<US-RACING>
計6回ものコーションが発生し、同一周回に生き残ったのはたった4台という大荒れのレースは、トニー・カナーンの今シーズン5勝目で幕を閉じた。レース前半はライバルの後を追う展開ばかりのカナーンだが、2回目のピット・ストップからわずか7周後に発生したコーション中にピット・インしたことで、優勝をぐっと引き寄せる。このピット・ストップでいったん7番手まで順位を落としたものの、68周目に上位陣がピットへなだれ込んだ隙に、トップへ大躍進。この日初めてのリード・ラップを獲ると、そのままフィニッシュまで駆け抜けた。「タフなレースだったよ。スタートは上手く決まったね。ダリオの前にいた時点では燃料をあまり積んでいなかったから、セーブする必要があったんだ。ちょうど良いタイミングでイエローが出たのはラッキーだったよ。今シーズン、ついていないことが多かったから、シーズン終盤でツキが周ってきたようだね」と大喜びのカナーン。次戦のシカゴランドでダン・ウエルドンが持つシーズン最多勝記録に挑戦することを宣言した。
接触のアクシデントをかいくぐり、キャリア・ベストの2位表彰台を獲得したダニカ・パトリック。セント・ピーターズバーグ同様、このようなストリート・コースではなかなか一貫したスピードを保てずにいたパトリックは、11番手からスタートする。比較的アクシデントに巻き込まれやすい中段に位置していたことで、案の定32周目に前方起こったアクシデントを避けようとしたところに、ダレン・マニングが突っ込んできた。幸運にもマシンは壁ぎりぎりで止まり、エンジンも止めていなかったため、無傷のままリスタート。振り出しとなる11番手まで落とした順位はピット戦略で取り返し、57周目から7周に渡って先頭を走るまでの力走を見せた。最終ピット・ストップを終えた後は5番手を走行していたが、残り2周で熾烈な2位争いをしていたバディ・ライスとスコット・ディクソンが、チームメイトのダリオ・フランキッティを巻き込んでクラッシュ。目の前で起きたこのアクシデントを、今度は間一髪避け、最後の最後にキャリア・ベストの2位を掴み取った。「楽しい一日だったわ。今日、一番速いマシンではなかったけど、十分トップ・レベルで戦えていた。チームは最高の仕事をし、正確な戦略で正しい位置に私を送り出してくれたのよ。今日はトラック・ポジションがとても重要だったから、ほんとうに彼らは良くやってくれた。不運なこともあったけど、最後に運が巡ってきて2位でフィニッシュできたわ」とレースを振り返るパトリック。ここ数レースの活躍で、優勝に対する周囲の期待はますます高まりを見せている。
ダン・ウエルドンはなんと16番手スタートから3位表彰台を手に入れるに至った。チームメイトであるスコット・ディクソンの活躍の一方で、後半戦はなかなか上位進出もままならなかったウエルドン。今日も後方からのスタートだったため、チームは上位陣とはまったく異なる戦略をとることで上位進出を狙い、4回目のピット・ストップを終えたときには7番手まで躍進する。今日起きたアクシデントのほとんどが彼の前で起こっていたにも関わらず、一切トラブルに巻き込まれることがなかったことも大きな飛躍の手助けとなった。そして、残り2周で発生したマルチ・アクシデントも難なくかいくぐり、7戦ぶりに3位でフィニッシュした。「ファンにとって今日のレースは凄く面白かったと思うよ。みんなずっと楽しんでいたはずさ。トップ3に入れたことはチームにとって良いことだね。スコットが残念な結果に終わってしまったけど、チャンピオンシップを獲るにはまだ良い位置にいる。あとは必要なことをやるだけだよ」と話すウエルドン。この3位は復活のサインとなるだろうか。
サバイバル・レースを生き残り、今シーズン2回目のトップ5フィニッシュを果たした松浦孝亮。今週末は原因不明のスロー・ペースに悩まされながらレースをスタートすることになったが、周遅れとなりながらも粘り強くコース上に留まったことで、最後に幸運が舞い込んだ。「今日のレースはサバイバル・ゲームになると分かっていたので、トラブルに巻き込まれないよう、安定した走りをすれば良いと思っていました。予想通りの展開になりましたね。レースの終盤、僕のマシンは決して良い状態ではありませんでしたが、頭を使ってコースに留まり続けました」と語る松浦。この勢いに乗って、最終戦のシカゴランドを戦って欲しい。
先週はチームメイトのダリオ・フランキッティと接触し、今シーズン初勝利を棒に振ったマルコ・アンドレッティ。リベンジを誓った今週末は予選でトップ6に入るも、決勝はメカニカル・トラブルによって、わずか27周であっけなくリタイアしてしまった。「もうこんな週末が何度もあって、チームのみんなにとって凄く悔しい結果だよ。残念ながら今年は上手くいかない年みたいだね。マシン自体は悪くなかったけど、スタートしてすぐにケーブルがおかしくなった。一日中戦っていたんだ。楽しくはなかったね」と落胆するアンドレッティ。2年目のシーズンはオーバルで大きな成長を見せたが、クラッシュやトラブルが頻発し、トップ10圏外が10レースもある厳しいシーズンになっている。一方、昨日の予選で初のトップ6に入りを果たしたライアン・ハンター-レイも、序盤は3強に喰らいつく走りを見せていたが、20周目に戦列を去った。
クラッシュ・ショーは32周目に幕を明けた。エド・カーペンターの単独スピンによる最初のコーションが解除された直後に、サラ・フィッシャーとサム・ホーニッシュJr.が接触。コースを塞ぐようにスピンするフィッシャーのマシンを避けようと、スピードを落としたダニカ・パトリックは、ダレン・マニングの追突を受け、1コーナーのインサイドへ弾き飛ばされてしまう。さらにこの2台をかわそうとしたヴィットール・メイラが、目測を誤り、タイヤ・バリアの前で勢いを失ったサラ・フィッシャーのマシン目掛け、一直線に突っ込んだ。合計4台が絡むアクシデントとなった16周後、復帰したパトリックとスコット・シャープがターン8で接触し、シャープはそのままリタイアに追い込まれる。さらに68周目、5番手のカストロネベスが前を走るトーマス・シェクターに追突し、けたたましいタイヤのスキール音とともに、両者はタイヤ・バリアの餌食となった。そして、この日最後のアクシデントは、残り2周で起きた2位を争うバディ・ライス、スコット・ディクソン、ダリオ・フランキッティの3台による接触。これによって2位以下のレース結果が大きく変り、先週のインフィネオンに続き、2週連続でアクシデントがドラマチックなレースの結末を演出した。
タイトル争いを繰り広げるスコット・ディクソンとダリオ・フランキッティは、両者接触に終わり、チャンピオン決定は最終戦に持ち越されることになった。レース序盤をリードしていたフランキッティを、ピット戦略で攻略したディクソンは、3位をキープしたままフィニッシュを目指していた。ところが残り2周となった時、前を走るバディ・ライスがガス欠で大きくペースを落としたため、ターン13でライスのインサイドに飛び込んだものの、思っていたよりもスペースが空いておらず、軽く接触。ライスはタイヤ・バリアに弾き飛ばされ、一方のディクソンもそのまま走り続けようとしたが、スピンを喫してフランキッティを巻き込むようにウォールへ張りついた。ディクソンは完全にエンジンを止めていたものの、フランキッティはセーフティ・クルーの力を借りてフィニッシュ・ラインまでマシンを運び、1周遅れの6位でフィニッシュ。ディクソンを3ポイントだけ逆転し、ポイント・リーダーとして最終戦に臨むことになった。
ピット戦略を駆使して終盤2番手を走行していたバディ・ライス。スコット・ディクソン、ダリオ・フランキッティなどを従えて快走を見せるが、燃費が厳しくなりペースダウンを余儀なくされる。残り2周となったときは完全にガス欠状態となって失速し、マルチ・アクシデントの引き金を引いてしまった。「チャンピオン争いに影響を与えてしまったことをとても後悔しているよ。スコットとダリオが一生懸命バトルしていたのに、僕のガス欠のせいで彼らを止めることになってしまった。これはすべての人にとって残念なことだね。タイム式のレースだと思っていたら、考えていた時間より延びてしまい、燃料が足りなくなった。ガス欠になったらどこかに避けることさえとても難しかったよ。僕はダリオやマイク・ハル、ガナッシ監督に謝りに行ったけど、彼らが理解してくれたから安心したね」と申し訳なさそうに話すライス。彼自身はとても後悔しているようだが、このアクシデントによって、最終戦でのタイトル争いがより白熱したものになることは間違いない。
三日間とも快晴に恵まれたデトロイト。最高気温は27度に達し、少しばかり高い湿度のおかげで、歩くと汗がにじむほどの陽気となる。決勝日は6年ぶりのオープン・ホイール復活を待ち望んでいたファンが大挙し、用意された3万席の仮設スタンドがほぼ満席だった。レースも訪れたファンの期待を裏切らないスリリングな展開となり、盛況のうちに3日間のイベントは幕を閉じた。ベル・アイルでのレース復活に寄与したロジャー・ペンスキーを始めとする関係者の努力は、最高の形で報われた。