<US-RACING>
●トレイシーがCART史上初の開幕3連勝を達成
第29回ロング・ビーチ・グランプリは、雨の天気予報から一転、ドライコンディションでスタート。ポールからスタートのジョルダインが終盤までレースをリードしながらも、ラスト7周のところでミッション・トラブルにより無念のリタイアとなった。トレイシーが逆転優勝を飾り、CART史上初の快挙となる開幕3連勝を達成。2位は昨年のミルウォーキー以来の表彰台となったフェルナンデス。3位は今年の開幕戦に続く表彰台獲得となったジュンケイラが入った。
●レース・ウィーク最速のジョルダインを土壇場で不運が襲う
多少雲はあるものの、雨の心配もなくドライ・コンディションとなった決勝日。スタンドを埋め尽くした約10万人もの大観衆が見守る中、午後1時4分にグリーン・フラッグが振り下ろされて90周のレースがスタートした。オープニング・ラップでジョルダインに並んだトレイシーがホール・ショットを決めてトップに浮上。しかし好調のジョルダインもトレイシーの背後にピタリとつき、序盤からこの2台によるテール・トゥ・ノーズの白熱した展開となる。
トップのトレイシーはジョルダインを振り切ろうとファステスト・ラップをマークする走りを見せるが、決定的な大差とはならない。序盤にペースを上げ過ぎたせいか、燃費が厳しくなってきたトレイシーは、当初の予定よりも一周早い27周目でピット・ストップしなければならなかった。まだコースに留まっていたジョルダインは燃料の軽いマシンで一周多く走行し、トレイシーの前でコースに復帰。前の周にタイヤ交換を済ませ、すでにタイヤが温まっているトレイシーがジョルダインにチャージを掛け始める。
しかし29周目にルマリエがコース上でストールしたため、この日最初のフルコース・コーションが提示された。ジョルダインはこれに助けられてトップを維持。グリーン・フラッグで再開となった33周目に今度はユーンがターン1でオーバーランし、タイヤバリアに突っ込んだため、この日2度目のフルコース・コーションとなってしまう。
コースの安全が確認され、グリーン・フラッグが振られると同時にターン5でラビンがタイヤ・バリアに激突。そこへモレノが後輪を引っ掛けてしまい、サスペンションを破損するなど、立て続けに3度目のフルコース・コーションとなる。この時6台のマシンがピットインするなか、トップ争いのジョルダインとトレイシーはコースに残った。41周目の再スタートではトップのジョルダインが絶妙のスタート・ダッシュをみせ、2位トレイシーとのギャップを徐々に広げていく。
グリーン・フラッグ下の56周目、トレイシーが規定の周回数(今回のピット・ウインドウは28周)に達してピットインを実施。続く57周目にはジョルダインも予定どおりピット・インをすませ、リードを保っている。
レースの3分の2を消化したところでジョルダインとトレイシー、それにジュンケイラを除く全車が最後のピットイン。ここでピット・ストップしたマシンは、この後チェッカーまでピットに入る必要はない。レース前半に3回続いたフルコース・コーション中、あえてピット・ストップを行わなかったジョルダイン、トレイシー、ジュンケイラの3名は、フィニッシュまでにあともう一回ピット・ストップを行わなくてはならなかった。
さて、3連続ポール獲得ならず、今回は予選5番手からの出走となったボウデイは、後半70周目、7位を走行中にまたしてもメカニカルトラブルに見舞われてスローダウン。まったく良いところのないままリタイアを余儀なくされた。驚異のスピードを持つルーキーだが、なかなか優勝することができない。
レースもいよいよ終盤に突入した79周目、3位を走行中だったジュンケイラは最後のピット・ストップを済ませてコース上に戻るが、タイヤが温まっていない状態でフェルナンデスにパスを許して4位にダウン。そのフェルナンデスとの差が十分についたことを確認したトレイシーは、最後のピットインを済ませて2位のポジションを守ったままコースへと復帰できた。しかしタイヤ交換したばかりのトレイシーに、フェルナンデスがどんどん迫ってきている。
次の周回(83周目)にはトップのジョルダインが最後のピット・ストップを敢行。2年連続で最速ピット・ストップ賞獲得を誇るチーム・レイホールのクルーたちが、ここでも完璧な作業をみせてジョルダインをコースへ送り出すべくマシンをプッシュ。ところがジョルダインのマシンは突然ギアがまったく入らない状態となってしまい、再スタートできない。結局ジョルダインは優勝まで残りあとわずか7周のところでマシンを降り、痛恨のリタイアとなってしまった。
ピットでしばし呆然とするジョルダイン。キャリア初のポール・ポジションを獲得し、決勝レースでは最多リードラップと最速ラップをマークしながらも、最後のさいごで勝利の女神に見放されてしまう。シリーズ参戦123戦目にしてようやく目前に見えたシリーズ初優勝の夢が、今回も叶わなかった。
レース後半にかけてフェルナンデス、カーパンティエらとともに4位争いを展開していたセルビアは、62周目に行った2回目のピット・インで作業時間をセーブするため、ぎりぎりの量の燃料補給を受けていた。その後セルビアは84周目に4位まで上がるが、88周目に燃料切れでスローダウン。無念のリタイアを余儀なくされる。
いったんはフェルナンデスに差を縮められたかに見えたトレイシーだったが、その後徐々に引き離して単独トップを堅持。トレイシーは最終ラップでフェルナンデスとの差を4秒以上に広げたままトップでチェッカーを受け、堂々の3連勝を達成。またしても勝利の女神はトレイシーに微笑む結果となった。開幕3連勝は、1909年からのチャンプカー史上では1971年のアンサーSr.以来で、CART史上初の快挙となる。3位にはジュンケイラが入り、ポイント・ランキングで2位に浮上した。
シャシー別に結果を見ると、今回もローラ勢が表彰台を独占したが、4位にバッサーが入ったほか、ルーキーのトップ、ハンター-レイの7位を含む3台のレイナードがトップ10入りを果たしている。
次回第4戦はいよいよイギリスとドイツのヨーロッパ・ラウンドに突入。安定した強さを見せるトレイシーがこのまま連勝記録を伸ばすか? または今回の不運を乗り越え、ジョルダイン、ボウデイらが念願の初優勝獲得となるか、注目が集まる。
優勝したトレイシーのコメント
「連勝記録を伸ばすにはある程度の運が必要なようで、今日はその運に恵まれた勝利だ。レース中はすべてを出し切ってハードに攻めたが、ミシェル(ジョルダイン)をオーバーテイクするのは無理だった。今日の彼は確実に勝てる実力を持っていたと思う。今回は思ったような燃費を得ることが出来ず、常にミシェルよりも一周早いタイミングでピットストップする必要があったからね。最後のピットストップでは相当プレッシャーがかかったが、チームの素晴らしい働きでエイドリアン(フェルナンデス)の前に出ることが出来た。チーム・プレイヤーズは非の打ち所のない仕事をこなしたよ。とにかく今日のレースはこれまでで一番体力的にタフなレースだった」
2位のフェルナンデスのコメント
「レース前にセッティングを変更したら、それが上手く行った。スタートでは失敗してしまったが、その遅れはピットストップ作戦で何とか取り戻すことが出来たんだ。オリオール(セルビア)の後ろで引っかかってしまったことで、大分タイムロスしてしまったよ。あれがなければもっと良い結果を残せたかもしれない。特に最後のセットのタイヤはとてもバランスが良かったからね。ポール(トレイシー)にはスピードがあるのを知っていたから、自分もかなりプッシュして走り続けた。タイヤは安定したパフォーマンスを見せてくれたが、使いすぎてしまったようで、最後のほうでリアタイヤはほとんど使い切ってしまったよ。ポールは最後まで比較的新しいタイヤで、余裕があったみたいだ。彼がピットアウトしてきた時点で大分差が開いていた様で、あそこでチャンスを与えてしまったようだね。新しいタイヤでもコースを一周してしまえば温度が上昇し、グリップ力が高まる。今回の彼はタイヤに歩があったと思う」
3位のジュンケイラのコメント
「とても巣晴らし一日だったと思う。最初のセットのタイヤはあまりバランスが良くなかったからか、徐々にグリップ力が低下したように思える。ピット・ウインドウは28周だったから、出来る限り燃費を抑えるようにして我慢のレースをしながら走った。決勝レースがスタートしてみると、ミシェルのスピードが非常に高いことがわかった。何とか前の二人について行こうしたが、少しずつ離されていったよ。2回目のストップで少しセッティングを変えたらとてもよくなったが、最後のストップの後でエイドリアン(フェルナンデス)にパスされてしまった。それでも今日のこの状態のなかで3位表彰台を得られたことは満足で、嬉しいよ」
合計48周をリードし、残り7ラップでトップのまま迎えたピットストップで、
メカニカルトラブルからリタイアとなったジョルダインのコメント
「今日は最高の日か、最悪の日か良くわからない一日だった。マシンはこれまでのなかで群を抜いて最高の状態で、簡単に他のマシンをパスして引き離すことができた。スタートはガッカリしたよ。オフィシャルはまるでポール(トレイシー)がポール・ポジションだったような扱いで、彼が先頭のままグリーン・フラッグを振ったんだからね。いったい彼らは何を見ていたんだろう。でもあのすぐあとから燃料をセーブするようにしたら、ポールよりも一周あとにピットインしてトップに立ち、後続を引き離すことが出来た。イエロー・フラッグで作戦が変わりそうになったときも、僕達はとても速かったからまったく問題なかったよ。クラッチに問題があったのかどうかよくは判らないが、最後はギアが全然入らない状態になってしまった。明日からは次のレースに神経を集中するよ。でも今日はこのレースのことをずっと考えているだろうね。すべてがうまくいったにもかかわらず、レースに勝てなかったことはとても残念だ。こういうことはそう頻繁に起こることではない。これまでの123戦で一度もなかったことだ。自分はミスを犯さなかったし、チームもミスを犯さなかった。こういう結果になるべきではなかったはずだ。今シーズンはこれからも良いマシンに恵まれることだろうが、今日のような日がまた来ることも覚悟しているよ。でも、勝利はそう遠くないと確信している」