。「チームとしては素晴らしい仕事をしたと思うよ。僕達のマシンは一ヶ月を通してライバル達の目標となる仕上がりだった。僕たちが何をするかというのはチームの決定だけど、それを遂行できず、台無しにしてしまった。3位になってポイントも取れたから、次を頑張るよ」とアンドレッティ。2勝目の壁を今回も越えることが出来なかった。
ルーキー勢最上位の9番グリッド獲得した武藤英紀は、スタートを無難に決め、ポジションをキープする。ところが10周目にコーションを利用したこの日最初のピット・ストップでまさかのエンジンストール。一気にカーナンバーと同じ27番手まで転落した。ここから周回ごとに順位を取り戻す鬼神の走りを見せ、最終ピット・ストップを終えた171周目の時点で10番手まで挽回する。さらに176周目のリスタートで5番手までジャンプ・アップ。印象的な走りを披露し続ける今日の武藤だったが、その走りとは裏腹にマシン・バランスが厳しく、フィニッシュまでの残り周回は、守りの走りが精一杯だった。それでも、こらえきれず2台のパスを許し、結局7位。初挑戦のインディ500で7位となったものの、武藤の表情からは悔しさがにじみ出ていた。
「レースを終えて一番最初に出てくる言葉は、長かったということです。ピット・ストップは自分のミスで順位を落とし、そこから何とか順位を上げていきました。ピット・インのたびにマシンの微調整をしていたのですが、その調整が良い方向に行かなかったですね。最後のスティントでもっと上の順位にいることを期待していました。最後のリスタートで5番手まで上がって前のマシンを抜いていこうと思いましたけど、スピードが足りず逆に後ろからの追い上げを受けて抜かれてしまったので、課題も残りました。最後のスティントで多くの時間があればよかったです。この1ヶ月で自分のドライビング・スキルもあがったと思うので、次のミルウォーキーから頑張ります」
2005年のルーキー・イヤーにインディ500でトップを快走し、全米中にその名をとどろかせたダニカ・パトリック。先月のインディ・ジャパンでの優勝は、彼女の人気をさらに高め、コース内はもちろんのこと、コース周辺の民家にまで「Go! Danica」というロゴと彼女の全身写真が描かれた横断幕を掲げていた。インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)のギフト・ショップに置かれたダニカ関連の帽子、Tシャツやミニカーは、店員が逐一補充しなくてはいけないほどの売れ行き。ドライバー紹介でパトリックの名前がコールされたときの歓声は、どのドライバーよりも大きかった気がする。そのようなファンの期待に応えるべく、また自身の目標とするインディ500制覇を目指した今年のレースだったが、171周目にピット・レーン上でライアン・ブリスコーから予想外の接触を受け、リタイアを余儀なくされた。マシンを降りたパトリックは、怒りをあらわにしてブリスコーのピットに向かおうとしたが、セキュリティが制止してその場をおさめ、パトリックはしぶしぶ自分のピットへ引き返す。しかし怒りは収まることはなく、彼女がどれだけこのレースに賭けていたかを改めて感じさせた。
スタート前のセレモニーでは、9月14日にIMSで行われる2輪レース最高峰MotoGPの開催に先立ち、2006年のワールド・チャンピオンでアメリカ人のニッキー・ヘイデンによるデモンストレーション・ラップが行われた。IMSは開業当初の1909年以来バイクによるレースが行われておらず、なんと約100年ぶりにバイク・レースが行われることになる。4月7日にMotoGP用に改修されたロード・コースを走ったヘイデンだが、今日は2.5マイルのオーバルを走行。インディ500に訪れた観客は、現役のMotoGPマシンがオーバルを走る貴重な瞬間を目撃することになった。
雨に祟られ続けた今年のインディ500だが、昨年と違うのは決勝日が快晴となったこと。今年で92回目を迎えた伝統のレースは、3時間28分57秒6792をかけて無事500マイルを走りきることが出来た。気温は26度まで上り、ビールを片手に観戦するにはもってこいの陽気となる。シーズン直前に突然決まったインディカーとチャンプ・カーの合併、第2戦のグラハム・レイホールによる史上最年少優勝や、記憶に新しいインディ・ジャパンでのダニカ・パトリックによる史上初の女性ウイナー登場など、今シーズンのインディカーは開幕からポジティブな話題が豊富だった。そのおかげもあってか、IMSに訪れた観客は昨年と比べて見るからに増え、40万大観衆の地鳴りのような歓声がコース中にとどろいていた。