<TWIN RING MOTEGI>
創設10年目のシーズンを迎えるインディ・レーシング・リーグ(IRL)。この記念すべき年、オーバル専門リーグであったIRLインディカー・シリーズは、あらたにロードコース2ヶ所、ストリートコース1ヶ所の開催を決め、昨年の16戦から1戦増の17戦でシリーズを争うこととなった。今回追加された3つの非オーバルコースは、マイアミのセント・ピーターズバーグ(第3戦・4月3日-市街地特設コース)、カリフォルニアのインフィニオン・レースウェイ(第14戦・8月28日)、ニューヨークのワトキンス・グレン・インターナショナル(第16戦・9月25日)となる。今回このロードコースが追加されることにより、いくつかのレギュレーションが新たに登場している。ロードコースでのレースではタイヤウォーマーの装着が許可される。またオーバルでは開催のなかった雨天走行も想定されている。タイヤは、ドライとウェット各1種類ずつ、ファイアストンが決めてきたコンパウンドのものを全チームが装着することとなる。現時点で雨の走行でのデータがないので、何とも言えないが、ドライバーのウェットの好き嫌いもあるので、そのあたりがどうでるか、また、ハーフウェット、天候の変化によるウェットからドライへ変わる状況など、チームの判断によるピットインのタイミングで大きくレースが変わるはずだ。
また、2デー・レース(プラクティスからクオリファイ、そしてファイナルまでを2日間で行なうレース、今季は第2戦フェニックス・第7戦リッチモンド・第8戦カンザス・第9戦ナッシュビル・第11戦ミシガン・第12戦ケンタッキー・第13戦パイクスピーク・第15戦シカゴ)は1エンジン制となる。これは、練習走行から本戦の決勝までひとつのエンジンだけで走り切らなければならないというレギュレーションで、エンジンは、パワーだけでなく耐久性も要求される。特に、全長2マイルのスーパースピードウェイ、ミシガンでは、決勝が400マイルという長丁場のレースであるのに1エンジンで戦う必
要があるため、タフネスをどこまで上げられるか、が重要なカギとなってくる。
この新たな展開を見せることとなったシリーズだが、Honda、トヨタ、シボレーのエンジンサプライヤー、シャシーはダラーラ、パノスの2社から選べ、タイヤはファイアストン(ブリヂストンの米国ブランド)のワンメイクとなることについての変更はない。各社が2005年に向けてどのように進化してきたか、そして進化してくるのか、についてはシーズンが始まってみないとわからない部分も多いが、シーズン開幕前の合同オープンテスト(マイアミ&フェニックス)を見た結果では、トップから最下位のマシンまで、大きな差が無かった。この時点では、今年の戦いは拮抗したものになるのではないか、という見方がおおかたを占めている。
特にシャシーは、ほぼ差がないのではないかと言われている。オーバルのテストでは、マイアミではパノスがトップ、フェニックスではダラーラがトップタイムを出していた。ロードコーステストでは、トップ2にアンドレッティ・グリーンのダリオ・フランキッティ(Honda/ダラーラ)とダン・ウェルドン(Honda/ダラーラ)が入り、ダラーラのほうが上位タイムでテストを終えているが、これはチーム力という点もあるので単純にロードはダラーラのほうが速いとも言えない。
エンジンメーカーについては、昨年2勝を挙げるに留まったトヨタがどこまで巻き返してくるか、がポイント。2005年のタイトル奪還を公言してきているだけに、事前合同テストの段階では、まだHondaにアドバンテージがあるものの、今後の巻き返しがあるかもしれない。一方、開発の中止を発表し、参加台数がわずか2台と激減してしまったシボレーだが、開幕前のテストでは意外にも速さを見せていた。勝利から遠ざかっているシボレー勢だが、チャンスを窺っていることに変わりはない。
IRLではコスト抑制のためプライベートテストは禁止となっている。今シーズンは、開幕前に行なわれたマイアミとフェニックスのテストの他に4月(インフィニオン)と6月(ワトキンス・グレン)にテストがあるが、それ以外にはメーカーのエンジンテスト(3日のみ)、タイヤテストなどで走行する以外に走行する機会は許されていない。事前のテストが少なく、データが取れないなかでより早くクルマを仕上げるために、複数台を走らせるチームが少なくない。2004年シリーズ・チャンピオンを獲得したアンドレッティ・グリーン・レーシングは昨年同様4台体制を築く。また昨年インディ500に3台体制で臨みみごとそのインディ500を制したレイホール-レターマン・レーシングは今季フルシーズンで3台体制を敷いた。また、2003年シリーズチャンピオンを獲得しているターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングもタイトルの奪還を目指し、3台体制を確立した。
今シーズンの参戦ドライバーは、22名(2月28日現在)の予定。2004年圧倒的な強さでチャンピオンを手中に収めたトニー・カナーン(アンドレッティ・グリーン・レーシング-Honda/パノス)、2003年IRLインディカー・シリーズ・デビュー・ウインを飾り、並み居る強豪を下してチャンピオンを獲得したスコット・ディクソン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング-トヨタ/パノス)、そして2001-2002の2年連続チャンピオン、サム・ホーニッシュJr.(マールボロ・チーム・ペンスキー-トヨタ/ダラーラ)、1996年バズ・カルキンスとともに同率チャンピオンとなったスコット・シャープという4人の歴代チャンピオンが今年も参戦する。
また、インディ500の2001-2002連続ウイナーで、昨シーズン後半に4連続ポールポジションを獲得したエリオ・カストロネベス(マールボロ・チーム・ペンスキー-トヨタ/ダラーラ)は、この開幕戦でポールポジションを獲得したら新記録樹立ということになる。
ルーキーとして最も注目を浴びているのが、ダニカ・パトリック(レイホール-レターマン・レーシング-Honda/パノス)。唯一の女性ドライバーで、インディ500の決勝に進出すれば、史上4人目の女性ドライバーとなる。開幕前のテストでは、どのコースでも好タイムを記録しており、3台体制を敷くチームということもあって優勝争いに絡んでくる可能性も高い。もうひとりの大型ルーキー、トヨタF1テスト・ドライバーだったライアン・ブリスコー(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング-トヨタ/パノス)は、ロードコース・テストで、総合3番手、トヨタ勢&パノス勢ではトップタイムを叩きだすなど開幕直後から期待できそうな逸材である。さらに、IRLメナーズ・インフィニティ・プロ・シリーズからインディカー・シリーズにステップアップしてきたポール・ダナ(ヘメルガン・レーシング-トヨタ/ダラーラ)も参戦。他にも新規参入組として昨年末から参戦をしているチェコ人ドライバー、トーマス・エンゲ(パンサー・レーシング-シボレー/ダラーラ)、チャンプカーから移籍したパトリック・カーパンティア(レッドブル・チーバー・レーシング)など実力者が新たな挑戦を開始する。
また、今年も2人の日本人がインディカー・シリーズに参戦する。参戦2年目となる松浦孝亮(スーパーアグリ・フェルナンデス・レーシング)は、昨年と同じマシンパッケージ、そしてチームオーナーであるエイドリアンの姉妹チームからスコット・シャープ(デルファイ・フェルナンデス・レーシング)が参戦するため2台体制をとっている、という強みもあり、“勢いで行く”性格からも、流れに乗ってしまえば開幕戦での日本人初優勝も夢ではない。一方、参戦3年目となるロジャー安川(ドレイヤー&レインボールド・レーシング)は、新たなチーム、昨年乗っていたパノスからダラーラへの変更、チーム自体もHondaエンジンへのスイッチと何もかもが新しい中でのスタートとなる。マイアミのテストでインディカーのマシンに乗ったが、インディカーは実に昨年のインディ500(5月30日)以来という状態からのスタート。彼の性格も、ひとつずつ積み重ねていくタイプだから、1戦ごとレースをこなしていくごとに上位へ進出できるはずだ。