<US-RACING>
ダリオ・フランキッティが最終ラップで劇的な逆転勝利を収め、シリーズ・チャンピオンの栄冠を勝ち取った。インディ500に続き、勝利の女神はまたしても最後の最後でフランキッティに微笑んだ。チャンピオンを決する運命の一戦を最良のポール・ポジションからスタートしたフランキッティ。だが、この日のマシン・パフォーマンスは決してベストではなく、レース中盤までトップ3圏外での苦しい戦いを強いられていた。そんななか、ヴィットール・メイラの単独クラッシュによる2回目のコーションが200周レースの137周目に発生。残りの周回数を考えるとフィニッシュまで燃料が持つかどうか微妙なタイミングとなり、レース終盤は燃費勝負の神経戦へと変っていく。フィニッシュが近づくにつれ、ペンスキーの二人、ダニカ・パトリック、ダン・ウエルドンと次々にライバルが脱落し、最後に残ったのはなんとタイトルを争うディクソンとフランキッティの2台。レース終盤に二人の直接対決が実現し、会場のボルテージは最高潮となる。そしてファイナル・ラップ、トップのディクソンがバック・ストレッチで素晴らしい加速を見せ、誰もがディクソンの勝利を確信した瞬間に突然の失速。フランキッティは接触しそうになりながらもその脇をすり抜け、空高くこぶしを振り上げながらフィニッシュ・ラインを通過した。燃費勝負となったレース終盤で、ドラフティングを有効に活用したフランキッティに一日の長があり、誰も予想しなかった逆転劇を誘い出すことになったが、フランキッティもフィニッシュ直後に燃料が尽きてしまい、かなり綱渡りのレースとなった。
「カナディアン・クラブ・チームとアンドレッティ・グリーンみんなのおかげだよ。彼らは世界一のチームだね。実はレースのほとんどがただ走っているだけで、前のマシンがサイド・バイ・サイドで走ってしまうと、パスできなかった。終盤、マシンのハンドリングが結構良い感じになっても、パスするのは難しかったよ。そんなとき何台かピットに入って、ダンもガス欠になり、僕とスコットが残った。バック・ストレートでドラフティングを使って追い越そうと横へ出たときに、彼がいきなりスピードを落とすのが見えて、追突しそうになりながら抜いたんだ。燃料を上手くセーブできるすばらしい作戦だったよ」と喜びを爆発させるフランキッティ。初めて勝ち取ったアメリカン・オープン・ホイール最高峰のタイトルをかみ締めるように、ガッツ・ポーズを決めた。
初めてタイトル争いを演じたCART時代の1999年は今シーズン同様、最終戦までもつれ込んだ。そのときはエア・ジャッキのトラブルからレースを落とした末、ファン・パブロ・モントーヤとは同ポイントで並びながらも、勝利数の差からチャンピオンを逸してしまった。あれから8年。今日はすべてがフランキッティの見方をし、導かれるようにして初タイトルへ突き進んだ。
2度目のチャンピオンをあと数百メートルのところで逃したスコット・ディクソン。チャンピオンとなったフランキッティとは対照的に、序盤からペンスキー勢と激しいトップ争いを演じていた。最後のピット・ストップをフランキッティと同じタイミングで済ましたことで、フィニッシュまで走りきれるかと思われたが、無常にも最終ラップのターン3でガス欠。力を失ったマシンはフランキッティのパスを許した後、惰性でフィニッシュ・ラインを通過し、コース脇に止まってしまった。「燃費が悪くなるから、今日は誰もレースをリードしたくなかったはずだよ。ダリオのマシンは誰よりも良い燃費で走っていた気がするね。最後のピット・ストップは一緒に入り、燃料の量が同じだったはずだけど、彼がドラフティングで燃料をセーブする一方、僕らはより多くの燃料を使ってしまったんだ。だから、リスタートのときにフィニッシュまで持つかどうか微妙なのはわかっていたよ。ダンにリードを譲り、引っ張ってもらおうとしたけど、彼はトラブルを抱えていた。ペンスキーの二人にもリードしてもらおうと思ったけど、そのうち誰もリーダーがいなくなって、僕がレースをリードせざるを得なくなったんだ」とレースを振り返るディクソン。今シーズン抜群の安定感でタイトルを争ったディクソン最大の賭けは、一番大事なところで外れてしまった。
最多リードラップを獲ったサム・ホーニッシュJr.は燃費勝負に敗れ、3位に終わった。1周目で早々とポールのフランキッティをかわし、チームメイトのエリオ・カストロネベスとともにレース序盤を支配していたホーニッシュJr.。だが、スピードにアドバンテージがある分、燃料の消耗は激しく、常にライバルより先にピット・インすることを余儀なくされる。2回目のコーションが解除され、燃費勝負となったレース後半でも、いち早くピットへ飛び込むことになり、コースへ復帰したときはすでに周回遅れになっていた。運悪く最後のコーションが発生したことで挽回する余地もなく、昨年のチャンピオンはたった1勝だけで今シーズンを終えることになった。「優勝できなくてほんとうにがっかりだよ。20回目の優勝を狙っていたんだ。確実に僕たちのマシンが一番速かったけど、あのような展開になったのは残念だったね。レースをリードするドライバーが燃料をあまりセーブできないのは、しょうがないことなんだ。エリオと僕には最も速いマシンがあったのに、シーズン最後のレースで勝てなかったのは悔しいね」と肩を落とすホーニッシュJr.。このところNASCARへの移籍が取りざたされているが、このままオープン・ホイールのキャリアを終えてしまうのだろうか。ファンとしては来シーズンもペンスキーのマシンに乗り、リベンジを果たす姿が見たいところだろう。
7位でフィニッシュしたライアン・ハンター-レイは、今シーズン3回目のトップ10入りを果たし、2007年のルーキー・オブ・ザ・イヤーを確定させた。ジェフ・シモンズの代役としてたった6戦の参戦に留まったが、急遽参戦が決まったミド-オハイオでいきなりトップ10フィニッシュを果たし、デトロイトではペンスキー、ガナッシ、AGRの3強の牙城を崩して予選5位につけるなど、随所で印象的な走りを見せてくれた。有望なルーキーが少ないなかでのルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞とはいえ、過去の受賞者と比べても引けを取らない活躍だったといえる。「シーズンの終わりに7位になれたのは手堅い結果だね。ルーキー・オブ・ザ・イヤーの賞は僕にとってそれほど名誉あるものではないことはわかっているけど、それ以上にこのシーズンに僕たちが成し遂げたことを象徴するものになったよ」と話すハンター-レイ。来シーズンも彼の走りが見られることを期待している。
今日、最初のコーションの原因を作ったマルコ・アンドレッティ。6位走行中の35周目にターン4で突如としてバランスを乱し、そのままSAFERバリアにぶち当たった。幸いアンドレッティに怪我はなかったが、浮き沈みの激しかった今シーズンを象徴するようなクラッシュ・シーンとなった。2年目のシーズンはオーバル・コースで成長を見せる一方、クラッシュが多く、時にはマシンが横転する大クラッシュなど、安定感を欠いていた。結局、優勝は一度もなくシーズンが終了を迎えたが、3年目に大きな飛躍を誓う。
予選7番手スタートからレース終盤に3番手までポジションを上げ、トップ争いに加わったダニカ・パトリック。ホーニッシュJr.とディクソン相手に果敢にもアウトサイドから攻め立てていくが、159周目に周回遅れの処理つまずき、一瞬にして6番手まで順位を落としてしまう。さらにこれでリズムを崩したのか、最後の燃料補給へ向かうピット・レーンの入り口では痛恨のスピン。ピット・クルーがあわてて駆け寄り、なんとか再スタートをきったものの、フィニッシュしたときには2周遅れの11位になっていた。スピードはすでにトップ・クラスの領域に達している彼女にも、まだまだ荒削りな部分が見え隠れする。チームメイトのマルコ・アンドレッティと同様、安定感に欠ける2007年シーズンだったが、来年にかける期待は大きい。
苦難続きのシーズンを送った松浦孝亮は、最終戦でもトラブルに見舞われ、リタイアに終わった。スタートでは幸先良く2つポジションをあげるも、直後にウエイト・ジャッカーが壊れてしまい、レース序盤からアンダーステアに苦しめられる。マシン・バランスが悪い中でも粘り強く走る松浦は一時13番手まで順位を上げるが、今度はバッテリーのトラブルに見舞われピット・イン。チームは懸命の作業でバッテリーを交換し、松浦を再びコースへ送り出した。この気持ちに応えようと松浦も満身創痍のマシンを走らせ続けたものの、結局トラブルは解消されず、156周目にレースを終える苦汁の決断を下した。「今シーズンは山あり谷ありでしたね、開幕からクラッシュに巻き込まれ、多くのレースを落としてしまいました。7月くらいからやっと普通にレースができるようになり、8月になるとトップ5に入るレースもありました。良いか悪いかのどっちかというレースが多かったんですけど、自分としてはほんとうに精一杯やってきましたし、今日も自分の中では精一杯でした。この1年を通して悔いはないです」と語る松浦。1年を通して付きまとった悪い流れを最後まで払拭できなかったが、熱い走りによって新ジョイントのチームでもしっかり信頼関係を築き上げてみせた。
IRLのデビュー・レースを迎えた武藤英紀は、いきなり8位に入ったほか、ファステスト・ラップまで記録する印象的な走りを見せた。スタートはことのほか慎重になりすぎたため、スタート・ポジションの13番手から3つ順位を落としてしまうが、昨日の予選後にマシンのバランスが良いと語った通り、徐々に順位を上げ、途中、ライアン・ハンター-レイと激しいバトルを演じる。デビュー・レースゆえに慎重になりすぎる場面が多かったという武藤。ピット・ストップやリスタートで順位を落としながらも、IPSで見せた力強い走りはIRLでも健在しており、すぐに挽回してみせる。最後はピット・ストップの関係からラップ・ダウンとなりながらも、トップ集団に喰らいついてファステスト・ラップまで記録し、デビュー戦を堂々のトップ10フィニッシュで飾った。「レース序盤は半信半疑な部分があって、思い切って攻めることができず、前のマシンを抜くのに時間が掛かりました。色々な部分でロスの多いレースだったと思いますが、先頭集団の後ろで一緒に走れたのはすごく勉強になりましたし、ファステスト・ラップを記録できたのも自信に繋がりました。最終ラップで順位を上げられたのも、チームにとって良いレースになったのではないかと思います」とレースを振り返る武藤。たった1戦のチャンスを活かし、大きなアピールとなる走りを見せた。
今日も朝から快晴のシカゴランド・スピードウエイ。レース中の最高気温は27度に達し、夏の名残を感じさせる陽気となった。シリーズ最終戦と言うこともあって、グランド・スタンドが8割ほど埋まり、訪れた観客はチャンピオン争いの劇的な結末を目の当たりにした。今日ですべてのスケジュールを消化したIRLは、長い長いオフシーズンを迎える。ドライバーやチームはそれぞれ思い思いに束の間の休息を楽しみ、ファンは来シーズンいったいどんなストーリーが用意されているのかに思いを馳せ、2008年シーズンの開幕戦を待つことになるだろう。