Roger Yasukawa's

ホイールベースのルール改正と風に悩まされたカンザス

画像セント・ピーターズバーグからロング・ビーチと市街地レースが続いたインディカー・シリーズは、ようやくオーバル・ラウンドに突入。第3戦が行われたカンザス・スピードウェイの場所は、アメリカ本土のほぼど真ん中にあります。2007年からは5月に行われるインディ500の直前に日程が移動され、チームにとってはインディ500に向けてのオーバル・セットを見極める、重要なレースとなっています。

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カンザス・スピードウェイのような1.5マイルのハイバンク・オーバルは、ほとんどアクセル全開のままでレースをします。トラフィックの中に入っても、いかにアクセルを戻さずにいれるかが勝負の決め手となります。そこで、トップ・チームと下位チームの差を少なくするために、リーグは今シーズンから新ルールを導入。それはホイールベースの一本化です。

今まではダラーラのオプションとして、118、120、そして122インチのホイールベースを選ぶことができたのですが、コスト削減やレース中のマシンの安定化をはかるために、122インチのみのホイールベースを使用することが義務付けられました。基本的にホイールベースはフロント・サスペンションの長さで調整していたのですが、同じ長さに統一することによって持ち運ぶパーツを減らす事ができ、チームにとってもコスト・ダウンに繋がります。

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これはドライバーからしてみると、かなり大きなメリットになるはずです。その最大の理由としては、ホイールベースが長くなればダウンフォースが増えて車が安定するからです。簡単に例えると、わずか2インチ(約5センチ)ずつですが118インチは軽自動車、120インチはセダン、そして122インチはミニバンに乗っているぐらいの違いがあります。安定感が高くなる=コーナリング時の安心感も上がるというわけです。

これまでほとんどのトップ・チームは、常にフル・スロットルで走るカンザスのようなオーバル・コースで、ロング・ホイールベースだとドラッグ(空気抵抗)も増えてしまうので、なんとか短いホイールベースで戦えるようにセッティングを作ってきました。予選の時もそうですが、単独で走る場合はショート・ホイールベースが適しています。しかしレース時となると、トラフィックの中で乱気流に振り回され、なかなか良いバランスを保つことができません。ほとんどの下位チームは練習走行の限られた時間内でクルマのバランスを良くするしかないので、あえて最初から122インチのロング・ホイールベースで戦ってきたのでした。それだけに下位チームにとってもメリットある変更といっていいでしょう。よりイコール・コンディションに近づいたわけです。

ホイールベースを統一したことによって、今年のオーバルのレースはさらに団子状態でレースが行われ、下位チームにもチャンスが訪れる・・・っと、思っていたのですが、いざ蓋をあけてみるとカンザスでのレース内容は予想ハズレ。まず驚いたのは、ほとんどのドライバーが予選後に「車をルーズ(オーバーステア)にしすぎて、タイムロスをした!」とコメントをしていた点です。122インチのホイールベースで走ることによって、かなり安心感があったせいか、予選では少しでも路面との抵抗を減らそうとしたセットでルーズになってしまい、逆にタイムロスとなったみたいです。

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そんな中でフロント・ローを獲得したニューマン・ハース勢にはビックリ! 恐らくパドックにいた全員が唖然としたのではと想像します。去年のダニカ担当だったエンジニアや、長年ガナッシでクルー・チーフを担当したミッチ・デイビスを獲得したニューマン・ハースは、今年は本気です! 開幕前のオープン・テストではミルカちゃんも含めて、3台体制の予定だったのを、あえて2台に絞ったところをみると(契約時に何が起きたかはわかりませんが・・・)、今年は気合いが入っていると感じます。

予選の結果を見た限り「こりゃ〜レースが面白くなるぞ〜」と期待した割りに、意外と内容は淡々としていて、最初の2戦ほどエキサイトしませんでしたね。けれどそれはあくまでも外から見た話で、レース中、全ドライバーはかなり必死だったはずです!!

決勝日の前日から天候は荒れていて、レースデイには風速35マイル(56km/h)もの強風が吹いていたのです。約350km/hの世界で56km/hの突風が吹くと、マシンは物凄い状況ですっ飛んでいきます。はい、もう一度いいますが、350km/hでいきなり、1車線分くらい飛ぶ感じですかね。実際に、まだオーバル・レース経験の少ないグラハム・レイホールも、「こんな経験はしたことがない」ってぼやくぐらい、焦っていたのでした。

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では、強風の日のオーバル・コースの攻略法ですが、風を見方につけることですね。風向きにもよりますが、強風のコンディションでもほとんどの場合はターン1〜2、もしくはターン3〜4のどちらかだけに、ハンドリングへの影響がでてきます。カンザスのレースではターン3〜4の区間で、アンダーステアに悩まされるドライバーが多くいたようですが、このターン3〜4にセッティングをあわせると、今度はターン1〜2がルーズになる恐れがでてきます。そのうえ、ただでさえ風でアンダーステアの出るターン3〜4区間を、路面がバンピーなハイサイドから相手をパスするというのは、そうとうルーズ(オーバーステア)なクルマで我慢して走らなくてはならないということです。

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最終的にレースでトップ8を独占したのは、ガナッシ、ペンキー、そしてAGR勢。オーバルのレースと考えると予想どおりとは言えますが、この日に限っては突風が吹いていただけに、ダウンフォースに頼らず曲がっていけるマシンをもっているチームが上位に食い込んだと言えるでしょう。この結果を見る限り、インディ500でもペンスキー&ガナッシの独占かな・・・、とも思いますが、何が起きるかわからないのがインディ500の魅力です。

僕も連日連夜24時間態勢でインディ500に向けて、チーム&スポンサーとの交渉を頑張っています。今年こそ6年目の出場&去年の苦い思い出へのリベンジのために、なんとか良いシートを確保できるよう頑張りますので、応援よろしくお願い致します!

次回は表になかなか出ない、インディ500の裏話をお届けしましょう!