Hiroyuki Saito

2012 HONDA LA MARATHON −フルマラソンに初挑戦 ドジャー・スタジアムからハリウッドへ−

スタートの合図後、6〜7分経ってからやっと目の前のランナー達が進み始めました。まだまだ走れる状況ではなく、歩き始めたという感じです。すると今まで着ていた上着を脱ぎ、丸めてフェンスの外へと投げ始める人が続出。
 
フルマラソン経験者、ロジャー安川から聞いた話だと「早朝は寒いから捨ててもいいような服を着ていって、走る前にその場に投げ捨てていいんだよ」とのこと。それらの洋服は集められ、洗濯したあとにチャリティーに寄付されると、LAマラソン運営会社から送ってきたメールの案内にも記されていました。
 
僕もお役目ごめんとなった仕事着があったので、それを今回着てきました。歩きながら上着を脱ぎ、丸めるとフェンスの外へと力いっぱい投げました。気温は思ったほど寒くもなく、ある意味では走るのにちょうどいい体感温度でした。
 
前方から聞こえてくる人々の足音のリズムが徐々に早まってきて僕のところまで辿り着き、いよいよ走り始めることになりました。スタートラインを通過したと同時に、腕時計のストップウォッチのボタンを押し、「よし、走るか!」と、ちょっとした気合をいれ、進み始めました。
 
「最初のほうは障害物競走みたいなもんだよ」とロジャーが言っていたのですが、確かに人が多くてランナーを避けながら自分のペースで走るのは難しい状況でした。
 
ただね、自分の周りをこんなに多くの人が一緒に走っているということ自体が初めてだったので、なんというか、ちょっとほわっとしたうれしさを感じながら、ドジャー・スタジアムの周辺の坂道を下りました。
 
みんなと同じゴールを目指して走っているという連帯感というか、なんというか俺もいよいよフルマラソンを走っているんだなって思うと気分も高揚しちゃってね。最初のうちはにやけながら走っていたかもしれません。
 
ドジャー・スタジアムを離れたころからやっとランナーも散らばってきて、いいペースで走れるようになったのですが、うれしさで忘れていた下半身からのシグナルが点滅し始めました。
 
ちゃんとスタートの1時間前にはトイレに行っていたにもかかわらず、実はスタートするころからもうトイレに行きたくなっていたんです。そんな状況になり、早くも仮説トイレがないかと探しながらのランニングに。
 
やっと発見した最初の仮説トイレはすでに5〜6人の列となっており(やはり皆、似たような状況かと)、これは次だなってちょいと我慢しつつ、チャイナタウンを過ぎたあたりで見つけました。
 
そこは2人しか待っていなかったのでね、ここで済ましておいたほうがいいだろうと足を止めることにしました。たぶん、2〜3分はタイムロスしたことになりましたが、すっきりした感じで走りたかったということもあったし、その後は快調に走ることができましたよ。
 
ペースも安定し、リトル東京を通過して少しすると最初の難関となるのか、上り坂が出現しました。コースの最初のほうにあるからいいものの、終盤だったらきついなって思いながら上りきり110ハーバー・フリーウェイを通過しました。
 
この時点で約5マイル(約8キロ)。坂はあったもののまだまだ余裕です。ロジャーが「水やゲータレードはよく飲むとして、オレンジやバナナもあったら食べておいたほうがいいよ。驚くほど復活するから」といっていたのですが、1時間走ったら給水を始めようと思っていたので、まずはただただ黙々と走りました。
 
このころになると完全に自分のペースで走ることができ、他のランナーの様子も観察できるようにもなってきます。たとえば、大体同じペースで走っている人がわかってくるようになるんですね。
 
そんな中、どうしたって気になるランナーがいたんです。幅1.5メートル四方くらいの星条旗がなびいているポールの底を、右手を下に伸ばしきった状態で手のひらの上に置いて握り、右肩でポールを支えながら走っているんです。
 
これは結構大変ですよ。はじめは軽いだろうけど、徐々にその重さが腕に来るでしょう。腕がしびれたってまさか投げ捨てていくわけにも行かないし、なんか自分に対して厳しい人だなって思いながら、そのアメリカ人ランナーを見ていたのですが、なぜかずっと視界から離れないんですね。
 
むしろ常に僕の前を走っていて、なんてタフネスなランナーなんだって思ってそのペースに合わせて走っていたら疲れちゃってね。これはペースダウンしないといけないなって自分に言い聞かせ、声援を受けるアメリカ国旗をばたばたとなびかせたランナーが、視界から徐々に遠ざかっていくのを見送ることにしましたよ。
 
コースにはタイムが掲示されている場所があって、どれくらい走ったのかがわかります。ぼちぼち時間にして1時間が経過し、6マイルを過ぎたあたりでSunset Blvdに入りました。キロで言うと約10キロ地点でしょうか。
 
ここらでやっと給水をもらいました。汗が出ているのでゲータレードで塩分も補給。バナナやオレンジは走り始める30分前にバナナを1本いただいたので、もうちょっと待つことにしました。
 
これくらいの距離までは常に走っていたのでね、まだまだ余裕です。Sunset Blvdのハリウッド側は行ったことがあるけど、ダウンタウン側の方は車でも通ったことが少ないのでとても新鮮だなって、移り変わる街並みを楽しむことまできましたから。
 
ふっと気がつくとコースはHollywood Blvdに変わり、もうちょっとで10マイル地点となっていました。時間にして1時間30分くらいでしょうか。見覚えのある街並みが徐々に迫ってきました。
 
インディカー写真
 
次回はまだ余裕だったハリウッドから、雲行き(広之でも間違いではない)が怪しくなってきたウェストウッドまでをお伝えします。