<US-RACING>
2週続けてレースは雨に見舞われ、またしても天候が誰も予想のつかない結末を演出し、合計7回ものコーションが発生するレースを制したのは、ウィル・パワーだった。朝からどんよりとした雲が上空を覆っていたエギジビション・プレイス。アトランティックのレース中には、22年の歴史があるトロントの市街地レースでも、ここ10年見たことがないほどの大雨が降り注いだ。チャンプ・カーの決勝前に雨はあがっていたものの、雲行きは依然怪しく、いつ降ってもおかしくない状況のなかでスタートが切られる。この週末、何かと波に乗れていなかったパワーだったが、今日は7番手スタートからとんとん拍子にポジションを上げ、3番手を走行していた。そして38周目、ついに雲から雨粒が落ちだし、コースを瞬く間に濡らしていく。この雨に足元をすくわれたタグリアーニとセルビアがスピンしたことにより、フル・コース・コーション。このタイミングでほぼ全車がレイン・タイヤへ交換した。アスファルトとコンクリートの混合路面は非常に滑りやすく、どのドライバーもグリップ不足に悩むなか、パワーはただひとり桁違いの走りを披露。トップに立った57周目からは2位以下を大きく引き離していく。幾度となくあったコーション後のリスタートも完璧に決め、パワーは今シーズン2回目のトップチェッカーを受けた。「面白いレースになったね。雨が降ったのは最高だったけど、ドライでもみんなより1周多く走ってもトップでいられるくらい速かったと思うよ。マシンの感触は良かったからね。どのコンディションでも調子が良かったんだ。チームにはほんとうに感謝している。僕たちが必要としていたポイントもちゃんと獲れた。しかもセバスチャンがレースを完走しなかったのが、僕たちにとってすごく有利だった。次の数戦はかなり得意なコースだよ」と喜ぶパワー。ポイント・ランキングも2位に浮上し、タイトル争いからは目が離せなくなってきた
今週末は他のルーキーと同じく、トロント市街地コースの攻略に苦しんでいたニール・ヤニは、天候を味方につけ、今シーズン2回目の表彰台を獲得した。9番手スタートから7番手にポジション・アップしたヤニは、燃費作戦を敢行し、中段グループから上位進出を狙っていた。35周目を皮切りに上位陣がピット・ストップへ向かうなか、ヤニは38周目まで引き伸ばしてピット・インする。ここでPKV陣営はお得意の奇襲戦略に打ってでた。ホーム・ストレートにぱらぱらと降り出した雨が、強くなることを予想し、レイン・タイヤをヤニに装着。コースへと送り出す。この戦略が見事にはまり、ヤニは一気に3位へ大躍進。雨の中での走りも冴えていたヤニは、62周目にライアン・ディエルを捉え、キャリア・ベストの2位でフィニッシュした。「チャンプ・カーの燃費作戦については、まだ勉強しなくてはいけないことがあるね。でも、最後に雨が降ったときはこの作戦にあまり意味がなかった気がしたよ。他のみんなはイエローが振られた後にレイン・タイヤへ替えていたのに、僕たちはその前にピット・インしていたからチームはすばらしい仕事をしたね。このピット・ストップはばっちりだった。そのおかげで、5〜7位くらいから2位に上がれたんだ。その後ウィルに抜かれるけど、今日の彼は速すぎてとても追いつけなかったよ」レースを振り返るヤニ。ルーキーながらドライでの速さはもちろんのこと、こうした厳しい状況でも速さがあることを証明した。
3位表彰台を獲得したウイルソンのレースは波乱に満ちていた。セルビアのロケット・スタートによって2番手から3番手に後退したウイルソンは、前を走るブルデイを追っていた。トップ3は1秒前後の白熱したバトルを繰り広げるなか、19周目にウイルソンはターン4の立ち上がりをミスしたブルデイのインサイドへすかさずダイブ。ところが、ブルデイはウイルソンのラインを完全にシャット・アウトしたため、行き場を失ったウイルソンはブルデイのマシンに接触しながらスピンを喫してしまう。何事もなかったかのように走り去るブルデイに対し、ウイルソンは最後尾まで転落。だが、浮上のきっかけとなったのは38周目から降り出した雨だった。はっきりしないコンディションが多いイギリスのレースで育ったウイルソンにとって、濡れた路面を走ることはお手のもの。自力で次々と前車をかわし、ポジションを上げていく。最後はライアン・ディエルに接触しながら抜き去り、3位まで挽回するが、最後のパスは少々後味が悪かったようだ。「いろんな出来事があったレースだったね。序盤はセバスチャンとバトルをしていて、ターン5で彼をパスしようとした。彼はターン4でひどいラインを通っていたから、絶対チャンスがあると思ったんだ。でも彼は僕に気づかないで外側からターンに入った。スピンしたときはほんとうにがっかりした。そのおかげポジションを取り戻すことに集中できたけどね。その後、彼からポジションを取り返したときは嬉しかったよ。最後のパスはコンクリートに乗って滑ってしまったんだ。ライアンには申し訳なく思う。パシフィック・コーストのみんなはすばらしい仕事をしていたし、彼らは確かに速かったからね」と話すウイルソン。雨の中ではアグレッシブな走りを披露したが、マシンを降りればイギリス人らしい紳士な男だ。
雨に中ですばらしいパフォーマンスを披露した新チームのパシフィック・コースト・モータースポーツと、そのドライバーでルーキーのライアン・ディエル。1回目のピット・ストップに入った38周目に、雨が降ることを予想していたチームは、ディエルにレイン・タイヤを履かせてコースに送り出す。この予想が見事に的中し、雨が激しさを増してほぼ全車がレイン・タイヤへ替えるためにピットへ向かうなか、ディエルはそのままコース上に留まることに成功。キャリア7戦目にして初めてチャンプ・カーのリード・ラップを取った。コーション明けのリスタートを上手く決めたディエルは、16周に渡ってレースをリード。その後パワーとヤニにかわされてしまうも、アスファルトとコンクリートが混在する滑りやすい路面を安定して走り続け、キャリア初の表彰台が見えてきた。しかしレースの残り2周、ウイルソンがディエルのインサイドに飛び込みオーバーテイクを試みる。そうはさせまいとウイルソンのクロス・ラインを狙おうとしたディエルだが、ウイルソンがスリップして予想外にアウトへはらんだため、行き場を失ったディエルはタイヤ・バリアに激突。リタイアに追い込まれてしまい、掴みかけた表彰台を逃す悔しい結果となった。
2戦連続でポール・シッターは不運に見舞われることになった。初日、二日目と僅差でポール・ポジションを勝ち取った、ディフェンディング・チャンピオンのセバスチャン・ブルデイ。スタートでは抜群のダッシュを決めた3番手のセルビアにかわされるものの、1回目のピット・ストップを前にセルビアをコース上でパスしてトップに立つ。ピット作業も問題なく済ませ、ブルデイにとっては優勝に向けて絶好のシチュエーションが揃ったかに見えた。しかし、降り出した雨が彼のレースを台無しにする。度重なるコーションでリードが消えたばかりか、レイン・タイヤをうまく使いこなせず、次々にライバルのパスを許してしまう。最後はタイトルを争うドーンボスと接触してリタイアという最悪の結果に。勝てるはずのレースをまたしても気まぐれな天気によって妨げられた。「ロバートの小さなミスだったけど、この2レースはチャンピオンシップに大きな影響をもたらしたね。ドライのマシンはかなり良かったから残念だよ」と肩を落とすブルデイ。チャンピオンシップでもついにリーダーの座を失い、ドーンボスやパワーという若手ドライバーを追いかける立場になった。
今週末はフォーサイス勢が好調のため、地元ファンの前で活躍が期待されたトロント出身のポール・トレイシー。スタート直後の込み合ったバトルをうまくかいくぐるが、不運にも前を走るパジノウが落としたフロント・ウイングを拾い、パーツがマシンの下に入り込んでしまう。これでコントロールを失ったトレイシーは、ターン8のウォールに激突。1周も経たないうちにホームタウン・ヒーローが姿を消すことになった。このトレイシーのクラッシュによって後続に混乱が生じ、減速したヤン・ヘイレンの後ろにトリスタン・ゴメンディが激しく追突してマシンは宙を舞う。さらにこの混乱を避けようとしたキャサリン・レッグ、アレックス・フィギー、グラハム・レイホールが次々に追突し、合計6台がからむ多重クラッシュに発展。ウォームアップで4番手タイムをマークしていたレッグをはじめ、5台がリタイアに追い込まれた。フロント・ノーズを交換するだけで事なきを得たレイホールも、その後、雨に足元をすくわれて戦列を去っている。
今年で22年目を迎えるトロントの市街地レースは、ライブ・コンサート、BMXやスケートボード・スタントなど様々なアトラクションが用意されている。そのなかで一風変わっていたのが、この相撲体験。ファイト・ネットワークが今週末を通じて様々な武道を紹介するブースを出展し、そのなかに日本の相撲もラインナップされたわけだ。土俵もなければ、コントで使うような気ぐるみが用意されているなど、ほんとうに相撲を理解しているのかいささか疑問はあるが、決勝レース前にはデイル・コイン・レーシングのジュンケイラとレッグがチームメイト対決を行い、観客を沸かせていた。今週末速さを見せていたレッグは、残念ながらクラッシュでリタイアに終わったが、ジュンケイラは今シーズン・ベストの5位に入り、デイル・コイン・レーシングも調子を上げてきている。