今シーズン唯一のショート・オーバル・レースとなった第8戦アイオワで、2010年シーズンも半分が消化されてしまいましたね。開幕からロードと市街地の4連戦、第5戦カンザスからはオーバルの4連戦が続き、今週末におこなわれる第9戦ワトキンス・グレンより再びロード&市街地コースへと戦いの舞台が移ります。
ということで今回のコラムでは、ここまでのシーズン前半を振り返ってみることにしょう。まず現時点でランキング・トップにいるのは、チーム・ペンスキーのウィル・パワーです。開幕直前に行なわれたオープン・テスト後に予想したとおり、今年は飛躍の年となっていますね。第1戦ブラジルは去年のインフィニオンのクラッシュで負傷してからの復帰レースとなったわけですが、みごと優勝。第2戦セント・ピーターズバーグと2連覇し、市街地コースで驚異的なパフォーマンスを披露してくれました。
ランキング2位につけているのは通称“アイス・マン”で、今年もクールな走りを見せているスコット・ディクソンです。第5戦カンサスで勝利し、それ以外でもトップ争いに関わるのですが、おいしい所はチームメートのダリオ・フランキッティに持っていかれているような印象もありますね。それでも必ずトップ10フィニッシュするところがスコットのすごさであり、エンジンがホンダのワンメイクになった2006年から、2度目のチャンピオンを含む4年連続シリーズ・ランキング・トップ5入り。安定性においてもスコットはクールです。
前戦アイオワでのギア・ボックス・トラブルが響き、第7戦テキサスでランキング・トップだった今年のインディ500勝者ダリオ・フランキッティは、現在ランキング3位です。オーバル・ランキングでスコットとダリオがワンツーにいるように、オーバルのパフォーマンスにおいて抜群のスピードを見せているチップ・ガナッシ勢ですが、ロード&市街地ランキングではトップ4に入れず、マシン・セッティングでもペンスキーに若干劣っているように見えます。ダリオ、スコットともロードや市街地を得意としているだけに、シリーズ・タイトルを獲得するには後半戦でマシンのパフォーマンスを向上させなくてはならないという状況です。
ではいったいペンスキーの何がロード&市街地でガナッシよりも上回っているのか、その理由の一つが以前から話題となっている3rdダンパー・システムではないかと考えられます。実際のところ3rdダンパーそのものはルール上禁止されているので、3本目のダンパーを装備しているわけではないのですが、アンチロールバー(マシンのねじれを抑えるパーツ)の設計を工夫することによって、3本目のダンパーのような役割を果たしてくれる効果を発揮できるのです。このパーツを使うことでコーナリング中のマシンの安定性を高め、尚且つマシンの車高も低く設定できることから“ライドハイト・コントロール・システム”と呼ばれることもありますが、まさに一石二鳥となるパーツです。
しかしこのパーツ、実際のところはルール上かなりグレーなエリアに属するものなんですよ。リアのパーツに関しては比較的簡単に作ることができても、フロントのロール・バーは狭いモノコック内の足下に配置しなくてはならないため、かなり複雑な設計となっています。ペンスキーはだいぶ前からこのシステムを開発して実戦に投入しているそうで、その存在に気づいたガナッシもこのようなシステムのパーツを作って良いかどうか、オフィシャルに問い合わせたところ却下。オフィシャルとチームにどんなやり取りがあったのか正確にはわかりませんし、聞き方が良くなかったのかもしれませんが、NGがでてしまうほどシビアな特殊部品だというのは間違いありません。
そんなわけでいったん諦めたガナッシですが、今シーズンに入ってから他の複数チームが似たようなロール・バーを設計してきたことによって、問題は再び拡大。とうとう第3戦アラバマのレースで、オフィシャルがこのシステムをOKだと表明したのです。当然のことながら、このニュースを聞いたガナッシや、同じように開発をしていなかった他のチームがかなり怒ったのは事実。とは言っても、同じ土俵で戦うには同じシステムを投入する必要性があるので、他チームにとっては良い結果になったのではないかと僕は思っています。おそらく各チームはオーバルの4連戦が続いている間に、ロード&ストリート用の新しいロール・バーのシステムを開発していたはず。しかしながら実際にこのパーツを装備しても、データを収集して最大限に機能を発揮できるセッティングを見つけるまでには、少し時間がかかるのではないでしょうか。
ペンスキーVSガナッシの話がちょっと長引いてしまいましたが、今シーズン見違えるようにチーム力を上げてきたのは、アンドレッティ・オートスポーツです。トム・アンダーソン(写真左)がチームのマネージング・ディレクターに就任した今年、彼がチーム内部の政治的な力を一つにまとめ、合理的に各ドライバーやエンジニアの力を引き出しているように感じます。第4戦ロング・ビーチでライアン・ハンター-レイ、第8戦アイオワではトニー・カナーンによって2勝を挙げていますが、後半戦でもトニー、マルコ、ライアンは優勝争いに絡んでくるでしょう。その反面、ダニカ・パトリックは去年に比べると苦戦しているように見られますが、第7戦テキサスの2位のように、得意としている1.5マイルオーバル(特にツインリンクもてぎ)では目の離せない存在です。
さて、逆に前半戦で思うような結果を残すことができなかったのが、我らがサムライ・デュオのヒデキとTaku。両選手とも光る走りを何度も見せてくれましたが、不運やマシン・バランスの問題が重なったりと、なかなか結果に繋げることができていません。僕がスポッターとして一緒に戦っているTakuに関しては、この前のアイオワで素晴らしい走りを披露し、表彰台は確実だと思っていただけに、ほんとうに悔しい結果となりました。後半戦はチーム・ワークを大事にしっかりと最後まで走りきれば、必ず結果がついてくると思っています。
ヒデキも同様に、後半戦では必ず巻き返してくれることを願っています。今年は1台体制で戦うことになり、走行時間が少ないことからデータ不足に悩まされ、思うようなマシンに仕上げることができていないのが辛いところ。しかしニューマン/ハースはこのまま終わるようなチームではなく、後半戦でマシンのパフォーマンスをかなり上げてくると予想しています。シリーズ前半は、勝ちを急いでいたことが逆効果になっていたように見えていたので、これからの後半戦では確実にトップ5を狙えるパフォーマンスを発揮してもらいたいですね!
ふと気がついたらもう7月に突入しようとしていますが、インディ・ジャパンまであと2ヶ月半。僕自身、今年も走るために色々なチームと交渉を続けていますが、何よりもスポンサーを獲得しないと、話が進まない状況になってきました。色々と厳しい状況であることに変わりはありませんが、引き続きがんばってシート獲得を目指したいと思っています。やはり毎回サーキットに行くと、レーシング・カーに乗りたくて身体がムズムズしてきますからね!
ということで前半戦を振り返ってみましたが、8戦終わって唯一2勝したのはウィルのみ。なんと7人もウイナーが誕生しているんですね。相変わらずペンスキーとガナッシが強いものの、アンドレッティ・オートスポーツやロード&ストリートでジャスティン・ウイルソンがランキング4位に入るなど、ドレイヤー&レインボールドも台頭。次戦のワトキンス・グレンは、去年ジャスティンがペンスキー&ガナッシ勢を唯一下した場所であり、ぜひ彼にも注目してください。
ご覧いただいたとおり、今年は去年ほどチームの差が少ないので、シーズン後半のレースではさらなる攻防戦が期待できそうですよ!