アメリカン・ル・マン・シリーズ第6戦ライムロックで、アキュラのハイクロフト・レーシングが大逆転で初の総合優勝を飾りました。アキュラにとっては参戦2年目での快挙達成。アキュラが北米レース界に、新たな金字塔を打ち立てたのです。
ついにアキュラがやってくれましたねぇ! 待ちにまった総合優勝を、参戦2年目の第6戦ライムロックで成し遂げてくれました。実際のレースはなかなかスリリングな展開の末の結果となったようです。序盤にハイクロフト・レーシングのスターティング・ドライバーを務めたスコット・シャープが、他車と接触してリヤウイングを破損するアクシデントがあったものの、ピットでクルーが素早い作業ですぐさまクルマをコースに戻し、終盤にステアリングを託されたデイビッド・ブラバムが猛追します。最後はゴールまで残り8分で、同じLMP2クラスの王者ペンスキー・ポルシェの7号車を渾身のパッシング! そのままチェッカーまで突き進んだのです。IRL第11戦ナッシュビルと日程が重なっていたため、この歴史的瞬間に立ち会えなかったのは非常に残念でありましたが、このニュースにIRLの現場もかなり沸きましたよ。ライムロックにはマルコ・アンドレッティがIRLと掛け持ちで出場していたので、どちらかというとマルコの動向の方が気になっていたのですが、終わってみればハイクロフトが勝ち、しかも総合優勝でした。レース前、レース後ともにアキュラが完全に話題を奪っていたラウンドになったと言えます。
それにしても、アキュラ最初の総合優勝がハイクロフトによって達成されるとは、正直言って今シーズンが始まるまでまったく予想だにしていませんでした。昨年から同シリーズのLMP2クラスに参戦を開始したアキュラは、AGR、フェルナンデス・レーシングを含めた計3チームという陣営で臨んでいたのですが、この中でハイクロフトはどちらかというと開発重視のチームというか、初年度からアキュラ勢シャシーARX-01aを積んでいろいろなことを試してきたチームです。一方、同じARX-01aシャシーを昨年から採用していたAGRは、アキュラ陣営のエースチームとして見られていたんですが、いざ蓋を開けてみると2007年シーズンはハイクロフトがランキングでクラス3位とアキュラ勢最上位でフィニッシュ。そして迎えた今シーズンは、インディカーでお馴染みだったスコット・シャープにパトロンのニュースポンサーを迎えて戦力を増強したのです。第3戦ロングビーチでは最後のさいごにペンスキー・ポルシェを抜いてチーム初優勝を遂げ、アキュラ勢としてもデビュー・ウインとなった昨年のセブリング12時間以来となるクラス優勝を達成。総合優勝の下地は十分にでき上がっていたのでした。ホンダのCART参戦同様、たった参戦2年目に総合優勝を果たすというのは、ほんとうに素晴らしい結果です。ミド-オハイオでお会いしたアキュラ関係者の方々も一様にライムロックでの優勝を喜んでいましたが、実際は「ホッとした」というのが本音のようでした。
ハイクロフト躍進のカギはいろいろあるでしょうが、僕は大きくふたつあると思います。まずひとつ目、これはアキュラ勢全体に言えることなのですが、エンジンのパワーアップ以上に新シャシーARX-01bがかなり戦闘力をつけてきたことです。HPDが開発したまったく新しいシャシーは、デビューイヤーとなった昨年もスピード面ではライバルのポルシェ・スパイダーRS勢と遜色ないほどのポテンシャルを見せていました。しかし整備性が悪く、レース中にパーツなどを損傷したとき、ピットで交換をする際にかなりの時間が掛かっていたのです。「シャシーの整備性は今年かなり改善してきた」とアキュラ関係者が開幕前に語っていましたが、それが見事に証明されたのがライムロックのレースでした。序盤にリヤウイングを破損したとき、ピットで即座に修復ができたのは、この整備性が飛躍的に向上した結果です。ふたつ目はブラバムのスピードで、今年に入ってからのブラバムの速さは際立っていますね。僕は映像でしか見ていませんが、ロングビーチ、ライムロックと終盤にポルシェをパッシングした走りは素晴らしいものがありました。IRLと併催になった先週のミド-オハイオでも、終盤にポルシェの6号車をパスし、7号車に最後まで迫ったのはブラバムの腕があったからこそ。アキュラARX-01bを完全に乗りこなしているブラバムは、間違いなくアキュラ勢のエースドライバーと言えるのではないでしょうか。とてもとても42歳には思えません。
今シーズンから2003年のインディ500チャンピオン、ジル・ド・フェランが立ち上げたド・フェラン・モータースポーツも加え、4チーム体制となったアキュラ勢。2年目となった今年はスピードと信頼性がかなり一体になってきていて、全体的な底上げがなされているようです。新参のド・フェラン・モータースポーツも、ミド-オハイオで参戦4戦目にして見事ポールポジションを獲得するなど、ポテンシャルは十分。残りの3チームにとってもこの結果はかなりいい刺激になったのではないでしょうか。ブライアン・ハータとクリスチャン・フィッティパルディのラインアップを、シーズン途中で解雇したAGRの発表にはかなり驚かされましたが、新加入した元スーパーアグリF1でお馴染みのフランク・モンタニーは、今回のミド-オハイオで衝撃的なスピードを見せていましたし、今後注目していきたいドライバーです。堅実なフェルナンデス・レーシングを含め、かなりバランスの取れたいい陣容になっていると思います。とはいっても、同じLMP2クラスのペンスキー・ポルシェは相変わらず強力で、今回のミド-オハイオでの勝利を含め、ここまで7戦中クラス優勝6回と未だにアキュラ勢を圧倒しています。アキュラvsポルシェの争いは今後さらにヒートアップしていくでしょうし、多いに注目していきたいですね。
シリーズ全体から見ると、ライムロックでのアキュラの総合優勝は、非常に喜ばしいものだったというのが大方の見方です。近年多くの自動車メーカーが参戦して活況を見せているALMSですが、総合優勝の顔ぶれは常にLMP1クラスの王者アウディか、LMP2クラスのポルシェといったものでした。ここに、北米で絶大なブランド力を誇るアキュラが加わってくれば、シリーズ全体の知名度もいっきに上がるでしょう。それとともに競争力もますます激しさが増し、結果的にシリーズ全体がより一層スリリングなものとなっていく相乗効果が考えられます。シリーズは残り5戦。今度はぜひ現場で、アキュラの総合優勝を見てみたいですね。