3月にブラジルで開幕したインディカー・シリーズですが、ゆっくりと振り返る暇もないほど、あっという間に先週末のテキサスで7戦が終了。インディ500では記録的な暑さの中でダリオ・フランキッティがブッチギリの速さを見せ、2度目の制覇となりました。
先週末行なわれたテキサスのレースでは、久しぶりにダニカ・パトリックの活躍が光ったものの、レース自体は圧倒的なスピードを見せたライアン・ブリスコーが優勝。やはり今季のオーバル・レースでも、ペンスキー vs ガナッシの戦いが続いていますね〜。
今年はベテラン・ドライバーからルーキーまでの層が厚く、たくさんの実力者が揃っていますが、そんな中で僕がいつも注目しているのはシモーナ・デ・シルベストロちゃんです。インディ500ではルーキー賞を獲得し、次なるダニカ・・・いや女性ドライバーとしては、ダニカを上回る実力の持ち主だと言っても過言ではない!?! 今回のコラムでは、そのシモーナの速さにフォーカスしたいと思います。
スイス出身のシモーナは、まだ21歳。スイスは国が小さいだけにレーサー人口が少ないのですが、レーシング・ドライバーを目指す子どもたちにとって、カートの本場であるイタリア選手権やフランスに遠征しやすいロケーションということもあり、ドライバーを育てるのに意外と良い環境にあります。
シモーナは子どもの頃から欧州でカート修行をし、2005年にフォーミュラ・ルノーでフォーミュラ・カーのデビューを果たしました。翌年には戦いの場をアメリカに変え、米フォーミュラBMWシリーズに参戦してランキング4位を獲得。この年のF1 US GPの前座で行なわれたレースでは3位に入り、インディアナポリス・モーター・スピードウェイで初めて女性ドライバーとして表彰台に立ったんです。
2007年になると、僕も参戦していたフォーミュラ・アトランティック・シリーズ(FAS)へステップ・アップ。初年度はCART時代に活躍していたウォーカー・レーシングから参戦し、2008-09年は故ポール・ニューマンが共同オーナーの一人だったニューマン/ワックス・レーシングへ移籍しました。
2008年にダニカがインディ・ジャパンで女性の初勝利を成し遂げた翌日、実はシモーナもロング・ビーチで行なわれたFASのレースで優勝。すごい偶然です。このシリーズで初の女性ドライバーのウイナーは、かつてチャンプカー・シリーズに参戦していたキャサリン・レッグだったので、シモーナは二人目。ちなみにFASはダニカも参戦していたのですが、最高位は2位でした。
昨年はFAS最終戦まで、堂々とチャンピオン争いを展開。最終戦でクラッシュに巻き込まれなければ、間違いなくタイトルを獲っていただろうと多くのFAS関係者が述べています。アメリカの若手有望株のドライバーが揃うFASで4勝もしているのですから、シモーナの実力は計り知れません。
そのシモーナがインディカーの初テストを行ったのは昨年末、セブリングでのことでした。現在所属するHVMレーシングでテストをしたのですが、昨年のレギュラー・ドライバーだったEJビソを脅かすタイムで走ったと耳にした時は、さすがに僕も驚きました。注目すべきはシモーナのマシン・セットアップに対するフィードバックで、とてもルーキーとは思えないほど適切だったと聞いたのです。
ルーキー・ドライバーにとって何が大変かと言うと、乗り慣れてないマシンの良いハンドリングとはどういう状態なのか、またはその逆に悪いハンドリングがどうなのかを、的確に判断することです。走る度にマシンの特性をしっかりと把握し、エンジニアへ明確にマシンのバランスを説明することによって、徐々に自分の中で基準というものが出来上がっていきます。ロード・コースでもオーバルでも同じことで、どれだけ表現豊かにエンジニアへ説明できるかが重要であり、自分好みのマシン・セットを早く作り上げる上で欠かせないポイントです。
HVMレーシングでシモーナのエンジニアを担当するのは、マイケル・キャノン。以前同チームでチャンプカー時代にロバート・ドーンボスを優勝に導き、その前はフォーサイス・レーシングに所属して数多くの勝利を手にしている優秀なエンジニアです。ロング・ビーチの練習走行時にシモーナとマイケルの無線交信を聞いてみたのですが、シモーナのフィードバックはとてもルーキーとは思えない内容でした。何よりも感心した部分は、走行中における彼女の伝え方で、とても落ち着いたトーンで話をしていました。これまでに大勢のドライバーの無線交信を聴いてきましたが、彼女が話す内容に関しても、非常にレベルが高いと断言できます。
開幕戦のブラジルでは、ピット戦略でコーション中にいきなりトップに踊り出ましたよね。その時も落ち着いた走りでベテラン・ドライバーたちをおさえ、インディ関係者に大きなインパクトを与えました。ロード・コースではセッション中に度々トップ10へ進出することもあり、モニターを見ている現場のスタッフが「She’s a REAL DEAL!」(彼女はホンモノだ!) と呟くのをよく耳にします。
潤沢な開発資金が必要なカンザスやテキサスのようなハイ・バンク・オーバル・レースにおいて、十分な予算がない彼女のチームは苦戦を強いられています。しかし逆に見れば、それでもシモーナは中位グループまで追い上げることがあり、マシンのポテンシャルを最大限に活かしているところに彼女のすごさがあると思います。
以前、ヒデキやTakuとシモーナの話をしたことがあるんですが、二人とも「走りに、女っけが無い!」(笑)なんてことを言ってましたよ!?! これはダニカと比較してのことで、ダニカのハンドル操作は少し女性らしいというか、慎重で繊細なターン・インのスタイルなんです。もちろんそれが悪いということではなく、テキサスでも2位に入りましたよね。
シモーナの場合、まさに豪快!って感じで、ターン・インの仕方は男とまったく変わらないということです。開幕戦のブラジルでシモーナにインタビューをした時のビデオをご覧いただいたと思いますが、絶対的な自信を感じさせる彼女のオーラと肩幅の広さ・・・、もうただ者じゃないなとその時に思いました!
そんなシモーナちゃんですが、予選から散々だったテキサスではクラッシュして炎に包まれ、マシンからぎりぎりで脱出。ヘルメットが少し溶けてしまうほどの熱さだったものの、次のアイオワは問題なく参戦できるようです。体が無事で何よりですが、リタイアに終わってしまったことで現在のルーキー・ランキングはマリオ・ロマンチーニに続く2位。これから彼女がどんな追い上げを見せてくれるのか、ルーキー・オブ・ザ・イヤーの戦いも、最後まで目が離せないバトルが続きそうですよ!