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インディ・カー・シリーズ 第5戦 インディ500[決勝日]フォト&レポート

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11回ものコーションが発生し、雨による3時間近くの中断で166周に短縮される波乱のレースを制したのは、ダリオ・フランキッティだった。この日3番手からスタートを切ったフランキッティは、ハイペースで走るトップ・グループをピッタリとマークし、74周目にトップへ躍進。雨による中断後は破片を踏んでタイヤをカットし、予定外のピット・ストップで後退を余儀なくされたが、最終的にこのアクシデントが幸運をもたらすことになる。フランキッティはイレギュラーなこのピットの祭に燃料も補給し、その後上位勢がピットしなければならない中で、コースに留まることができた。そして155目に再びトップへと浮上し、ここでレースを決定づけた2度目の雨が降り出したのである。結局レースは166周に短縮され、34歳のベテランがそのままインディ500初優勝を手にした。「信じられないよ。誰がこの結果を予想できたと思う? チームのみんなや僕たちを支えてくれたすべての人に感謝しているよ。インディ500で勝てたなんて、ほんとうに信じられないね」と目に涙をにじませて喜びを表現するフランキッティ。奥さんのハリウッド女優であるアシュレイ・ジャッドと熱いキスをかわし、優勝のミルクを飲み干す。66人目の勝者となったフランキッティ。スコットランド人としては1965年のジム・クラーク以来、二人目の優勝だ。

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2位に滑り込んだのは、チップ・ガナッシのスコット・ディクソン。トップ5の速さを持ちながら、序盤から大荒れとなったレース展開に翻弄され、チップ・ガナッシ勢の2台は精彩を欠いていた。クラッシュに終わったウエルドンに対し、ディクソンは堅実な走りで様々なワナをかいくぐり、最後は天候に助けられて2位を手にすることができた。「不思議な一日だったね。いくつか良い点はあったけど、雨によってコース上のタイヤ・ラバーが流れたおかげで、グリップがなくなってしまった。トラフィックでのマシン状況もほんとうに悪かったよ。たぶん今までにないくらい悪いレースだったんじゃないかな。まったくリズムに乗れなかったんだ」とレースを振り返るディクソン。記者会見の席上では複雑な表情を浮かべていたが、2位となったことで、3戦ぶりにポイント・リーダーへと復帰することができた。

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ポール・ポジション・スタートのカストロネベスは、3位に入った。序盤、カナーンと激しいトップ争いを演じたカストロネベスだったが、2度目のピット・ストップ時に燃料が補給されないトラブルに見舞われ、最後尾に後退。ここから怒涛の追い上げを始め、次々にオーバーテイクを繰り返す。加えてカーブ・デイのピット・ストップ・コンペティションで優勝した、インディカー随一のクルーによるピット作業により、順位を上げることに成功。最終的に3位まで挽回してフィニッシュした。「かなり我慢する必要があったよ。僕に限らずチームのみんなにとってもね。でも僕たちは順位を取り戻すことができた。我慢強くパスを決め、とても良いポジションでフィニッシュしたんだ」と話すカストロネベス。優勝は逃したものの、納得のいくレースだったのか、その表情は晴れやかだった。

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91回目の決勝日は、朝から厚い雲に覆われていたインディアナポリス。天気予報どおり午前7時から雨が降り出し、一時、豪雨に見舞われた。しかし午前10時になると雨は上がり、次第に空が明るくなり始める。依然コース上空を厚い雲が覆っていたものの、午前11時15分からのレース・セレモニーが開始されると、コース上空の雲は切れ、日が射して青空も見えた。心配されたコース状況は、セーフティ・クルーが懸命の努力で路面を乾かし、レース開始時間までに間に合わせた。地元アメリカン・フットボール・チームのインディアナポリス・コルツに所属し、2007年のNHLスーパーボールMVPであるペイトン・マニングのグリーン・フラッグによって、レースは観客総立ちのなか予定通りスタート。ポール・ポジションのカストロネベスがホールショットを奪い、ターン1に飛び込んでいく。レースはこのまま晴天の下で続くと思ったが・・・

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レース前半のハイライトは、ポールのカストロネベスと、2番手スタートのカナーンによるドッグファイト。抜群のスタートを決めたカストロネベスだったが、1周目のホームストレートでカナーンのパスを許す。いったん後退したカストロネベスは、カナーンの隙を突いてインサイドに飛び込み、3周目にトップを奪い返した。再び2番手となったカナーンだが、かわされた直後の4周目のバックストレートで、またもやカストロネベスを抜き去ってトップへ躍進。スタートを見届けた観衆は、総立ちのまま、息を呑むバトルに釘付けとなっていた。

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ルーキーのフィル・ギブラーの単独クラッシュによるコーション中の114周目、コースを覆っていた雲から再び激しい雨が降り出し、雨は瞬く間に路面をぬらしていった。トップのカナーンを先頭に、赤旗で全車がピット・ロードへ緊急避難を強いられ、午後3時2分にレースは中断。出迎えたチーム・クルーはマシンへカバーをかけ、雨をしのぐことになった。約1時間後に雨はやみ、セーフティ・チームによる必死の路面乾燥作業が行われ、午後5時59分にレースが再開される。ところが午後6時55分、マルコ・アンドレッティのクラッシュによるコーション中の166周目に、今度は雷鳴とともに前が見えないほどの雨が降り出し、ここでレースは終了。フランキッティが激しい雨に打たれながらチェッカー・フラッグを受けた。雨によってレースが短縮されたのは2004年以来、史上7度目のこと。今年の5月は天候に恵まれていたインディアナポリスだったが、最後を飾るレース・デイは、天気に見放される形となった。

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フリー・プラクティスでのクラッシュに続き、決勝でもインディ500の洗礼を浴びたミルカ・デュノ。前を走るデイビー・ハミルトンを追走していたデュノは、66周目のターン1でバランスを崩してしまう。コントロール不能に陥ったマシンはそのままウォールに激突。幸いデュノに怪我はなかったが、初挑戦のインディ500は悔しい結果に終わった。ルーキーのデュノをはじめ、11回中6回のコーションが単独クラッシュによるもので、経験の浅いドライバーやブランクの長かったドライバーが次々とウォールの餌食となる。そしてこの日最後のコーションは、マルコ・アンドレッティを発端に4台が絡む大クラッシュへと発展。ウォールに当たったアンドレッティのマシンが裏返しとなり、コース全体が一瞬静まり返ったが、アンドレッティの無事が確認されると、スタンド席からは歓声が上がった。

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166周中88周をリードしながら優勝を逃したカナーン。ファステストラップを記録するなど、この日最も力強いパフォーマンスを発揮していたカナーンだったが、156周目のリスタートでタイミングを読み違い、ジャック・ラジアーと接触してしまう。致命的なダメージは避けられたものの、タイヤをバーストさせてタイムロス。結局このアクシデントが響き、カナーンは12位に沈んだ。一方、そのチームオーナーであるマイケル・アンドッレティは今回もレースをリードし、インディ500におけるトップ周回数の記録を431周にまで伸ばしたが、作戦がうまくいかずにカナーンに続く13位。チームはうれしい2勝目を挙げるも、アンドレッティ家のジンクスは今回も続くことになった。マイケルにとって16回目のインディ500、今年を最後にすると本人は言うが・・・。

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16位でレースを終えた松浦孝亮。チーム内の連絡ミスから、望んでいたものとは異なるセットアップとなり、スピードを上げることができなかった。「今年で4回目のインディ500挑戦ですが、天候不順でいつもと違うコンディションのレースになりました。17番手スタートと言うことで、少し多めにダウンフォースをつけてレースをスタートしました。最初のスティントでダウンフォースをつけすぎていると感じ、ピットでリア・ウイングの調整をしましたが、エンジニアとメカニックとのコミュニケーション・ミスで、間違えてダウンフォースをつけてしまい、遅くなりました。アクシデントが多く、雨が降ってきて集中するのが難しいレースでしたけど、今年初めてフィニッシュできたのはすごく嬉しいことです。もちろん16位と言う結果には納得していないですが、チームが今月ずっとがんばってくれたので、ありがとうと言いたいですね」と悔しい表情を見せた松浦。今シーズンの初完走が、次戦以降の復活のきっかけとなることを期待したい。

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予選23位のロジャー安川はスタートから好走を見せるも、コーション中に行った1回目のピット・ストップで、予定していた燃料が十分に補給されないトラブルに見舞われた。このため、2回目のピット・ストップをグリーン中に行うことを強いられ、周回遅れとなってしまう。なんとか挽回を狙ったものの、最後まで同一周回に戻ることができず、21位でフィニッシュした。「マシンのバランスが良くて、結構いいところまで行けるかなと思ったんですけど、残念ながら21位となってしまいました。なんとか同一周回を取り戻そうとがんばり、ギャンブルにも出ましたが、作戦が外れて2周遅れでゴールすることになったんです。後半はマシンのバランスが良くなかったんですけど、全体的には良かったので、(今月の)2週目から走り始めた中では良くできたと思います」と本人は5年目のインディ500を振り返る。上位陣と遜色ないペースで走っていただけに、悔しい結果となった今回。しかしチームやスポンサーからの評価は高く、この走りが今後のシート獲得に繋がることを祈りたい。