アイオワのショート・オーバルで日本人初のポール・ポジションに輝いた佐藤琢磨が、エドモントンではロード&ストリート・コースの初ポールを獲得してくれましたね。前回に続き、今回も僕が見た「その瞬間」を詳しくお伝えしたいと思います。
みなさんもご存知のとおり、初日は雨で練習走行がキャンセル。予選日に急遽2回のプラクティスが行われることになり、琢磨は2回目のプラクティスでトップ・タイムを記録しました。このときは、ただただ凄いなぁと思ったものの、アイオワ同様、予選でポールまで獲得できるとは、正直思っていませんでしたよ。
というのも、ロード&ストリート・コースで昨年から8連続PPを獲得していたウィル・パワーという存在があまりに大きく、チームメートのエリオ・カストロネベスやライアン・ブリスコーをはじめ、ダリオ・フランキッティやスコット・ディクソンでさえ敵わなかったのです。結局、今回もまたウィルがポールだろうと、そこにいたほとんどの人が予想していたと思います。
なにしろ今シーズンのロード&ストリートにおける琢磨の予選順位は、ブラジルの10位が最高でしたし、前回のトロントは19位でした。2回目のプラクティスでトップタイムを記録していた今回、今シーズン初の予選最終ラウンド“ファイアストン・ファスト6”までは行けるだろうな、という期待はあったのですが…。
予選時間が近づくにつれ、どんよりとした雲が上空を覆っていきます。朝から午前中にかけて快晴だったのですが、お昼ごろには雲行きが怪しくなり、最後まで大丈夫かなぁと心配になるようなコンディションで予選の第1ラウンドがスタートしました。
第2グループだった琢磨はピットで待機し、第1グループのアタックの様子を、コースに設営されたスクリーンやピットのモニターでじっくりと確認。そろそろ出番だなと準備を始め、マシンに乗ろうと移動した時に、第1グループで出走したチームメートのトニー・カナーンがやってきました。
カナーンは路面状況などをアドバイスしたと思うのですが、当の本人はラウンド2で敗退し、予選11位にとどまりました。もう一人のチームメート、E.J.ビソはトップ6まで残ることができたので、全体的にセッティングの決まった予選アタックができたと思います。
ともあれ、いよいよ琢磨の最初のタイムアタックが始まりましたよ。僕もいそいそとピットから最終コーナーへ移動して、走行シーンの撮影を開始。15分というタイトな時間は、あっという間に過ぎてしまいます。アタックが終わって再びピットに戻り、琢磨がマシンにまだ乗っているのを確認、今度はターン1の方へと急ぎ足で向かいました。
移動している最中に、10分間のラウンド2のアタックがスタート。撮影場所に到着すると、もう残り時間が5分くらいしかなく、ばたばたと撮影しているうちに終了です。ファイアストン・ファスト6の前には10分間のインターバルがあり、その間に琢磨のピットに戻ると、まだコックピットにいたので一安心。最後のアタックに向けて、待機していました。
琢磨はラウンド2で4番手のタイムを記録し、トップスリーにはウィル、ダリオ、スコットとお馴染みのドライバーが名を連ねていました。いよいよファイアストン・ファスト6がスタートし、この時点では「琢磨がこのトップスリー相手にどこまでいけるのかな?」と思っていたのですが、10分間のアタック後半になって、じーとモニターを見ていると、なんと琢磨がトップに躍り出たのです!
しかし百戦錬磨のドライバーたちはここからが本番といった感じで、ウィルがいっきにタイムアップ。琢磨のタイムにあとわずかってところまで迫ってきました。残されたアタックの時間は3分を切り、あと3周計測できるかどうか、といったタイミングです。
さすがにそうなると「これはポールいけるんじゃないかい?!」といった実感が急激に高まり、もう撮影どころではなく、モニターに釘付けになってしまいました。スタート&フィニッシュ・ラインをマシンが通過するたびにモニターをチェックし、琢磨の上に誰もこないでくれと、冷やひやしながら残りの時間をカウントダウンですよ。
残り1分を過ぎたあたりから、時間の流れが突然ゆっくりと感じるから不思議ですね。琢磨がトップのまま終わって欲しいという願いと、やはりウィルが更新してくるんじゃないかといった心配が微妙に交じり合ってね、時間の流れはいっそうスローになっていくんです。
やがて、アタックを終えた琢磨がピットに戻ってきました。そろそろ我に返って撮影の準備、そう、琢磨がポールを獲ったときのために、スタンバイしなければなりません。長かった10分間(特に最後の1分)が終了し、最後のアタックに挑んだドライバーたちが、次々とスタート&フィニッシュラインを通過。ついに、誰も琢磨のタイムを更新することはなかったのです!
ピットで待ち構えていた僕は、琢磨がコックピットで両手を上げて拍手をした姿を撮影しながら、ポール決定を確認。その後琢磨は拳をエドモントンの空へ突き出し、ほんとうに嬉しそうでした。
クルーに祝福されつつコックピットから飛び出した琢磨は、マシンのサイドポッドの上に立ち、両手をあげて喜びを爆発! そして両手をあげたままマシンからジャンプして、僕のすぐ脇に着地したのです! もう、踏み潰されるんじゃないかと、少しドキッとしましたよ。
その後もチーム・クルーやオーナーのケビン・カルコーベンに抱きついて、喜んでいました。
もちろん、予選前にアドバイスにきていたカナーンも祝福です。
ヘルメットを脱いで、落ち着いたころでやっともうひとりのオーナー、ジミー・バッサーとハグ。琢磨のポールが2度目だったからか、ジミーは意外と冷静にピットで待っていましたよ。
最後はカメラマンやテレビに向けて、改めてガッツポーズ。アイオワで初めてポールを獲得した時はまだ実感が沸いていなかったのか、本人は割と落ち着いていて、逆に僕らの方が興奮していました。今回こんなに琢磨が喜ぶとは思っていなかったというか、よほどうれしかったんだなというのが、現場ではひしひしと伝わってきましたよ。たしかにロード&ストリートのポールは、マシンよりもドライバーのウエイトが高く、F1を戦ってきた琢磨としては何がなんでも獲りたかったと思います。
いやはや、今回も撮影が少し落ち着いた頃になって「すんげー!!」といった声が僕の口からも出てきましたよ。オーバルに続いてロード&ストリートでもポールを獲得したんですから。両方を獲得できるドライバーは、ほんとうに限られているだけに、快挙ですよ。
ポールアワード受賞のため、表彰台に向かっていた途中のことです。ファンの声援に満面の笑みでこたえながらピットを移動していると、まずは予選4位だったダリオが祝福に。
その後、となりのピットにいた予選3位のディクソンが、琢磨を取り囲む取材陣を縫うようにしながらやってきて祝福。
ロード&ストリートの9連続PP獲得を阻止された、予選2位のウィルも最後に琢磨を祝福しにきてね、トップ・クラスのドライバーも琢磨の速さを認めてくれたんだなと、とても印象に残るシーンでした。
開始時に空を覆っていた雲はすでになく、エドモントンの上空に青い空が広がり始めていました。授賞式での日本人のポールアワードの撮影は、おかげさまでアイオワで経験させてもらっているだけに、それほど緊張することなく撮影を終えることができました。
するとインディカーのオフィシャル・カメラマンがアイオワを思い出し、このエドモントンでも琢磨と一緒に日本人メディアを撮影してくれましたよ! もうね、恒例行事となりそうです。はい。もちろん次の記念撮影は琢磨が優勝したときになることを願っていますよ!(写真右端が僕です)
そう、肝心のベスト・ショットの写真ですが、やはり今回は琢磨のスタート・シーンにしました。日本人がスタートでトップを走行するシーンは2回目ですが、それは僕ら日本人カメラマンにとって、すごく貴重な体験だったのは言うまでもありません。そのチャンスをくれた琢磨には、ほんとうに感謝しています。でも、優勝したウィルの写真じゃないのもなんなので、ちゃんとウィルも写っているカットを選びましたからね!
Photo & Text by Hiroyuki Saito
※第10戦Pick the Winnerのプレゼントはこちらの写真となります。
●撮影データ
機種: Canon EOS-1D Mark ?
レンズ: Canon EF 500mm f/4.0 IS USM
撮影モード: マニュアル露出
シャッタースピード: 1/800
絞り値: F7.1
測光方式: 評価測光
ISO感度: 200
焦点距離: 500.0mm
オートフォーカスモード: AIサーボAF
ホワイトバランス: オート